免疫回復ぶどう膜炎とは
後天性免疫不全症候群(AIDS)患者に対し多剤併用療法を行ったところ、CD4陽性Tリンパ球数の急激な上昇と、沈静化しているサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎既往眼に硝子体炎が生じた。同時期に同様の報告があり、これらを免疫回復ぶどう膜炎(IRU)と呼ぶようになった。
発症機序は不明である。しかし、HAART導入時のCD4陽性Tリンパ球数が<50μlの場合はリスクが高いとされる。その他にも、大きな病巣、シドフォビル硝子体注射などはリスクを高めるとされる。逆に、十分な抗CMV療法はリスクを下げる。
免疫回復ぶどう膜炎の疫学
1999年の前向き研究では、CMV網膜炎とHIV感染を有する患者14名を対象に、抗CMV治療を中止すると、抗CMV治療中止前から14名中12名(89.7%)がIRUに罹患していた。抗CMV治療中止後はそのうち3名のIRUが増悪していた[2]。また、CMV網膜炎を発症していない眼には発症していないことからCMV感染が関連していると考えられる[3]。しかし、現在は抗HIV薬を3剤以上組み合わせて使用する多剤併用療法(combination antiretroviral therapy: cART)がHIV/AIDSの標準的となり、2015年の報告ではIRUは2.2/100人/年となっている[4]
免疫回復ぶどう膜炎の診断
明確な診断基準はないが、下記事項から臨床的診断としていることが多い。
免疫回復ぶどう膜炎の診断
- AIDS患者で、鎮静化しているCMV網膜炎既往眼に眼内炎症が生じていること。
- HAART導入により、抗CMV療法を中止してもCMVを鎮静化するために十分な免疫回復があること。
※CD4陽性Tリンパ球数≧100/μl - 臨床像として病巣近くに硝子体炎(局所、びまん性は問わない)に加えて、前眼部病変(前部ぶどう膜炎、後嚢下白内障など)や後眼部病変(嚢胞黄斑浮腫、黄斑前膜など)を認める。
免疫回復ぶどう膜炎の治療
IRUは未治療で自然寛解する場合もある。残存する病原体に対して治療継続、サイトカイン産生抑制でステロイド全身投与する場合もある。白内障や黄斑浮腫にはそれぞれ疾患毎の対応を行う。
前部ぶどう膜炎に対してはプレドニゾロン点眼を行い、視力低下を伴う硝子体炎や黄斑浮腫に対しては、トリアムシノロンのSTTAやプレドニゾンの短期投与を行う[3]。また、アメリカではフルオシノロンアセトニド硝子体インプラントが、AIDSおよびCMVの既往を有する患者の黄斑浮腫の治療に使用されている[5]。しかし、フルオシノロンアセトニド硝子体インプラントはCMV網膜炎の発症に関連しているため、特に後にCD4+T細胞数が低くなった患者では、抗CMV療法の併用を検討する必要がある。
参考文献
- 眼科学第2版
- Discontinuation of Anticytomegalovirus Therapy in Patients With HIV Infection and Cytomegalovirus Retinitis
- Immune recovery uveitis
- Long-term Outcomes of Cytomegalovirus Retinitis in the Era of Modern Antiretroviral Therapy
- Fluocinolone Acetonide Implant (Retisert) for Chronic Cystoid Macular Edema in Two Patients with AIDS and a History of Cytomegalovirus Retinitis