今回は僕が属するLINEグループ『眼科ともだち』の@クラークR.T.さんに記事を提供していただきました。(参加できる眼科関係の医療関係者は僕にコメントか@doctorK1991にメッセージをください!)
クラークR.T.さんは放射線技師でありますが、僕らのグループ『眼科ともだち』に属していただいています。眼科関係者があまり馴染みのない分野にも精通していらっしゃいますので、非常に勉強になり、ありがたいことに今回の記事も提供していただけました。この場を借りて、お礼申し上げます。
皆さんの中には目の周りの怪我をして病院を受診した時
と医者に言われた経験がある方もいるでしょう。それは眼窩吹き抜け骨折の危険があるからです。そこで、今回クラークR.T.さんには、眼窩吹き抜け骨折について書いていただいています。
前半に一般の方向け記事、後半に医療者およびもっと詳しく知りたい方向けの記事があります。最後まで読み、眼窩吹き抜け骨折をマスターしましょう!
一般の方向け
みなさん、目をぶつけたことはありませんか?
「何ともないや」と放っておくと、痛い“目”を見ます。
野球ボールのような大きなものが眼を塞ぐようにぶつかると、目の中の圧力が高まり逃げ場がなくなり、目の奥の薄い骨が骨折してしまいます。この骨折を「眼窩吹き抜け骨折」(ブローアウトフラクチャー)と言います。
目の奥は非常に薄い骨で囲まれているため顔を損傷するようなケガにはこの骨折が起こる恐れがあります。
放っておくと視野障害や目が窪んで美容的な影響が残る恐れがありますが、手術により治すことができます。
年齢には関係がなく、全ての人に起こる可能性があり、オートバイによる衝突では他の外傷に比べ起こりやすいとされています。1)
特に、小学生など小さな子どもは見た目で皮下出血が目立たないため、”white eyed blow out fracture”と呼ばれます。子どもの骨は柔らかいため、骨折部位に組織が挟まれ眼球運動障害が強く出ることもあります。2)
子どもの眼窩吹き抜け骨折は見た目は何ともなく見えても、徐々に子供が目を開けたがらない、眼の周りの皮下出血がある、物が二重に見える、目が凹んだ気がするなどの症状が出てきたらすぐにお近くの眼科にかかるようにしてください。
医療従事者またはもっと詳しく知りたい方

【概要】
眼窩吹き抜け骨折はにぎり拳や野球ボール大の凸面が眼窩開口部をふさぐように外力として作用した場合に、眼窩内圧が急激に上昇し眼窩壁が骨折し発生します。また、眼窩縁に及ぶ直達外力からも骨折が生じうることもあり、単独もしくは複合して発生します。
眼窩縁に骨折を伴わない眼窩壁骨折を純粋型(pure type)と呼び、眼窩縁に骨折を伴う眼窩壁骨折を非純粋型(impure type)と呼びます。
眼窩下壁は上顎洞上壁、内側壁は筋骨洞外側壁、上壁は前頭蓋底、外側壁は顔面骨外側であり、それぞれ上顎洞、篩骨洞、頭蓋内、側頭筋と隣り合います。その内、空洞と隣り合い、比較的骨の薄い下壁、特に眼窩下溝に沿う部分は外力に弱いとされています。
頻度としては下壁、外側、内側、上壁、後壁の順に多いとされています1)。上壁の骨折が眼窩内にいたる場合をblow-in fractureと呼び、この際は眼窩のみならず脳の損傷も視野に入れ検査を行う必要があります。 (脳の損傷については成書にて)
小児の骨折においては骨が柔らかいことを反映し、骨折部位がしなります。そのため、外眼筋や脂肪をトラップし、強い眼球運動障害を呈します。眼窩の腫脹や皮下出血が乏しい割に強い障害がある場合はwhite-eyed blow-out fractureと言い、手術の緊急性が比較的高いと報告があります。
この骨折は
- 小児特有の所見が採れない
- 重症感がない
- 骨片転位が少ない
などの理由から見逃されやすいため注意が必要です。また、トラップされることから血流障害が発生すると外眼筋の壊死、瘢痕化が生じるため機能的予後が悪くなります 2)。保護者への説明も軽く捉えられないよう、厳しく説明する必要があります。
【検査】
画像診断においてはCTが最も望ましい。断面角度は眼窩下縁と外耳孔を結んだ線が視神経と平行になるが現在多くの医療施設で普及しているCT装置は多断面再構成を行うことができます。そのため脳への検査に並行して追加作成しても良いです。
