ぶどう膜とその疾患

ぶどう膜炎と白内障

ぶどう膜炎と白内障の関係

ぶどう膜炎に対する治療の基本は、眼内の炎症を早期に鎮静化し、視機能障害につながる眼合併症を予防、あるいは進行を抑制することです。しかし、いったんぶどう膜炎が発症すると慢性かつ再発性の経過をたどり、炎症が長引くことで虹彩後癒着や併発白内障、続発緑内障、黄斑浮腫、黄斑前膜といったさまざまな眼合併症を生じます。その中でも白内障は最も頻度が高く、視力低下の原因の35~40%を占めると報告されています。

Degree, duration, and causes of visual loss in uveitis

白内障手術の進歩と課題

1980年代以前は、ぶどう膜炎のある眼に外科的な侵襲を加えることは炎症を悪化させる恐れがあり、手術適応は慎重に判断されてきました。しかし1990年代以降、超音波乳化吸引術やアクリル眼内レンズの導入、周術期における効果的な消炎療法の進歩によって、ぶどう膜炎を有する症例にも比較的安全に白内障手術を行うことが可能になってきました。とはいえ、英国の報告では、ぶどう膜炎既往眼は非既往眼に比べて術後黄斑浮腫の発生頻度が約2.5倍高く、術後視力も不良であることが示されています。そのため、手術適応の判断や術前活動性の評価、周術期の消炎管理は依然として重要です。

Cataract surgery in uveitis: a multicentre database study

手術適応となるケース

白内障手術の適応には、

  • 水晶体起因性ぶどう膜炎
  • 白内障進行による視力低下
  • 白内障で眼底観察が困難になった場合
  • 硝子体手術や緑内障手術と同時に行う場合

などがあります。とくに視力低下を理由に手術を予定する場合には、薬物療法で炎症を十分に抑え、少なくとも3か月以上鎮静化している時期に行うことが推奨されています。

Cataract surgery in patients with Behçet’s disease

Cataracts and uveitis

Outcome of phacoemulsification in patients with uveitis

術前評価の重要性

術前には、白内障以外の視力低下要因を丁寧に確認する必要があります。黄斑浮腫や網膜萎縮、緑内障による視野障害などがあれば、術後の視機能回復には限界があるため、患者さんへの十分な説明が欠かせません。黄斑前膜や黄斑円孔を合併している場合には、炎症が落ち着いた状態で硝子体手術を同時に行うことが望ましいです。

炎症活動性の評価方法

炎症の活動性は、SUN Working Groupが提唱する基準で評価されます。前房細胞とフレアを細隙灯顕微鏡でグレーディングし、前房細胞が0〜+0.5を3か月以上維持することが理想とされています。さらに、レーザーフレアメータを用いた定量的評価も有用で、術前フレア値が高い症例では術後視力が不良となりやすく、予後予測因子として注目されています。

術後に生じやすい合併症

術後合併症としては、虹彩後癒着や後発白内障、術後低眼圧、囊胞様黄斑浮腫、炎症再燃などが挙げられます。特に囊胞様黄斑浮腫は視力予後に直結する重要な合併症で、発生頻度は6~30%と報告に幅があります。リスク因子として、術前の黄斑浮腫既往や僚眼の黄斑浮腫既往、小児例、後部または汎ぶどう膜炎、術前視力不良例が知られています。

Phacoemulsification cataract extraction and intraocular lens implantation in patients with uveitis

Phacoemulsification with intraocular lens implantation in patients with uveitis

Visual Prognosis and Associated Factors of Phacoemulsification and Intraocular Lens Implantation in Different Uveitis Entities in Han Chinese

治療薬の進歩と手術の安全性

近年は生物学的製剤の導入により、Behçet病などの難治性ぶどう膜炎を合併する症例でも比較的安全に手術を行えるようになってきました。しかし、炎症活動期に手術を行った場合には、術後に炎症が悪化し、不可逆的な視機能障害を生じる可能性があります。そのため、術前に十分な消炎期間を確保し、炎症活動性を正確に評価することが術後経過を左右します。

まとめ

ぶどう膜炎併発白内障の手術は、手術そのものの進歩によって安全性は高まってきています。しかし依然として、術前の炎症活動性評価と消炎期間の確保、そして患者さんへの十分な説明とリスク共有が極めて重要です。適切なタイミングでの手術と周術期管理が、良好な視機能予後につながります。

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