目の病気

近視のいま―近視のことを正しく知る―

この記事を読んでいるということは、近視という言葉をどこかで目にしたことがあり、近視の情報を知りたい方が多い思います。

はじめまして、眼科医のドクターKと申します。Twitterインターネット記事で、ライターとして目に関する情報発信を行っています。この中で近視の情報も発信していますが、どうしても内容が細切れになってしまい、まとまった情報発信をすることが難しかったです。そこで、近視に関する本を書くことに決めました。

この本は近視について知りたい、一般の方向けの本です。詳しい内容を知りたい方は参考文献を読んでいただくと、近視についてさらに深い知識を得ることができると思います。ご活用ください。

前置きはこのくらいにして、本題に入ることにしましょう。

近視を理解するために知っておくべき目の仕組み

近視を理解するためには、いくつかの目の構造を知っておくと話が分かりやすくなります。

光は真っすぐ前から目に入り、角膜、水晶体を通り、網膜に像が映ります。網膜に映った像は視神経を通り、脳へとその情報が伝わります。

近視ってなに?

近視は、目が前後方向に長くなり、目に入った光のピントの合う位置が、網膜より前になっている状態です。

網膜よりも前にピントの合う位置があるとき、物を近づければよく見えます。しかし、物を遠ざけると見えづらくなります。

近視はどうしていけないの

近視のために遠くが見えづらいとしても、多くの方はメガネやコンタクトレンズを着ければ見えるようになります。そのため、「どうして近視がいけないの?」という疑問を持つ方がいらっしゃいます。

たしかに、短い期間で考えれば、メガネやコンタクトレンズを着ければ見えづらさは解決します。しかし、長い期間で考えると、近視はさまざま病気に関わる可能性があります。

実際に、近視が強ければ強いほど、白内障や緑内障、網膜剥離になる患者さんが多いという報告があります(参考文献※)。これらの病気は視力を下げる、視野が欠けるといった症状が出て、最悪の場合は失明につながる恐れがあります。

特に、緑内障については失明原因の1位でもあり(参考文献※※)、近視の進行を防ぐことが重要となるのです。

※https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22772022/

※※平成17年度厚労省 網膜脈絡視神経萎縮症調査研究班報告書

近視は増えているの?

ここ数十年で近視は世界的に増加しています。なんと2050年には近視は世界の人口の約半分(50億人くらい)、強度近視は約10%(10億人くらい)いると予測されています(参考文献※)。

特に、アジア圏は近視が多く、日本も例外ではありません。都内1416名の小中学生を対象にした2017年の調査で、近視は小学生で76.5%、中学生で94.9%と報告されました。さらに、強度近視(等価球面度数≦-6.0D)は小学生で4.0%、中学生で11.3%でした(参考文献※※)。

今回の調査は東京都内で行われましたが、スマホやゲームなど近くを見る作業が増えているため、他の都道府県でも近い傾向の可能性があります。

※https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26875007/

※※https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31415060/

近視の原因は?

近視になったり、近視が悪化しうる要素には以下のものが報告されています (参考文献※) 。

  • 遺伝:親に近視の方がいると、子どもも近視になる率が高い
  • 民族性:日本人を含めたアジア人では近視になる率が高い
  • 目の酷使:「目から 30 cm 未満の物を見て作業する」「休憩無しで30分以上本を読む」など

参考文献※:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7803099/

遺伝や民族性を避けることは難しいですが、日頃から近視に気を付け、目を酷使することは控えることはできそうですよね。詳しくは予防方法のところで解説します。

近視の分類は?