頻発する内側壁と下壁の検出を行うためには横断面Ax、冠状断面Cor、矢状断面Sagの3方向が必要です。1断面のみで検索する場合、骨折線の検出のためにはpartial volume効果により骨折線がマスクされないよう、1mmを下回る元画像があると望ましいです。また、漫然と広い画像視野(FoV)での画像は、検出能を低下させるため眼窩に対してある程度ターゲッティングし拡大させることが望まれます。外傷による異物混入に対してもCTは有用で、3DCTも良い適応となります。
小児の撮影などではモーションアーチファクトを発生させないためにヘリカルスキャンで行うと、同じ実効時間分解能を有していてもアーチファクトが低減するため望ましいとされています3)。また、撮影の際は水晶体被ばくを最低限とするため放射線量が最適化されているので、無闇な拡大はノイズを増加させるだけであるため各施設 CT の撮影・再構成条件 における限界周波数を把握することが望ましいでしょう。
時に先天的内側壁欠損との鑑別は必要です。眼窩内側壁は篩骨洞と接するため眼窩内気腫を伴うことが多いですが、先天的な例は後篩骨洞へは脂肪の脱出は認めず, 血腫や気腫が対象部位にあるかの観察が重要です。その点CTは空気の検出に優れており、眼窩尖部の骨折に至ってはその衝撃により内頸動脈損傷から偽動脈瘤などをきたすことがあり正確な診断には造影 CT Angiographyの撮影が必要です。4)
MRIは眼球・脂肪・外眼筋・副鼻腔間のコントラストを良好に保つため有用です。特に、外傷に伴う血腫の存在はT1 強調像(T1WI)・T2 強調像(T2WI)で継時的変化とともにダイナミックに変化する信号として観察されます。また、外眼筋浮腫もT1WI での腫脹、軽度の低信号化、T2WI 脂肪抑制像で高信号として観察されます。脂肪の変位に至っては T1WI で良好なコントラストで観察できます。
【症状】
眼瞼皮下出血、結膜下出血、鼻出血、複視、眼球陥凹などに加え、眼窩下神経(三叉神経第2枝上顎神経の枝)が傷害され、頬部の違和感を発生することもあります。眼窩下神経は頬部に分布する知覚神経で、同部位が下壁で最も外力に弱い部分で骨折することが多いとされています。
外傷早期には下直筋、下斜筋は骨折部で、ヘルニアや偏位、嵌頓ないし直達外力、浮腫、出血により障害されます。また、晩期には周囲組織の繊維性硬縮がおこり下直筋の弾性が失われることにより、眼球の上転障害が生じ、これらにより複視が生じます。5)
【手術】
機能障害の外科的適応は、圧排または衝突による筋肉の運動制限の認識が重要です。他の機能障害は一般に良性であり、経過観察となります。審美的な変形による外科的治療に関する意思決定に関しては、外科医の意見とは異なる可能性があるため、患者本人の意思決定が重要です。6)
複視に関して
目の運動性が妨げられる場合は可能であれば24時間以内の手術、その他の症状の場合は外科医、専門医、国によって異なります7)。その際、変位した眼窩組織(ヘルニア)の量と外傷による眼窩容積の相対的変化は、手術適応の決定には不十分な予測因子である可能性があります 8)。
衝突による眼の運動制限による複視は緊急事態ではなく、複視と眼の運動性が経時的に改善されない場合は手術が推奨されます. 眼球運動の制限のない複視は浮腫によるものであり、手術の適応ではありません。
目(眼球)の凹みが複視につながるというエビデンスははっきりしていません。とはいえ、陥凹に関して 以下の所見を持つ患者は美容上の変形発生の実質的なリスクがあるため、外科的治療を考慮する必要があります。
- ヘルニアが 1.0ml以上で、下眼窩縁から骨折後端までの骨折距離が 3.0 cm以上の孤立した下壁骨折
- 0.9 ml以上のヘルニアを伴う下内側骨折
審美的に問題のある陥凹が発見された直後に外科的矯正が行われた場合、遅延矯正は早期矯正と同じ審美的結果をもたらすとされています。 9), 10)
眼球位置異常に関する6ヶ月の追跡調査では複合的な眼窩骨折で発生するとされ、再建術後にも検出可能なレベルで発生するとされています。しかし、軽度の位置異常は多くの患者さんにとっては満足のいく見た目に達するとされているのも事実です。 11) 機能においては積極的な視能訓練において75%が完全治癒するという報告 12)もありますが、その詳細については文字量の関係上成書に譲りたいと思います。
