子どもの近視では、単に遠くを見やすくするだけでなく、近視の進行そのものをできるだけ抑える近視管理が重視されています。その方法の一つとして注目されているのが近視管理用眼鏡です。普通の眼鏡と同じように日中装用しますが、レンズには眼軸長の伸びを抑えることを目的とした特殊な光学設計が組み込まれています。ここでは、近視管理用眼鏡の仕組みや効果、日本での位置づけ、使う際の注意点について解説します。
もくじ
近視管理用眼鏡は普通の眼鏡と何が違う?
一般的な単焦点眼鏡は、近視によって網膜の手前にできてしまうピントを網膜上に戻し、遠くを見やすくすることが目的です。
一方、近視管理用眼鏡にはもう一つ目的があります。
中央部分ではしっかり遠くを見えるようにしながら、周辺部分では特殊な光学刺激を目に与え、眼球が前後方向に伸びる眼軸長の伸長を抑えることを狙います。
現在使われている代表的な仕組みには、
・DIMS
・HAL
・DOT
・CARE
・M.O.V.E.
などがあります。
どれも近視管理用眼鏡ですが、仕組みが異なります。
MiYOSMARTに使われるDIMSとは?
MiYOSMARTに採用されているのがDIMSです。
レンズ中央には通常の近視矯正を行う部分があり、その周囲には小さなプラス度数の領域が多数配置されています。
その結果、網膜上には遠くを見るための鮮明な像を作りながら、同時に網膜より手前にも像を作ります。
この近視性デフォーカスと呼ばれる刺激によって、眼軸長が伸びる方向への刺激を減らすことを狙っています。
2年間の臨床研究では、通常の単焦点眼鏡と比べて、
・近視度数の進行:約52%抑制
・眼軸長の伸び:約62%抑制
という結果が報告されました。
さらに6年間の追跡研究でも効果が続いており、眼鏡をやめた後に明らかなリバウンドはみられなかったとされています。
ただし、52%や62%という数字は、その子どもの近視が同じ割合だけ必ず抑えられるという意味ではありません。研究集団全体を比較した平均的な結果として理解する必要があります。
Stellestは点ではなく奥行きのある光を利用する
Essilor StellestにはHALと呼ばれる光学技術が使われています。
レンズの中心部の周りに、小さな非球面レンズレットが同心円状に配置されています。
DIMSのように明確な別の焦点を作るのではなく、網膜より前方に奥行きを持った光の領域を形成します。この領域はVoMDと呼ばれます。
5年間の追跡研究でも近視進行や眼軸長の伸びを抑える効果が確認されており、長期間のデータがあることも特徴です。
次世代型のStellest 2.0では、さらに強い光学刺激を作る設計が採用されています。
ただし、次世代型だから効果が単純に2倍になるという意味ではありません。新しい設計については、今後さらに長期的なデータが必要です。
近視管理用眼鏡にはまったく違う仕組みもある
近視管理用眼鏡は、すべて近視性デフォーカスを利用しているわけではありません。
例えばDOTでは、レンズ周辺に多数の微細なドットを配置します。
目的は、網膜像のコントラストをわずかに低下させることです。DIMSやHALとは違う方法で眼軸長の伸長を抑えることを狙っています。
また、ZEISSのMyoCareにはCAREと呼ばれる円環状の微細な光学構造が使われています。次世代型のMyoActiveでは、視線移動に応じて目に入る光学刺激が変化するM.O.V.E.という設計も開発されています。
つまり、近視管理用眼鏡という一つのカテゴリーのなかでも、各メーカーが異なる方法で近視進行の抑制を目指しています。
どの近視管理用眼鏡が一番効く?