近視はその度数の強さで分類することがあります。

ここで勘違いされやすいのは、近視は裸眼視力で分類するのではなく、等価球面度数で分類することです。

等価球面度数は屈折(遠視や近視)の度数と乱視の度数を合わせたもので、どの程度の近視、遠視なのかをざっくりと示す値のことです。等価球面度数はー(マイナス)の値が大きいほど、近視の度合いが強いです。

近視は等価球面度数の値が-0.5D(Dはジオプターと言い、度数の単位です)以上の状態を言います。つまり、-0.5D、-3.0D、-6.0Dはいずれも近視です。逆に、+0.5D、+2.0D、+6.0Dなどは遠視に分類されます。

そして、近視の強さは下の3つに分類されます。

  • 弱度近視:-0.5D以上-3.0D未満の近視
  • 中等度近視:-3.0D以上‐6.0D未満の近視
  • 強度近視:-6.0D以上の近視

この分類で考えると、あなたはどこに分類されますか?今後、この近視の分類はよく登場するので、覚えておいてくださいね。

あなたの近視はどのくらいある?

近視と診断された方は、自分の近視がどの近視に分類されるか気になりますよね。

近視の強さ(D:ジオプトリー)はコンタクトレンズやメガネの度数を確認することで、おおまかにその強さが分かります。

メガネの処方せんやコンタクトレンズの箱を見てください。そこに「ー○.○D」と書いてあれば、それがそのレンズの度数で、近視の強さを表しています。

近視の強さについて復習すると、

  • 弱度近視:-0.5D以上-3.0D未満の近視
  • 中等度近視:-3.0D以上‐6.0D未満の近視
  • 強度近視:-6.0D以上の近視

と近視は分類されます。あなたの近視の強さはいかがでしょうか。ちなみに僕は-5.5Dなので中等度近視です。

ただし、このメガネやコンタクトレンズの度数は、弱めに設定されていることも少なくないので、あくまでも参考程度です。正確な近視の強さについては、眼科などで検査を行いますので、眼科を受診する際に確認するようにお願いします。

あなたは本当に近視ですか?

本当は近視の状態にはなっておらず、検査結果が近視の状態に見える場合があります。それは水晶体の厚みを変える毛様体筋(下図)が過剰に緊張した場合に起こります。水晶体が厚くなると、光の進行方向が変わり、網膜よりも前に焦点を結ぶようになります。これを仮性近視と呼びます。

神経の病気やお薬、外斜視、長い時間近くの物を見続けた後などにみられます。特に、お子さんはこの調節が過剰になりやすく、スマホやタブレットなどを使うお子さんも増えたので、その近視が本当に近視かを眼科で確認すると良いでしょう。

仮性近視かどうかを見分けるためには、サイプレジンという目薬を使った検査を行います。サイプレジンは筋肉の緊張をほぐし、瞳を開く作用があります。数分おきに3回ほど目薬をさし、1時間後に検査を行います。この検査を行うことで、近視が本当の近視かどうかを判別することができます。

検査後、1日ほど経つと自然と元の状態に戻りますが、それまでは焦点が合わずにピンボケの状態になります。また、瞳を開く作用は2-3日ほどで元の状態に戻りますが、それまでは光をまぶしく感じやすくなります。

この他にも、まれではありますが、一時的に幻覚が見えるなどの副作用が出ることがあります。そのため、この検査の後2-3日は大事なイベント(試験や発表会など)を入れないようにしましょう。

参考文献※:https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00005962

近視の進行を防ぐ治療方法

現在、近視を治す方法はありませんが、近視がこれ以上進まなくする治療方法はいくつか報告されています。一方、中にはエビデンスが不十分なサプリメントやストレッチなども多く存在しています。そこで、ここでは5つの治療方法とについて主に解説し、そのほかの治療についても少し触れたいと思います。

1.アトロピン点眼液

アトロピン点眼液は瞳を大きく広げる作用と、毛様体筋の緊張をほぐしてピントを合いづらくする作用を持つ薬です※。世界的に広く使われている治療で、その歴史からアトロピン点眼液の有効性を解説していきます。