放射線技師としての私見
現代では画像検査の性能が急成長しているため、術後における見た目の異常と検査画像上の異常の認識が異なるケースは多いと思います。“見えすぎる”と言えば適切かもしれないませんが、何を所見として拾うかを常に吟味するべきです。一方で、初期の診断は描出能が向上するとともに、X 線のかけ方も進化してます。古い装置より水晶体の被ばくも低下傾向にあります。まずは水晶体の被ばくに関する心配よりも、診断をしっかりすることが重要です。そうすれば、自ずと家族への説得もしやすくなってくるのではと思います。
参考文献
1) Barry Rahman, et al. The Impact of Age, Injury Severity, and Mechanism on Orbital Blow-out Fracture Patterns after Blunt Trauma: An 11-Year Review. Plastic and Reconstructive Surgery. 2018 ;6(8):p49.
2)福島淳一. 小児の眼窩壁骨折(white-eyed blow out fracture について).耳鼻. 2008;54:222-225.
3)藤村一郎 他. 頭部 CT におけるヘリカルスキャンとノンヘリカルスキャンの モーションアーチファクトに関する検討.日放技誌.2011;67(6):p640-647.
4) 阿知波左千子, 他. 眼窩領域における CT,MRI の使い分け. 映像情報 Medical. 2005; 37(6): p578.
5) 成田賢一, et al. 眼窩吹き抜け骨折(blow out fracture).耳展. 2002; 45(1):p68-70.
6) Babak Alinasab, Orbital blow out fracture : to operate or not to operate – that is the question. 2017. https://openarchive.ki.se/xmlui/handle/10616/45878
7) Babak Alinasab, et al. Still No Reliable Consensus in Management of Blow-Out Fracture. Injury. 2014; 45(1):p197-202.
8) I. Babak Alinasab, et al. Relative Difference in Orbital Volume as an Indication for Surgical Reconstruction in Isolated Orbital Floor Fractures. Craniomaxillofac Trauma Reconstr. 2011 ; 4(4): p203-12.
9) Babak Alinasab, et al. New Algorithm for Management of Orbital Blow Out Fracture Based on Prospective Study. [Submitted]
10) Babak Alinasab, et al. Prospective Randomized Controlled Pilot Study on Orbital Blow out Fracture. [Submitted]
11) Johanna Snäll, et al. Does postoperative orbital volume predict postoperative globe malposition after blow-out fracture reconstruction? A 6-month clinical follow-up study. Oral and Maxillofacial Surgery. 2019;23(1):p27-34.
12)椎原久美子 他. Blow out fracture に対する視能訓練の有効性について.日視 誌.1991;19:p127-131.
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