DIMSでは眼軸長伸長約62%、HALでも大きな抑制効果など、研究を見ると数字を比べたくなります。
ただし、この比較には注意が必要です。
それぞれの研究では、
・対象年齢
・近視の程度
・人種
・研究期間
・1日の装用時間
・比較対象
などが異なります。
そのため、異なる研究で報告された数字だけを並べて、このレンズが一番効くと判断することはできません。
近視管理では、製品そのものだけでなく、その子どもに合った眼鏡を正しく装用できるかどうかも重要です。
日本でもMiYOSMARTとStellestが販売開始
日本では2025年以降、近視管理用眼鏡を取り巻く制度が大きく動きました。
2025年6月に眼鏡レンズの制度上の定義が見直され、特殊な光学構造を持つ小児用眼鏡レンズを取り扱うための基盤が整えられました。
さらに日本近視学会による近視管理用眼鏡のガイドラインが作成されています。
その後、
・MiYOSMART:2026年6月1日国内発売
・Essilor Stellest:2026年6月11日国内発売
となり、日本でも実際に選択できるようになりました。
ただし、ここは重要なポイントです。
現時点では、これらの眼鏡が日本国内で近視進行抑制効果について承認された医療機器という位置づけではありません。
海外で近視進行抑制効果が確認されているレンズを、日本国内の制度やガイドラインに沿って使用するという状況です。
近視管理用眼鏡は眼鏡店だけで選ばない
見た目は眼鏡なので、市販の眼鏡と同じ感覚で考えてしまいがちです。
しかし、近視管理用眼鏡は小児の近視進行に介入することを目的として使います。
そのため、まず眼科で、
・本当に近視なのか
・近視がどの程度進んでいるか
・眼軸長がどの程度伸びているか
・弱視や斜視など別の問題がないか
を確認する必要があります。
必要に応じて調節麻痺薬を使った屈折検査も行います。
そのうえで眼科医がレンズの種類と度数を処方し、眼鏡作製技能士などが精密なフィッティングを行う流れが重要です。
レンズの位置がずれると効果にも影響する可能性がある
普通の眼鏡でもフィッティングは重要ですが、近視管理用眼鏡ではさらに重要です。
特殊な治療領域がレンズ内に配置されているため、
・瞳孔中心
・レンズ中心
・頂点間距離
・前傾角
・そり角
・フレームの大きさ
などが適切でなければ、目に入る光学刺激が想定どおりにならない可能性があります。
フレームがずり落ちたまま使う、成長してサイズが合わなくなったまま使うといった状態は避けたいところです。
度数だけ合っていればよい眼鏡ではなく、フィッティングまで含めて近視管理と考える必要があります。
1日何時間かければよい?
近視管理用眼鏡は、基本的に日中できるだけ長く装用することが重要です。
研究のなかには、装用時間が長いほど近視進行抑制効果が大きい可能性を示したものもあります。
そのため、学校の時間だけ使う、黒板を見るときだけ使うといった方法では、研究で確認されている効果を十分得られない可能性があります。
また、近視を少し弱めに矯正する低矯正が近視予防になるわけでもありません。
基本は適切な完全矯正を行ったうえで、特殊な光学設計を利用します。
作った後の定期検査がとても重要
近視管理用眼鏡は、一度作れば数年間そのままでよい眼鏡ではありません。
記事では、作製後2週間程度で、
・見え方
・眼精疲労
・頭痛
・装用時間
・度数
・レンズのセンタリング
・フレームのフィッティング
などを確認する流れが示されています。
その後も3〜6か月ごとに、
・視力
・屈折度数
・眼軸長
・装用状況
・フィッティング
などを確認します。
子どもは成長とともに顔や鼻の形も変わり、近視の度数も変化します。眼鏡が合わなくなることもあるため、定期的な調整は欠かせません。
コンタクトレンズが難しい子どもにも選択肢になる
近視進行抑制治療には、
・低濃度アトロピン点眼
・オルソケラトロジー
・近視進行抑制ソフトコンタクトレンズ
・近視管理用眼鏡
などがあります。
眼鏡には、
・コンタクトレンズの装脱着が不要
・角膜感染症のリスクを避けられる
・低年齢でも導入しやすい
・普段の眼鏡と同じように使用できる
というメリットがあります。
特にコンタクトレンズの管理がまだ難しい低学年の子どもでは、選択肢として大きな意味があります。
一方、レンズやフレームがずれた状態では治療効果への影響が考えられるため、フィッティングと装用状況の管理が欠かせません。
まとめ
近視管理用眼鏡は、単に遠くを見やすくする眼鏡ではありません。普通の眼鏡による屈折矯正に加えて、特殊な光学刺激によって眼軸長の伸びを抑えることを目的とした新しい近視管理法です。
DIMS、HAL、DOT、CARE、M.O.V.E.など複数の光学設計が開発され、海外では近視進行や眼軸長伸長を抑える結果が蓄積されています。
日本でもMiYOSMARTやStellestの販売が始まり、近視管理の選択肢はさらに広がりました。
ただし、近視管理用眼鏡は買ってかければ終わりではありません。眼科で近視の状態や眼軸長を確認し、適切な製品と度数を選び、眼鏡店で精密に作製・フィッティングし、その後も定期的に経過を見ることが重要です。
子どもの近視管理では、薬、コンタクトレンズ、眼鏡のどれが一番優れているかを単純に決めるのではなく、年齢、近視の進み方、眼軸長、生活スタイル、安全に継続できるかを踏まえて、その子どもに合った方法を選ぶことが大切です。
参考文献
『光学的治療2:近視管理用眼鏡』(日本の眼科 97巻8号、2026年)五十嵐多恵
