眼瞼とその疾患

後天性眼瞼下垂に対するoxymetazoline(0.1%)点眼療法に関する治療指針まとめ

Oxymetazolineとは

Oxymetazolineは交感神経α1アドレナリン受容体部分作動薬であり、Müller筋の収縮を介して上眼瞼を挙上させる作用を有する。また、同様に瞳孔散大筋にも作用するため、軽度の散瞳を生じることが知られている。

米国ではこのoxymetazoline(0.1%)点眼の眼瞼下垂に対する効果が臨床試験により示され¹²)、後天性眼瞼下垂症に対する治療薬として承認されている。これまで眼瞼下垂の治療は主として外科的治療が中心であったが、本薬の登場により薬物療法という新たな治療選択肢が加わった点に意義がある。

今回、本邦においても眼瞼下垂に対するoxymetazoline(0.1%)点眼が承認され、臨床現場での使用が可能となった。しかしながら、本薬は交感神経作動薬であることから、全身状態や併用薬への配慮が必要となる場合があり、適切な患者選択や使用方法の理解が重要である。また、効果の程度には個人差があり、重症例では外科的治療が依然として必要となることもある。

眼科学会が公表する治療指針

眼科学会が発表する治療指針をもとに以下を記す。

1.施行目的

眼瞼下垂に対するoxymetazoline(0.1%)点眼療法とは、眼瞼Müller筋を収縮させることにより、種々の原因により生じた後天性眼瞼下垂を矯正する治療法である。

Müller筋は上眼瞼挙筋腱膜の下方に存在する平滑筋であり、交感神経支配を受けている。本剤はα1アドレナリン受容体に作用することでMüller筋を収縮させ、上眼瞼を挙上させる作用を示す。そのため、本治療は主として軽度から中等度の後天性眼瞼下垂に対する保存的治療として位置付けられる。

なお、本治療は眼瞼挙筋機能そのものを回復させる治療ではなく、薬理学的作用による一時的な眼瞼挙上効果を得るものである。そのため、症例によっては外科的治療が必要となる場合がある。

2.眼瞼下垂の評価

眼瞼下垂の定量的評価に際しては、marginal reflex distance-1(MRD-1、角膜中心から上眼瞼縁までの距離)が有効な指標として用いられる。

MRD-1評価時は、前頭筋の代償的な関与を排除するため、前額部を手指で軽く押さえ測定を行う。正常値は3.5 mm以上とされる。

また眼瞼下垂の評価においてはMRD-1のみならず、以下の項目を併せて確認することが望ましい。

  • 眼瞼挙筋機能(levator function)
  • 上眼瞼皮膚弛緩の有無
  • 眼瞼溝の状態
  • 瞳孔中心遮蔽の有無
  • 両眼差
  • 視野障害の有無

さらに、Horner症候群、動眼神経麻痺、重症筋無力症などの神経筋疾患が疑われる場合には、適切な神経学的評価を行うことが重要である。

3.適応

片眼もしくは両眼の後天性眼瞼下垂患者である。

対象の選定にあたっては、眼瞼の位置を客観的に評価し、加えて患者が自覚する視機能障害や整容上の支障など、臨床症状の全体像を総合的に考慮して判断する。

軽度眼瞼下垂

MRD-1が約2〜3.5 mm程度の場合を軽度とする。
この段階では、上眼瞼が角膜上部の約1/3以上を覆う状態がみられることが多い。外見上は軽度の下垂であるが、患者は「目が開けにくい」「瞼が重い」といった症状を自覚することがある。

中等度眼瞼下垂

MRD-1が約0〜2 mmの場合を中等度とする。
この場合、上眼瞼は角膜上半分の約2/3以上を覆う状態となることが多く、視界の上方が遮られるなどの機能的障害が生じやすい。

重度眼瞼下垂

MRD-1が0 mm以下となる場合を重度とする。
この段階では、上眼瞼が角膜中心を覆う状態となり、視野障害が明らかとなることが多い。

本剤は特に以下のような症例において治療選択肢となり得る。

  • 軽度〜中等度の腱膜性眼瞼下垂
  • 手術適応に至らない症例
  • 手術を希望しない症例
  • 手術までの一時的対症療法
  • 手術後残存下垂

一方で、眼瞼下垂の原因が神経疾患、腫瘍、外傷など、視機能や全身状態に重大な影響を及ぼす可能性がある場合には原疾患の評価・治療を優先し、本剤投与により原疾患が不明とならないよう注意する。

