前眼部形成不全とは
眼先天異常のうち主な異常所見が前眼部(角膜・虹彩・隅角)に限局しているものであり、下記疾患をまとめて前眼部形成不全と称する。
前眼部形成不全の疫学
日本で角膜混濁を伴う前眼部形成不全の発症頻度は、出生12000~15000人に1人、年間70~90例程度と推定される。孤発例が多く、常染色体劣性遺伝または常染色体優性遺伝を示す例もみられる。
前眼部形成不全に伴う角膜混濁は、角膜後面の欠損を基本所見とし、胎生6週(第1波)の神経堤細胞の遊走異常に由来する。
片眼がPeters異常である場合に僚眼も約半数でPeters異常であり、20~30%では強膜化角膜、前部ぶどう腫など他の前眼部形成不全を示す。
前眼部形成不全の所見
1.眼所見
細隙灯顕微鏡だけでは観察が困難なため、超音波生体顕微鏡(UBM)や前眼部OCTなどを行うと病型の診断に役立つ。
前眼部形成不全の代表的所見
- Schwalbe線の前方移動
- 虹彩索状物
- 虹彩実質の萎縮
- 角膜後面陥凹
- 角膜後部欠損・混濁
- 角膜混濁部位への虹彩癒着
- 角膜混濁部位への水晶体偏位
2.全身所見
両眼性の症例は片眼性の症例よりも全身合併症を有する確率が高い。20~30%に心血管異常、神経疾患、発達遅滞、全身多発形成異常など多様な全身異常を合併する。発生学的に正中線上の組織の異常が多くみられる。
前眼部形成不全の重症度分類
前眼部形成不全の重症度分類
- Ⅰ度:罹患眼が片眼で、僚眼が健常なもの
- Ⅱ度:罹患眼が両眼で、良好な方の眼の矯正視力0.3以上
- Ⅲ度:罹患眼が両眼で、良好な方の眼の矯正視力0.1以上、0.3未満
- Ⅳ度:罹患眼が両眼で、良好な方の眼の矯正視力0.1未満
※健常とは矯正視力1.0以上であり、視野障害が認められず、また眼球に器質的な異常を認めない状態である。
※続発緑内障などで良好な方の眼の視野狭窄を伴った場合には、1段階以上の重症度分類に移行する。
※視野狭窄ありとは、中心残存視野がGPⅠ/4視標で20℃以内とする。
※幼児などの患者で視力測定できない場合は眼所見などから総合的に判断する。
前眼部形成不全の治療と予後
Peters異常では成長に伴って角膜混濁自体は軽快することが多い。6割以上が0.1未満、4割以上が0.01未満と重度の視覚障害を呈する。
強膜化角膜と前部ぶどう腫では混濁は変化しない。視力予後も概して不良である。ほぼ全例が0.01未満となる。
Peters異常や強膜化角膜では全層角膜移植術(PKP)が施行されることがあるが、術後視力は疾患の重症度に依存することが多い。
また、前眼部形成不全の全般に、学童期から思春期にかけて続発緑内障を生じやすい。そのため、角膜径の測定と非啼泣時の眼圧検査、学童期以降から成人では眼圧検査と視野検査を提案する。
経過観察で確認すべきこと
- 角膜径が新生児は11㎜以上、1歳未満では12㎜以上、全ての年齢で13㎜以上ある。あるいはHaab線がある場合には緑内障を疑う。
- 成人ではC/D比が0.7を超えると緑内障を疑うが、小児のC/D比は小さいので、0.3を超えれば緑内障を疑う。
前眼部形成不全の各論
1.Axenfeld-Rieger症候群
- Axenfeld異常:後部胎生環に索状の虹彩癒着
- Rieger異常:Axenfeld異常+虹彩萎縮
- Rieger症候群:Rieger異常+眼外部異常(歯牙異常、顔面骨異常、臍異常、下垂体病変など)

2.後部円錐角膜
角膜後面中央の内皮形成異常
3.Peters異常

4.強膜化角膜
強膜化角膜は角膜周辺部または全体が強膜のような組織となり白濁する先天異常である。白濁した角膜には血管が進入し、強膜と角膜の境界は不鮮明となる。発生期における角膜と強膜の分化異常に起因し、他の眼異常や全身疾患に合併しやすい。
参考
A. 球状角膜
球状角膜は両眼性に角膜全体が菲薄化し、球状に前方へ突出した状態である。角膜径は正常だが、強膜の菲薄化を伴うことが多い。
B. 小角膜
小角膜は水平角膜径が10㎜未満(新生児は9㎜以下)の状態である。胎齢12~20週頃の発達異常に起因し、小眼球、先天白内障、コロボーマなど他の眼異常をしばしば合併し、緑内障を併発しやすい。
C. 巨大角膜
巨大角膜は、角膜径が13㎜以上(新生児は12㎜以上)の状態である。両眼性で非進行性である。
D. 角膜デルモイド

E. 分娩時外傷
鉗子分娩時に眼瞼皮膚上から角膜に外力が加わり、Descemet膜破裂をきたす。片眼性で、眼瞼の腫脹や皮下出血、高度の角膜混濁を認める。受傷後数週~数ヶ月で角膜浮腫は消退するが、角膜内皮面に垂直方向の線状混濁が残り、高度の乱視の原因となる。重症例は視力予後不良である。
5.前部ぶどう腫
参考文献
関連記事
