全身疾患と目

TS-1の眼への影響

  • TS-1投与者の中には角膜上皮障害涙小管閉塞が生じることがある。
  • TS-1投与直後ではなく、投与後1か月~1年以降と発症期間に幅がある。
  • TS-1中止で改善するが、患者さんの状態によって対応が異なるため、TS-1を使用する科と連携をとる必要がある。

TS-1角膜症と涙道障害

TS-1は5-FUのプロドラッグで、各種癌に適応があり治療に用いられる。テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合薬などがある。そして、他の5-FU製剤(例:UFT、カペシタビンなど)よりも高頻度とされる。

TS-1の眼障害としては角膜上皮障害涙点あるいは涙小管閉塞(鼻涙管や涙嚢は少ない)が知られている。角膜上皮障害は基本的に可逆性変化であるが、涙道障害は不可逆性変化とされる。

その同時合併は約30%とされている。また、S-1とカペシタビン(ゼローダ)では、5-FUの血中濃度の維持がより可能となった。そのため、眼障害を高頻度に生じることとなった。

角膜上皮障害の機序は涙液中に移行したTS-1が角膜上皮細胞の細胞分裂を抑制するためと考えられている。この角膜上皮障害はTS-1投与後1か月から1年以降と発症期間に幅があり、頻度も6〜17.5%と幅がある。また、TS-1により8〜37%は涙道障害も生じうる。

TS-1角膜症および涙道障害の自覚症状

TS-1角膜症で多いのは霧視、視力低下であり、疼痛の訴えは少ない。一方、涙道障害では流涙(18%[])の症状を訴える。

TS-1角膜症の分類

TS-1角膜症は細隙灯顕微鏡所見から4病型に分類できる。

Ⅰ型:角膜前面にSPK様の点状病巣が散在する

Ⅱ型:ハリケーン状のSPKで、特にepithelial crack lineを認める

Ⅲ型:白色隆起病巣を主体とする

Ⅳ型:角膜輪部を基底にした半月~円形状病巣

このうちⅡ型とⅣ型が多い。

その他にも下記の所見がある。

  • Sheet like lesion:上下の角膜輪部からシート状に異常上皮が侵入しているように見える。
  • 結膜充血は目立たず、結膜上皮障害はない。
  • 涙液メニスカスは正常か高い。

TS-1角膜症の治療

人工涙液(ソフトサンティア®やマイティア®など)に加え、必要に応じて0.1%FMを使用し、TS-1の中止で自然治癒(ほぼ100%との報告もある)するが、TS-1投与期間が長期となれば不可逆性の変化となりうる。もちろん、TS-1処方医とも連携をとる必要がある。

治療により、角膜障害は周辺部から改善を認め、完全に上皮障害が消失するまでには数か月間を要する。ただし、角膜障害完治後も予防のため人工涙液を続けることもある。

TS-1による涙道障害の治療

TS-1は他の抗癌薬より難治であり、特にGrade 2以上の閉塞では治療成績が特に不良とされる。そのため、予防的涙管チューブ挿入術が推奨される。閉塞後は涙道閉塞する部位によって治療方針は異なる。涙小管、鼻涙管狭窄の場合はシリコンチューブ留置を行い、TS-1終了まで挿入をする。その他にも、涙小管造袋術、経皮的涙小管再建術、結膜涙囊鼻腔吻合術などが適応となる。Jonesチューブ法の治療成績は90%以上と良好だが、脱落・閉塞・定期交換など課題も多いとされる。

参考文献

  1. クオリファイ15メディカルオフサルモロジー20眼薬物治療のすべて(専門医のための眼科診療クオリファイ)
  2. あたらしい眼科 Vol.38,No.11,p1291,2021
  3. Canalicular and nasolacrimal duct blockage: an ocular side effect associated with the antineoplastic drug S-1
  4. 経口抗がん剤S-1による角膜障害の3例
  5. Adverse Effects of the Oral Anticancer Drug S-1: Lacrimal Passage Impairment and Specific Features of Corneal Epitheliopathy
  6. Prospective study of ocular adverse events induced by S-1
  7. Lacrimal drainage obstruction in gastric cancer patients receiving S-1 chemotherapy
  8. S-1-Induced Lacrimal Drainage Obstruction and Its Association with Ingredients/Metabolites of S-1 in Tears and Plasma: A Prospective Multi-institutional Study
  9. Cancer-associated epiphora: a retrospective analysis of referrals to a tertiary oculoplastic practice
  10. A 16-year study of conjunctival dacryocystorhinostomy
  11. Problems associated with conjunctivodacryocystorhinostomy
  12. Jones’ lacrimal canalicular bypass tubes: twenty-five years’ experience
  13. The treatment of lacrimal apparatus obstruction with the use of an inner canthal Jones tube insertion via a transcaruncular route

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