そのため治療の選択においては、oxymetazoline(0.1%)点眼について十分な知識を有する眼科専門医が、内服、点滴、手術など他の治療法について十分検討したうえで、各治療と比較した場合のリスクおよびベネフィットを総合的に評価する。


4.実施医基準

下記①、②を満たす医師とする。

① 日本眼科学会専門医または日本専門医機構眼科専門医の資格を有する。

② 本剤の使用により点状角膜炎、結膜充血、ドライアイ、霧視、眼痛、頭痛を生じる報告があるため、本剤の安全性・有効性を十分に理解し、薬理学的および解剖学的知識を有し、副作用発生時の対処・対応が可能であること。

また、眼瞼下垂の原因疾患の鑑別を適切に行うため、神経眼科的知識および眼瞼疾患に関する十分な臨床経験を有することが望ましい。

5.使用する際の留意事項

① 添付文書の用法・用量、使用上の注意を熟読し、遵守すること。特に投与に注意が必要な患者は以下のとおりである。

心血管疾患のある患者

Oxymetazolineはα1アドレナリン受容体部分作用薬であり、血圧や心拍数に影響を及ぼす可能性があるため、心血管疾患、高血圧、モノアミン酸化酵素阻害薬内服者、または起立性低血圧の既往を有する患者には注意が必要である。

閉塞隅角緑内障の患者

散瞳作用により急性閉塞隅角緑内障発作を誘発する可能性があるため、隅角の評価を十分に行うことが望ましい。

妊婦・授乳婦

妊娠中または授乳中の女性における安全性は確立されておらず、使用の必要性を慎重に評価する必要がある。妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。授乳婦については、治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討すること。

小児

本剤の国内第Ⅲ相試験は18歳以上を対象として実施されており、それ未満の小児を対象とした臨床試験は実施されていない。

② 患者(もしくは代諾者)に対して、本治療の作用機序、効果の持続時間、限界および副作用の可能性について十分な情報提供を行うこと。

③ 適応外の患者、および美容目的には使用しないこと。

④ 本剤投与により原疾患を見落とすことによる診断の遅れを招かないよう十分に留意し、効果が認められない場合には漫然と投与を継続することのないよう、適宜再評価を行う。

6.施行後の経過観察

眼瞼下垂に対する効果のみならず、眼科的観察を併せて実施し、十分な経過観察を行う。眼科的異常が認められた場合には、直ちに精密検査を実施すること。

効果判定においては

  • MRD-1の変化
  • 患者自覚症状
  • 視野の改善
  • 整容面の改善

などを総合的に評価する。

眼瞼下垂の患者では、以下のような症状がみられることがある。

  • 目が開きにくい
  • まぶたが重い
  • まぶたが下がって見えにくい
  • まぶたが下がり、見た目が以前と変化した
  • 視野を確保するために顎を上げたり、眉を上げたりする
  • 肩こり、頭痛、眼精疲労が強い
  • 二重の幅が広くなった
  • 手でまぶたを持ち上げると見えやすくなる

効果が認められない場合は投与を中止し、眼瞼下垂の原因検索を行うとともに、他の治療法について検討する。

また、長期使用に際しては角膜上皮障害やドライアイ症状の増悪などにも注意し、必要に応じて点眼回数の調整や治療変更を検討する。

参考文献

  1. Safety of Once-Daily Oxymetazoline HCl Ophthalmic Solution, 0.1% in Patients with Acquired Blepharoptosis: Results from Four Randomized, Double-Masked Clinical Trials
  2. Association of Oxymetazoline Hydrochloride, 0.1%, Solution Administration With Visual Field in Acquired Ptosis: A Pooled Analysis of 2 Randomized Clinical Trials
  3. 後天性眼瞼下垂に対するoxymetazoline(0.1%)点眼療法に関する治療指針
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