ぶどう膜とその疾患

ぶどう膜炎と分子標的薬

ぶどう膜炎の病態と分子標的薬の登場背景

ぶどう膜炎の病態は、主にT細胞を介した免疫応答やサイトカインネットワークの過剰活性化により成立します。TNF-α、IL-6、IL-17、JAK/STAT経路など、炎症シグナルの中心を担う分子が特に重要とされ、これらを抑制することで病態を制御できる可能性が示されています。免疫学的知見の蓄積に伴い、関節リウマチや炎症性腸疾患で実績を持つ分子標的薬が眼科領域にも応用されるようになりました。

主な分子標的薬とエビデンス

抗TNF-α抗体

インフリキシマブやアダリムマブは、Behçet病をはじめとする難治性ぶどう膜炎に対して有効性が確認されています。特にアダリムマブは無作為化比較試験(VISUAL 試験)により有効性が示されており、既存治療に抵抗する非感染性の中間部、後部又は汎ぶどう膜炎に対する効能で保険適用となっています。インフリキシマブに関しては、10年間にわたる観察研究により、ベーチェット病によるぶどう膜炎の寛解維持および視力温存効果が示されています。アダリムマブも約3年間でのランダム化比較試験において、再燃率の低下および視力保持に有効とされています。そして、TNF-α阻害薬は感染症リスク、特に結核や帯状疱疹の潜在感染と関連するため、投与前のスクリーニングと感染予防が重要です。

Adalimumab in Active and Inactive, Non-Infectious Uveitis: Global Results from the VISUAL I and VISUAL II Trials

A 10-year follow-up of infliximab monotherapy for refractory uveitis in Behçet’s syndrome

Suhler EB, Jaffe GJ, Fortin E, et al. Long-term safety and efficacy of adalimumab in patients with noninfectious intermediate uveitis, posterior uveitis, or panuveitis. Ophthalmology 2021; 128: 899-909.

日本眼炎症学会TNF阻害薬使用検討委員会. 非感染性ぶどう膜炎に対するTNF阻害薬使用指針および安全対策マニュアル(改訂第2版, 2019年版). 日眼会誌 2019; 123: 697-705.

抗IL-6受容体抗体

トシリズマブ(TCZ)とサリルマブ(SAR)があります。特に、STOP-UVEITIS試験では非感染性中間部・後部・汎ぶどう膜炎に対するTCZの有効性と安全性が示され、視力改善や網膜浮腫の軽減が報告されています。

Primary (Month-6) Outcomes of the STOP-Uveitis Study: Evaluating the Safety, Tolerability, and Efficacy of Tocilizumab in Patients With Noninfectious Uveitis

バミキバルトはTCZやSARとは異なるエピトープ(抗体やT細胞受容体が特異的に結合する部分)を標的にして、IL-6受容体に結合します。本薬は硝子体注射による局所投与を想定して開発されています。第Ⅰ相試験(DOVETAIL試験)では、非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫に対して、網膜浮腫と網膜下液の改善が認められています。現在は第Ⅲ相試験(MEERKAT/SANDCAT試験)が進行中です。硝子体注射は眼内に薬剤を高濃度で届け、全身曝露を最小限に抑えられることから、ぶどう膜炎における分子標的薬の新たな投与経路として注目されています。

Volumetric fluid dynamics using machine-learning augmented analysis in patients with uveitic macular edema receiving vamikibart in the DOVETAIL study

抗CD20抗体

リツキシマブ(RTX)は、キメラ型モノクローナル抗体である。オビヌツズマブ(OBZ)はヒト化抗CD20モノクローナル抗体であり、免疫原性低減による長期での安全性が期待されています。悪性リンパ腫の標準治療薬として広く使用されているが、自己免疫疾患にも有効性が報告されています。ぶどう膜炎においても難治例に対して有効との報告があります。国内ではRTXは多発血管炎性肉芽腫症や顕微鏡的多発血管炎に対して保険適用があり、ANCA関連血管炎の寛解維持療法としても有用とされています。

Rituximab for non-infectious Uveitis and Scleritis

Obinutuzumab as treatment for ANCA-associated vasculitis

IL-17、IL-23阻害薬

IL-17阻害薬にはセクキヌマブおよびイクセキヌマブ、IL-23阻害薬にはグセルクマブがあり、ウステキヌマブはIL-12とIL-23の共通サブユニットであるp40の阻害薬があります。これらの薬剤は、それぞれ対応するサイトカインの活性を特異的に阻害することで、過剰な免疫反応を抑制します。乾癬、関節炎、炎症性腸疾患に対する有効性が確立されており、保険適用があります。ぶどう膜炎に関しては、症例報告や小規模試験において一定の効果が示されてきています。

Bayesian trial of adalimumab versus secukinumab for children with juvenile idiopathic arthritis associated uveitis or chronic anterior uveitis

Two Cases of Successful Ustekinumab Treatment for Non-infectious Uveitis Associated With Crohn’s Disease

JAK阻害剤

代表的な薬剤には、JAK1/JAK2/JAK3をまんべんなく阻害するトファシチニブ、JAK1をより選択的に阻害するウパダシチニブなどがあり、いずれも経口投与が可能です。これらは関節リウマチをはじめとする自己免疫疾患で広く用いられていて、近年では非感染性ぶどう膜炎に対する症例報告や小規模試験においても有効性が示されています。一方で、JAK阻害薬には感染症リスク、特に帯状疱疹肺炎の増加が報告されていて、心血管系有害事象や悪性腫瘍のリスク、血球減少症、脂質代謝異常などの副作用も知られています。

Tofacitinib for Refractory Uveitis and Scleritis in Children: A Case Series

Filgotinib in Active Noninfectious Uveitis: The HUMBOLDT Randomized Clinical Trial

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