動眼神経麻痺とは
動眼神経は内直筋、上直筋、下直筋、下斜筋、眼瞼挙筋及び内眼筋を支配しており、動眼神経麻痺が生じるとそれら筋の麻痺による症状が生じる。
動眼神経核は中脳背側の中心灰白質近傍に位置し、動眼神経は左右の動眼神経核から末梢に向かって走行する。動眼神経核は複数の核で構成されており、眼瞼挙筋を支配する核は正中に位置し両側性支配である。また、上直筋亜核は核内で交叉しているため対側性支配である。よって、一側の動眼神経麻痺に加え、中等度の両側眼瞼下垂と対側の上直筋麻痺がある場合は、同側の核性動眼神経麻痺である可能性が高い。
- 大脳脚内側に病変(+)→Weber症候群(動眼神経麻痺+対側の片麻痺)
- 赤核に病変(+)→Benedikt症候群(動眼神経麻痺+対側の錐体外路症状)
- 上小脳脚病変(+)→Claude症候群(動眼神経麻痺+対側の運動失調)
中脳を出た動眼神経は、クモ膜下腔内で左右に走行する後大脳動脈と上小脳動脈の間を通り、腹側に走行して海綿静脈洞に入る。動眼神経と後交通動脈はクモ膜下腔内で並走しているため、内頚動脈―後交通動脈瘤(IC-PC動脈瘤)による圧迫の影響を受けやすい。特に瞳孔の線維は動眼神経線維の中でも内側に位置し、後交通動脈に最も近いため、IC-PC動脈瘤の初期症状として瞳孔散大を呈することが多い。よって、瞳孔散大がある動眼神経麻痺は必ずIC-PC動脈瘤を除外する必要がある。
海綿静脈洞内では、動眼神経は最も上部の外壁に位置し、その下方に滑車神経、三叉神経、外転神経などの神経がある。この部位で動眼神経麻痺を起こすと、他の神経麻痺も合併することが多く、これを海綿静脈洞症候群と呼んでいる。
海綿静脈洞症候群の原因
- 非特異的肉芽腫性炎症(Tolosa-Hunt症候群)
- 内頚動脈海綿静脈洞瘻(CFF)
- 真菌感染(アスペルギローマなど)
- 海綿静脈洞髄膜腫
- 上咽頭癌の頭蓋底浸潤
など
海綿静脈洞を出た動眼神経は、上眼窩裂を通り眼窩内に入る。ここで上枝(上直筋および上眼瞼挙筋の支配枝)と下枝(下直筋、下斜筋、内直筋および内眼筋の支配枝)に分かれるため、眼窩内後方(=眼窩先端部)の病変では動眼神経部分麻痺を生じる。
小児の動眼神経麻痺
1999年の報告では、18歳以下の小児において動眼神経、滑車神経、外転神経麻痺の発生率は10万人あたり7.6人で、そのうち滑車神経麻痺(36%)であり、外転神経麻痺(33%)、動眼神経麻痺(22%)、複数の脳神経麻痺(9%)であった[2]。
小児の動眼神経麻痺は成人の動眼神経麻痺と類似するが、その原因は先天性(20/49例=40.8%)、外傷性(30.6%)、腫瘍性(12.2%)、血管性(8.2%)などがある。外傷や腫瘍など緊急性のある原因が多くを占めるため、MRIなど画像検査が必須である[3]。
動眼神経麻痺の診断
診断は眼球運動障害、眼瞼下垂および瞳孔散大の所見から行う。瞳孔障害のない動眼神経麻痺の大部分は虚血性で、高齢者に圧倒的に多くみられる。高血圧、糖尿病、心臓疾患、透析などの全身既往歴を有する。また、IC-PC動脈瘤等精査のためCTあるいはMRIも併せて行う。
滑車神経麻痺の合併を見るには、細隙灯顕微鏡検査で患者に内下転を指示し、眼球の内方回旋の有無を確認する。内方回旋があれば滑車神経麻痺はないと判断できる。
動眼神経麻痺の治療
原疾患の治療を行う。虚血性が原因の動眼神経麻痺であれば1~3カ月程度で自然軽快することが多く、改善効果促進のためビタミンB群や循環改善薬内服を行うこともある。
Torsa-Hunt症候群のような炎症性の場合は、プレドニン®50~60㎎/日を3日間投与し、その後は適宜漸減する。外傷性であれば回復は比較的困難で、半年経過しても改善なければ斜視手術や挙筋前転術などを行う。
小児の後天性の動眼神経麻痺はまず原因を治療する。その後、自然回復する例が多いため、プリズム眼鏡装用を行い経過観察する。6カ月を経過しても改善がない場合は、観血的治療を考慮する。
参考文献
- 今日の眼疾患治療指針第3版
- J M Holmes et al.:Pediatric third, fourth, and sixth nerve palsies: a population-based study:Am J Ophthalmol.127(4):388-92. 1999
- L A Schumacher-Feero et al.:Third cranial nerve palsy in children:Am J Ophthalmol.128(2):216-21.1999
- あたらしい眼科 Vol38,No.9,1013-1014,2021