子どもの近視治療では、単にメガネやコンタクトレンズで見え方を良くするだけでなく、近視そのものの進行をできるだけ抑える近視管理が重視されるようになっています。その方法の一つが、特殊なコンタクトレンズを利用した光学的治療です。代表的なのが、夜間に装用するオルソケラトロジーと、日中に使用する近視進行抑制用の多焦点ソフトコンタクトレンズです。ここでは、それぞれの仕組みや効果、向いている子ども、副作用について解説します。
もくじ
コンタクトレンズで近視の進行を抑えられるのはなぜ?
近視の進行には、眼球が前後方向に長くなる眼軸長の伸びが大きく関係しています。
通常の単焦点眼鏡で近視を矯正した場合、中心部では網膜上にピントが合っていても、周辺部では網膜より後ろ側にピントがずれる遠視性デフォーカスが生じることがあります。
この状態が眼軸長の伸びに関係すると考えられています。
そこで、近視進行抑制用のコンタクトレンズでは、周辺網膜に意図的に近視性デフォーカスを作るような光学設計が用いられています。
代表的な方法が、
・オルソケラトロジー
・多焦点ソフトコンタクトレンズ
です。
仕組みは異なりますが、どちらも眼軸長の伸びを抑えることを目的としています。
オルソケラトロジーは寝ている間に角膜の形を変える
オルソケラトロジーは、特殊なハードコンタクトレンズを就寝中に装用する治療です。
レンズによって角膜中央部を平らにすることで角膜の屈折力を変化させ、朝にレンズを外した後も一定時間は裸眼で見えやすい状態を維持できます。
日中にメガネやコンタクトレンズを使わず過ごしやすいことが大きな特徴です。
そのため、
・スポーツをすることが多い
・日中は裸眼で過ごしたい
・日中のコンタクト装用を避けたい
といった子どもに向いています。
一方、夜間にレンズを装用するため、衛生管理が非常に重要です。
オルソケラトロジーは眼軸長の伸びを約4割抑えた研究も
オルソケラトロジーによる近視進行抑制については、多くの研究が行われています。
代表的なROMIO studyでは、オルソケラトロジーを使用した子どもは、単焦点眼鏡を使用した子どもと比べて、眼軸長の伸びが約43%抑えられました。
研究によって数字には差がありますが、約30〜60%程度の眼軸長伸長抑制が報告されています。
5年、10年といった長期観察でも効果が確認されています。
ただし、治療を始めれば近視が完全に止まるわけではありません。また、若いうちに治療を中止すると、再び近視の進行が速くなるリバウンドが生じる可能性もあります。
そのため、治療中だけでなく中止後も定期的な経過観察が重要です。
多焦点ソフトコンタクトレンズでも近視進行を抑えられる
もう一つの選択肢が、多焦点ソフトコンタクトレンズです。
近視進行抑制用のレンズでは、中央部で遠くを見えるようにしながら、その周囲に近視性デフォーカスを作る特殊な光学設計が採用されています。
例えばdual-focus型では、
・中央部:遠方を見るための度数
・周辺部:近視進行を抑えるための度数
を組み合わせています。
また、焦点深度を広げるEDOFという設計も近視管理に利用されています。
オルソケラトロジーと異なり角膜の形を意図的に変えないため、比較的導入しやすいことが特徴です。
多焦点コンタクトレンズでは眼軸長の伸びが約半分になった研究も
多焦点ソフトコンタクトレンズについても、複数の臨床研究で効果が確認されています。
代表的なdual-focusレンズの研究では、3年間で、
・近視度数の進行:約59%抑制
・眼軸長の伸長:約52%抑制
という結果が得られました。
さらに6年間の長期研究でも、近視進行抑制効果が続いていました。
EDOFタイプについても眼軸長伸長を22〜32%程度抑えた研究があります。
ただし、製品や光学設計によって効果は異なるため、近視進行抑制用コンタクトレンズなら何でも同じというわけではありません。
オルソケラトロジーとソフトコンタクトレンズ、どちらがいい?