参考文献※https://www.myopiasociety.jp/general/care/flow.html

①ATOM-1スタディ

2006年にシンガポールの研究グループが「1%アトロピン点眼液を用いると近視の進行が防げる」ことを報告しました(ATOM-1スタディ)※。しかし、アトロピンは瞳孔を開く作用があるのでまぶしさを強く感じたり、目の調節力を麻痺させるため近くが見えにくくなるなどの副作用が強く出る方がいました。この副作用のため、日常的に使うのは現実的ではなく、目薬を中止すると近視が進んでしまう(リバウンド現象)というデメリットがありました。こうした背景があり、1%アトロピン点眼液を用いた近視予防は普及しませんでした。

参考文献※https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16996612/

②ATOM-2スタディ

ATOM-1スタディで用いた1%アトロピン点眼液はその副作用とリバウンド現象から普及しませんでした。そこで、アトロピンの副作用を軽減するため、アトロピンの濃度を薄めることが考えられました。しかし、アトロピンを薄めれば近視の進行を予防する効果は下がることが予想されます。それを検証するため2012-2016年にシンガポールでATOM-2スタディが行われました※。

ATOM-2スタディでは、-2.0Dより近視が強い6-12歳のお子さんを対象にしています。0.5%、0.1%、0.01%の濃度のアトロピン点眼液を用いて、合計5年間の近視の進行を抑える効果と副作用、リバウンド現象などが評価されました。その結果、最も濃度が薄い0.01%アトロピン点眼液はまぶしさ、近くが見えにくいなどの副作用をほとんど認めず、近視の進行を抑えることが分かりました。さらに、0.01%点眼液を中止した後も、近視が進行してしまうリバウンド現象はありませんでした。

参考文献※https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21963266/

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24315293/

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26271839/

③LAMPスタディ

しかし、ATOM-2スタディはプラセボ群(アトロピンが含まれていない点眼液を用いた群)の結果がなく、ATOM-1スタディと異なる方法で評価していた点もあったため、それを補うような研究が必要でした。

この補充を行った研究がLAMPスタディです※。LAMPスタディでは、-1.00Dより近視が強い4-12歳のお子さんを対象にしています。そして、0.05%、0.025%、0.01%のアトロピン点眼液とプラセボ群とを比較して、度数や目の前後長から近視の進行を評価しました。結果は、アトロピン点眼液の濃度が濃いほど、近視の進行は抑えられていることが確認されました。

参考文献※https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30514630/

④ATOM-Jスタディ

今まで解説した研究はどれも海外で行われた研究でしたが、2019年に日本ではATOM-Jスタディが行われました。ATOM-Jスタディは国内の7つの大学による合同研究で、等価球面度数(近視に乱視の度数を加味した度数です)が-1.00~-6.00Dの6-12歳のお子さんを対象にしています。

詳細な報告はまだ先になるようですが、一部分かっていることとして、0.01%アトロピン点眼液とプラセボ群とで比較して、度数や目の前後長から近視の進行を評価しました。LAMPスタディでは1年間の比較でしたが、ATOM-Jスタディはより長い2年間の比較しても、0.01%アトロピン点眼液を投与した方が近視の進行を抑えることが分かっているそうです※。

参考文献※https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnjvissci/40/4/40_40.95/_pdf/-char/ja

アトロピン点眼液の適応

ガイドラインなどによる明確な適応が示されてはいません。ATOM-1スタディからATOM-Jスタディまでの報告の研究対象になったお子さんは4~12歳なので、その年齢で処方する病院もあります。しかし、近視の進行は成人頃まで続くので、12歳以降の年齢でも処方している施設もあります。

また、ATOM-1スタディからATOM-Jスタディまでの報告の研究対象になった近視度数は中等度近視(-6.00D )までなので、軽度近視あるいは中等度近視のお子さんに処方することが多いです。

そして、定期的な眼科通院が可能なことも重要な適応条件です。定期的な通院をすることで、アトロピン点眼液の効果があるのか、問題なく点眼液を使えているかなどが分かります。ある程度の期間使っても効果が無かったり、副作用があったりすれば、アトロピン点眼液の中止、他の治療方法への変更も考えられます。

