この記事では花粉症によるアレルギー性結膜炎と、その対策などについて解説しています。
アレルギー性結膜炎とは
皆さんはアレルギー性結膜炎という病気をご存知でしょうか?
2月から5月にかけて
- 目がパンパンに腫れる
- 目にかゆみがある
- 目が真っ赤に充血している
という患者さんが眼科の外来によくいらっしゃいます。実際、花粉症の中でも春先に生じるスギ花粉症は、毎年かなり多くの方が症状を訴えて来院されます。僕もその1人で、毎年春になると目がかゆくなり、真っ赤に充血します。
アレルギー性結膜炎はどれくらいいるの?
皆さんはアレルギー性結膜炎の患者さんが全国にどのくらいいるか想像がつきますか?
日本眼科医会の調査によれば約5人に1人が目のかゆみを感じ、約15%がアレルギー性結膜炎と診断されています。つまり、我が国では約2,000万人の方がアレルギー性結膜炎に悩まされています。そして、その原因の大半は花粉症だとされています。春先のスギ花粉はもちろん、その他の季節であっても花粉症によるアレルギー性結膜炎を訴える方はいらっしゃいます。
アレルギー性結膜炎にどうしてなるのか
アレルギー性結膜炎は花粉など原因となる物質に対して、即時型アレルギー反応(「Ⅰ型アレルギー反応」と言います) が起きるため発症します。この反応は免疫反応ですから、本来は体にとって有益な反応です。しかし、花粉などに対してアレルギー症状が強く出てしまうと、アレルギー性結膜炎の症状が出てきてしまいます。
季節性のアレルギー性結膜炎と通年性のアレルギー性結膜炎
アレルギー性結膜炎は季節性と通年性とに分けることができます。季節性アレルギー性結膜炎は春夏秋冬など、どこかの期間に限定的に起こるアレルギー性結膜炎で、主に花粉が原因となります。具体的な季節は下記の通りです。
- スギ花粉(時期:1~5月)
- ヒノキ花粉(時期:3~5月)
- カモガヤ花粉(時期:5~7月)
- ブタクサ花粉(時期:8~10月)
2017年の日本眼科アレルギー研究会有病率調査では、スギやヒノキによる季節性アレルギー性結膜炎が37.4%、通年性アレルギー性結膜炎が14.0%であると報告されました。また、季節性アレルギー性結膜炎の有病率は小児から年齢とともに上昇します。
一方、通年性アレルギー性結膜炎はハウスダストやダニなどが原因となり、一年を通してアレルギー性結膜炎症状が起こります。有病率は10代と40代に2つのピークがありました。
Ⅰ型アレルギー反応とは
アレルゲン特異的IgE抗体とマスト細胞との反応により生じます。
IgE受容体のFcεRIを介して特異的IgE抗体とマスト細胞が結合
⇒アレルゲンが特異的IgE抗体と結合
⇒マスト細胞が脱顆粒し、ケミカルメディエーター(ヒスタミン、ロイコトリエン、血小板活性化因子、トロンボキサンA2などなど)を放出します
アレルギー性結膜炎の自覚症状
アレルギー性結膜炎の症状は
- 目の瘙痒感(目のかゆみ)
- 結膜充血(目が赤くなる)
- 流涙(涙が出る)
- 漿液性・粘液性眼脂(白色または半透明の糸を引くような目やに、リンパ球や好酸球がメインで、好中球が少ない。)
- 異物感(目がゴロゴロする)
- 羞明感(まぶしい感じ)
ただ、アレルギー性結膜炎では異物感がよく見られますが、アレルギー性結膜炎らしい症状は目の瘙痒感(目のかゆみ)だけだと言われています。また、季節性アレルギー性結膜炎は鼻炎症状の合併が65-70%と高率です。
アレルギー性結膜炎の他覚所見
- 結膜充血、浮腫がないかを確認する。
- 結膜分泌物中に好酸球があるかを好酸球染色(Hansel染色;エオジノステイン®、Giemsa染色)や血液由来の炎症細胞検出(ディフクイック®など)を用いて確認する。
- MAST、RAST:特異的なIgE抗体を定量的に観察する方法ですが、あくまで全身検索であり、眼局所を反映するわけではない。あくまで参考である。
- 免疫クロマトグラフィー法キット(アレルウォッチ®)は涙液中の総IgE抗体を測定する。感度がアレルギー性結膜炎で約60%、春季カタルで約90%と重症度により異なるが、特異度はほぼ100%である。
- 血清中抗原特異物IgEを定量する。
- 皮膚でのパッチテストを行う。
季節性アレルギー性結膜炎の診断(参考)
自覚症状と他覚症状で臨床診断は可能で、血清抗原特異的IgE抗体陽性または皮膚反応陽性であれば確実な診断ができる。血清IgE抗体は正常か軽度増加となり、涙液中総IgE抗体測定では約60%の陽性一致率となる。
アレルギー性結膜炎の治療
アレルギー性結膜炎の治療の基本は原因物質の除去と目薬です。
アレルギーの原因を取り除くため、花粉症であればゴーグルや眼鏡を付けて目に花粉が入るのを防ぎ、ハウスダストやダニが原因であれば掃除なども併せて行うことが重要です。
しかし、原因を取り除いても症状が改善しないようであれば抗アレルギー点眼薬を使います。それでも改善しないようであればステロイド点眼薬を使用することもあります。