どちらが適しているかは、子どもの年齢や近視の程度、生活スタイルなどによって変わります。
オルソケラトロジーは、
・日中裸眼で過ごしたい
・スポーツをする
・保護者が夜のレンズ管理をサポートできる
といった子どもで選択されやすい方法です。
一方、多焦点ソフトコンタクトレンズは、
・夜間装用に抵抗がある
・ハードコンタクトレンズの異物感が苦手
・角膜形状を変化させる治療を避けたい
場合などに選択肢となります。
1日使い捨てタイプであれば洗浄・保存の必要がないため、衛生管理もしやすくなります。
ただし、ソフトコンタクトレンズは日中に装用するため、毎日必要な時間だけきちんと装用できるかが治療効果に影響します。
オルソケラトロジーには感染性角膜炎のリスクがある
オルソケラトロジーで最も注意したい合併症は感染性角膜炎です。
過去には、
・アカントアメーバ角膜炎
・緑膿菌角膜炎
など、視力に大きな影響を残す可能性のある感染症も報告されています。
現在はレンズ素材や消毒方法、診療ガイドラインの整備によって安全性は向上していますが、感染リスクがゼロになったわけではありません。
また、
・角膜上皮障害
・角膜びらん
・アレルギー性結膜炎
・不正乱視
・グレア
・ハロー
などが起こる場合もあります。
特に、正しいレンズケアができない場合や定期受診が難しい場合には、慎重な判断が必要です。
多焦点ソフトコンタクトレンズも感染症には注意
多焦点ソフトコンタクトレンズでは、オルソケラトロジーのように意図的に角膜形状を変化させないため、重篤な角膜障害のリスクは低いと考えられています。
しかし、通常のコンタクトレンズと同じように感染性角膜炎のリスクはあります。
現在は1日使い捨てタイプが中心となっているため、レンズを洗浄・保存して繰り返し使用するタイプに比べ、衛生管理しやすい点は大きなメリットです。
そのほか、
・目の乾燥
・異物感
・充血
・アレルギー性結膜炎
・軽度の角膜上皮障害
などが起こる場合があります。
特殊な光学設計によって、グレアやハロー、コントラストの低下などを感じる方もいます。
どのような子どもに近視進行抑制治療を考える?
コンタクトレンズによる近視管理は、主として近視が進行している小児が対象です。
研究では6〜15歳前後が対象となることが多く、特に近視の進行が速い子どもでは積極的な治療が検討されます。
判断するときには近視の度数だけでなく、眼軸長の変化も重要です。
この記事では、年間0.20mm以上の眼軸長伸長がみられる場合には、積極的な近視進行抑制介入が考慮されることが多いとされています。
そのほか、
・年齢
・現在の近視度数
・これまでの近視進行速度
・眼軸長
・乱視
・角膜形状
・生活スタイル
・本人のレンズ管理能力
・保護者によるサポート
などを総合して治療方法を選びます。
低濃度アトロピンとの併用も研究されている
近視管理では、一つの治療だけで十分な効果が得られない場合があります。
そのため近年は、コンタクトレンズと低濃度アトロピン点眼を組み合わせる方法も研究されています。
オルソケラトロジーと0.01%アトロピン点眼の併用では、オルソケラトロジー単独よりも眼軸長伸長を抑えた研究があります。
一方、多焦点ソフトコンタクトレンズと0.01%アトロピンを併用した研究では、明らかな上乗せ効果が得られなかった報告もあります。
そのため、併用すれば必ず効果が大きくなるとは限りません。
治療効果、安全性、費用、子どもの負担などを考えながら、一人ひとりに合わせて選択する必要があります。
まとめ
子どもの近視管理では、オルソケラトロジーと近視進行抑制用の多焦点ソフトコンタクトレンズのいずれにも、眼軸長の伸びを抑える効果を示す研究があります。
オルソケラトロジーには日中裸眼で過ごせる利点がある一方、夜間装用に伴う感染性角膜炎などに注意が必要です。
多焦点ソフトコンタクトレンズは比較的導入しやすく、1日使い捨てタイプなら衛生管理もしやすいですが、毎日の装用状況が治療効果に影響します。
大切なのは、単に最も効果が高そうな治療を選ぶことではありません。子どもの近視の程度や進行速度、眼軸長、年齢、生活環境、レンズを安全に管理できるかまで確認したうえで治療法を選択することです。
近視進行抑制治療は、効果と安全性の両方を定期的に確認しながら続けることで初めて成り立つ治療といえます。
参考文献
『光学的治療1:コンタクトレンズ』(日本の眼科 97巻8号、2026年)平岡孝浩