アトロピン点眼液のメリット・デメリット

上で示した報告からも分かるように、濃度が低いアトロピン点眼液(0.01%)は副作用やリバウンド現象が少なく、近視の進行を抑える効果が期待できます。目薬であるため管理が簡単なこともメリットの一つでしょう。

一方で、アトロピン点眼液には副作用もあります。特に、瞳を大きく開く作用があるため、まぶしさを強く自覚する場合があります。しかし、これは数時間で元に戻るため、大きな心配はいらないでしょう。また、目薬に対するアレルギー反応なども出る場合があり、程度によっては目薬を継続使用することが難しくなります。

2.オルソケラトロジー

オルソケラトロジーは、睡眠時に着けるハードコンタクトレンズで、一時的に角膜の形を平らにして裸眼で見えるようにする治療方法です。ハードコンタクトレンズを外しても、一定時間は効果があるため、日中に裸眼で過ごすことが可能になります。

さらに、このオルソケラトロジーは近視を抑える効果があるとされています。

オルソケラトロジーは2005年以降、さまざまな国から多くの論文が出されました。2016年には9つのオルソケラトロジーに関する論文のメタ分析(いくつかの論文を分析したもので、信頼度が最も高いとされる分析方法)が発表されました※。

このメタ分析では、オルソケラトロジーが近視の進行を抑える確率は24-63%とされ、特にアジア人の方が白人よりも近視を抑える効果が大きいことが示されました。また、中等度近視~強度近視の方が弱度近視よりも近視を抑える効果が大きいことも分かりました。

参考文献※https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26237276/

さらに、5年間、10年間の研究でも近視を抑える効果が確認されており、重大な合併症はないと報告されています※※、※※※。

参考文献

※※https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22577080/

※※※https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29691927/

しかし、オルソケラトロジーがなぜ近視の進行を抑えるのか、現時点では明らかになっていません。

オルソケラトロジーのデメリット

オルソケラトロジーは一般的なコンタクトレンズと同じように、適切に管理する必要があります。コンタクトレンズによるドライアイや感染症などの原因になることもあるため、オルソケラトロジーの使用には親御さんの協力が最も重要です。特に、コンタクトレンズによる感染症は視力低下や失明の原因にもなりかねません。眼科医の指導には、必ず従うようにして下さい。

3.アトロピン点眼液とオルソケラトロジーの併用

アトロピン点眼液とオルソケラトロジーを併せて使うと、より近視が抑制されたという報告があります※。特に、近視が軽度である(弱度近視である)場合は、オルソケラトロジーだけを使用する場合よりも、アトロピン点眼液を併用した方が近視の進行を抑える効果が強いようです。これはアトロピン点眼液とオルソケラトロジーが違った経路で近視を抑えるためと考えられています。この報告は1年間と短い期間ですが、今後はより長い期間での報告や、アトロピン点眼液だけを使った場合との比較などの報告が出てくることが期待されます。

参考文献※https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29974278/

4.多焦点(遠近両用)ソフトコンタクトレンズ

通常のソフトコンタクトレンズの場合は網膜の周辺では光の焦点が奥側になります。しかし、多焦点ソフトコンタクトレンズを用いると、網膜周辺に当たる光の位置が手前に調節されます。そのため、多焦点ソフトコンタクトレンズは近視の進行を抑える効果があると考えられています。

多焦点ソフトコンタクトレンズはさまざまな国で研究されていて、アメリカ※などでは、単焦点メガネ(通常のメガネ)と比べると近視の進行を抑える効果があると報告されました。しかし、2014年の日本人を対象とした研究では、10-16歳の24名を2年間追跡調査したところ、単焦点コンタクトレンズ(通常のコンタクトレンズ)と比べると明らかな差はなかったと報告されています※※。