鼻炎症状があれば抗アレルギー薬内服薬が処方される場合もあります。
初期療法
症状が出る前に(だいたい花粉飛散時期の2週間前)から、抗アレルギー点眼薬(特に、メディエーター遊離抑制薬)による治療を始める方法を初期療法と言います。約30%の患者において花粉症症状が生じなかったという報告もある。そうでなくても花粉飛散ピーク時の症状が軽くなるとされています。
0.セルフケア
セルフケア
- 室内ダニの除去:常に室内を清潔にし、室温は20℃以下、湿度は50%以下を保ち、通気性を良くする。
- 花粉防御用眼鏡にし、コンタクトレンズ使用は避ける。
- 衣類は滑りの良い生地でできたものにする。
- 洗眼は水道水ではなく、人工涙液などの目薬で洗う。
1.抗アレルギー点眼薬
抗アレルギー点眼薬はその効果および安全性はほぼ同等だとされる。大きくメディエーター遊離抑制薬と抗ヒスタミン薬があり、抗ヒスタミン薬には即効性が期待できる。ちなみに、メディエーター遊離抑制薬は作用発現までに1~2週間かかるとされる。
a. メディエーター遊離抑制薬
マスト細胞が放出する分子はヒスタミン、セロトニンなど、あらかじめマスト細胞中の顆粒にされている分枝と、ロイコトリエンなどのようにマスト細胞に刺激が入ることにより膜リン脂質の活性化を介して新たに産生される分子に大別される。
メディエーター遊離抑制薬はマスト細胞膜を安定化させることによりこれらの分子の遊離を抑制する。
具体的な薬剤にインタール、アレギザール、リザベン、トラメラス、ケタス、エリックス、ペミラストン、ゼベリン、アイビナールなどがある。
b. 抗ヒスタミン薬(ヒスタミンH1受容体拮抗薬)
ヒスタミンH1受容体で競合作用により、抗ヒスタミン作用を呈する。ヒスタミンH1受容体は神経終末や血管に存在し、掻痒感や充血と関連があるとされているため、これら症状軽減を目的に使用される。具体的な薬剤にリボスチンがある。
c.メディエーター遊離抑制薬+抗ヒスタミン薬
aとb両方の作用を持つ。具体的な薬剤にサジテンやパタノール、アレジオンなどがある。
2.ステロイド点眼薬
ステロイド薬は免疫担当細胞の増殖、分化を抑制し、サイトカイン、ケミカルメディエーター、接着分子発現など幅広い免疫抑制効果、抗炎症作用を持ち、即時相も遅発相も抑制する。
抗アレルギー点眼薬で症状改善乏しい場合、通常0.1%フルメトロン点眼液(0.1%FM)を2~4回/日使用する。しかし、眼圧上昇などの副作用には留意する必要がある。
CL装用者ならアレジオン®を
アレルギー性結膜炎の症状がある方で、どうしてもCLを付けたいという患者さんもいます。基本的にCL装用はしないでほしいですが、希望されたらアレジオン®を処方しています。
防腐剤はSCLを変性させるので使わない、使っても点眼後5分間は再装用しないようにしてもらう必要があります。しかし、アレジオン®であれば防腐剤フリーであるためそのような心配はいりません。もしアレルギー性結膜炎の患者さんでSCLを装用したい人がいれば処方しても良いでしょう。
3.アレルゲン免疫療法(抗原特異的免疫療法)
アレルゲン免疫療法は、アレルギー疾患の原因であるアレルゲンを投与する治療方法である。抗原を反復投することで免疫寛容が誘導され、アレルギー疾患の根治あるいは長期の寛解が期待できる。また、このアレルゲン免疫療法はその投与方法の違いにより、皮下免疫療法(SCIT)、舌下免疫療法(SLIT)、経口免疫療法(OIT)、リンパ節内リンパ療法(ILIT)と呼ばれている。
日本において、2014年にスギ花粉舌下薬、2015年にダニ舌下薬が保険収載された。舌下免疫療法は3~5年間という長い治療期間にわたり、毎日継続しないといけないため、その継続率の低さが海外では問題となっている。また、この免疫療法はアレルゲンに直接曝露するため、アナフィラキシーなどの重篤な合併症を生じることが報告されている。
おわりに
アレルギー性結膜炎の基本は原因の除去です。物理的に花粉などを防ぐために眼鏡をしたり、マスクをする必要があります。また、このコロナ対策下で、毎日マスクや眼鏡をすることが当たり前になったため、花粉症の症状を訴える人が減ると思います。とはいえ、症状が改善しなければ市販薬を用いたり、眼科を受診してください。
参考文献
- 日本眼科学会(目の病気:アレルギー性結膜疾患)HP
- 細隙灯顕微鏡用語活用アトラス事典
- 眼科学第2版
- 点眼薬クリニカルブック
- クオリファイ2結膜炎オールラウンド(専門医のための眼科診療クオリファイ)
- 眼科疾患最新の治療2013-2015
- 角膜疾患−外来でこう診てこう治せ
- 今日の眼疾患治療指針 第3版
- アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン第2版
- あたらしい眼科37(4):383-387,2020
- 眼科と薬剤(2019年9月臨時増刊号)