※https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28737608/

※※https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25284981/

多焦点ソフトコンタクトレンズに関しては、使用したコンタクトレンズの種類や人種、対象年齢、研究期間の違いなどがあり、近視の進行を抑える効果がある、ないとは言えません。とはいえ、多焦点ソフトコンタクトレンズが有効な症例はありますし、ソフトコンタクトレンズを使っているお子さんであれば、その負担は少ないと思うので選択肢の一つにはなると思います。

多焦点ソフトコンタクトレンズのデメリット

ソフトコンタクトレンズと同じで、正しく保存・管理する必要があります。適切な使用ができないと、ドライアイや感染症など目の病気になる恐れがあります。学校などでコンタクトレンズが外れてしまっても、正しく洗浄、消毒、付け外しができるよう、自分で管理ができる年齢になってから使うのが望ましいでしょう。

5.特殊なメガネ

多焦点ソフトコンタクトレンズと同じ原理ですが、網膜の周辺では光の焦点が奥側になります。累進(るいしん)屈折力メガネや非球面レンズを用いると、網膜周辺に当たる光の位置が手前に調節されます。そのため、これら特殊なメガネは近視の進行を抑える効果があると考えられますが、実際には効果は十分ではないようです。

A.累進屈折力メガネ

累進屈折力メガネは、メガネのレンズに度数グラデーションを付けて、1つのメガネで近くも遠くもよく見えるようしたメガネです。累進屈折力メガネは、中心から下方に徐々にレンズのパワーが上がっていきます。老眼鏡がこの累進屈折力レンズに当たります。

2011年に報告されたシステマティックレビュー(多くの研究結果を集めて分析したもの)※によれば、累進屈折力メガネは近視を抑える効果はあるのですが、その効力は弱いとしています。そのため、近視を抑える治療として推奨することはできないようです。

※https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4270373/

B.特殊非球面レンズ

RRG(Radial Refractive Gradient)レンズなどの特殊非球面レンズは、中心から同心円状に度数のパワーが上がります。さまざまなタイプのRRGレンズのうち、MyoVision®に用いられているレンズだけは、親に近視がある6~12歳の子どもに絞れば単焦点メガネ(通常のメガネ)よりも近視を抑える効果が見られました※。

参考文献※https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4696394/

ところが、2018年に日本で行われた研究では、少なくとも片方の親が近視である、6-12歳の-1.5D~-4.5Dのお子さんを対象としていますが、MyoVision®で近視の進行を抑える効果は確認できませんでした。

累進屈折力メガネや非球面レンズを用いたメガネの近視の進行を抑える効果は十分ではないですが、目薬やコンタクトレンズと異なり、副作用や合併症がほとんどないと思われるのでお子さんには使いやすいです。しかし、日本での治験が行われていない、あるいは成長に合わせてメガネを作り直す必要があるため、お子さんに対して取り扱っている眼科は調べた限りはありませんでした。

その他の近視の進行を抑える治療

バイオレットライトやレッドライト治療法、クロセチンなどで近視の進行を抑える効果が期待されています。これら治療方法については、今後の改訂版で取り上げようと思います。

いくつかの近視の進行を抑える治療方法を挙げましたが、2022年12月時点では保険適応の治療はありません。つまり、診察や治療全てが自費になるため、少し高額になってしまいます。しかし、自由診療だから効果が乏しいわけではないので、上に挙げた治療を行っている眼科医に相談して決めていただくことをおすすめします。

その他にできる近視予防方法

1.近くを見る際は休憩を入れる

「そんなに近付けて本を読んだり、ゲームをしたら目が悪くなる」と言われたことがある人も多いと思います。僕も子どもの時によく言われました。

実際、2015年に発表されたシステマティックレビューで、近くを見る作業の時間が長いほど近視になりやすくなることが報告されました※。

※https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26485393/

また、目から30㎝よりも近づけて読書やスマホ、ゲームを行ったり、それらを30分よりも長い時間行うことは近視を進行させる恐れがあります※※。

※※https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18579757/

以上のことから、近視の進行を抑えるために、読書やスマホ、ゲームをする際は、30㎝以上(A4の紙の長い方がだいたい30㎝です)離して見るようにしましょう。また、30分に1回は目を休めるため、できるだけ遠くを見るか、目を閉じて休むようにしてください。

2.理想は2時間以上!外で遊ぶ時間を増やしましょう

さまざまな報告から屋外活動(外で遊ぶこと)は近視を抑える効果があると期待されています。

例えば、シドニーの6歳と12歳のお子さんを対象にした2008年の研究※では、12歳のお子さんのグループでは外で遊ぶ時間が短く、近くを見る時間が長いほど、お子さんは近視になりやすかったと報告されました。また、近くを見る時間が長くても、外で遊ぶ時間が長ければ近視の進行を抑える効果がありました。この報告では2時間以上の屋外活動が有効なようです。ところが、6歳のお子さんのグループではそのような関連は見られませんでした。

※https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18294691/

「なかなか2時間以上も外で遊ぶのは難しいです」

たしかに、日中に幼稚園や学校に行かせていると、特に日が暮れるのが早い冬などは2時間確保するのは難しいでしょう。中国広州市の6歳のお子さんを対象にした2015年の研究※※では、通常の活動に学校での屋外活動を40分追加すると、その後3年間は近視になりにくくなったと報告されました。もちろん、3年間なりにくくなっただけで、より長い期間で見たら結果があまり変わらない可能性もあります。しかし、2時間よりも短い時間であっても、近視を抑える効果は期待できそうです。

※※https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26372583/

また、台湾の小学校1年生のお子さんを対象にした2018年の研究※※※では、近視のお子さんも、近視でないお子さんも近視の進行を抑えることが報告されました。さらに、強い日光を浴びる屋外活動が必要なわけではなく、日かげなど弱い光であっても近視の進行を抑えることが分かりました。

※※※https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29371008/

このことから、外で遊ぶことは近視を抑える効果が期待できると言えそうです。特に、外で2時間以上遊ぶことが近視を抑える効果があると思われますが、それよりも短い時間であっても近視を抑える効果が期待できます。

ただし、外でゲームやスマホ、読書など、近くを見ていても、近視の進行を抑える効果は期待できませんので注意してください。また、紫外線や熱中症対策のため、常に太陽の下である必要はなく、日かげなどをうまく使って外で遊ぶのが良いでしょう。

根拠のない近視治療方法

近視の進行を抑える治療方法はいくつかありますが、中には根拠がないにもかかわらず誇大広告されている治療方法もあります。

超音波や低周波を発生する機器、視力回復トレーニング、ブルーベリー、サプリメント(クロセチンは近視の進行を抑える可能性が報告されています※)、遠い所や緑を見るなどは、近視の進行を抑える根拠がありません。

※https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31394821/

よくある質問

質問:暗いところで本を読むと近視は進みますか?

解答:暗いところで本を読んでも近視は進まないとされています。しかし、暗いところで本を読むとき、目と本との距離が近くなるため注意が必要です。また、暗いところで本を読むと、目が疲れるなど眼精疲労の症状が出ることはあります。

近視を進行しやすくするとは言えない行動

  • 睡眠時間が短い
  • 暗いところで本を読んだり、テレビを見たりする
  • メガネをかける

※もちろん、近くで本やテレビを長時間見ていれば、近視は進行する恐れがあります。

あとがき

ここまで読んでいただいたあなたは、昔よりも近視に詳しくなっていることでしょう。しかし、人間は忘れやすいので、1週間くらい経つと忘れてしまっている内容もあると思います。

この本を近視の参考書代わりに使っていただき、何度も読み返してみてください。


オンライン眼科のサポート