全身疾患と目

テプロツムマブとは?

甲状腺眼症は、バセドウ病に関連して起こることが多い自己免疫性の眼窩疾患です。眼球突出、複視、眼瞼腫脹、眼痛、結膜充血などを来し、見た目の変化だけでなく、視機能や生活の質にも大きく影響します。

従来、活動期の甲状腺眼症ではステロイドパルス療法などの抗炎症治療が中心でした。しかし、眼窩内の炎症を抑える効果は期待できる一方で、眼球突出や外眼筋肥大などの構造的変化に対する改善には限界がありました。

こうした中で登場したのが、IGF-1受容体を標的とする抗体薬テプロツムマブです。日本でも2024年に活動性甲状腺眼症に対して承認され、甲状腺眼症治療の考え方を大きく変える薬剤として注目されています。

h2:テプロツムマブとは

テプロツムマブは、インスリン様成長因子1受容体、IGF-1Rを阻害するヒト型モノクローナル抗体です。甲状腺眼症では、TSH受容体とIGF-1Rが眼窩線維芽細胞の活性化に関わり、ヒアルロン酸産生、脂肪分化、炎症、組織リモデリングを引き起こすと考えられています。

テプロツムマブは、この病態の上流に関わるIGF-1Rを標的とすることで、炎症だけでなく眼球突出や複視といった臨床症状の改善を目指す薬剤です。従来のステロイド治療が炎症の抑制を主な目的としていたのに対し、テプロツムマブは病態そのものに介入する分子標的治療と位置づけられます。

投与方法は点滴静注で、通常は初回10mg/kg、2回目以降20mg/kgを3週間ごとに投与し、合計8回行います。

どのような患者が対象になるか

主に活動性甲状腺眼症が対象です。活動性の評価には、Clinical Activity Score、CASやMRI所見が用いられます。CASでは眼窩部痛、眼球運動時痛、眼瞼発赤、眼瞼腫脹、結膜充血、結膜浮腫、涙丘の発赤・腫脹などを評価し、活動性を判断します。

注意したいのは、すべての甲状腺眼症に機械的に使う薬ではない点です。軽症の活動性甲状腺眼症に対する有効性・安全性を評価した臨床試験は行われておらず、眼球突出や複視によるQOL障害、既存治療への反応、副作用リスク、社会的背景などを踏まえて適応を慎重に判断する必要があります。

臨床試験で示された効果

海外第3相試験のOPTIC試験では、24週時点で眼球突出が2mm以上改善した症例は、テプロツムマブ群で82.9%、プラセボ群で9.5%でした。平均改善量は約3.3mmで、眼球突出に対して大きな改善効果が示されました。

日本人を対象とした国内第3相試験、OPTIC-J試験でも同様に高い有効性が確認されています。活動性かつ中等症から重症の甲状腺眼症患者54例が対象となり、24週時点で眼球突出が2mm以上改善した割合は、テプロツムマブ群で89%、プラセボ群で11%でした。

また、clinical activity scoreの改善、複視の改善、Graves’ Ophthalmopathy Quality of Lifeの向上も報告されており、機能面と整容面の両方に臨床的意義がある治療と考えられます。

効果の持続性と再燃の課題

テプロツムマブは強い治療効果が期待される一方で、治療終了後の再燃は重要な課題です。OPTIC試験の延長研究であるOPTIC-Xでは、治療後に再燃を認めた症例や、初回治療に十分反応しなかった症例に対する再投与が検討されました。

再燃は治療終了後数か月から1年程度で問題になることがあり、治療後も眼所見だけでなく、バセドウ病の活動性や甲状腺機能の管理を継続する必要があります。甲状腺眼症は眼科だけで完結する疾患ではなく、内分泌内科との連携が極めて重要です。

h2:注意すべき副作用

テプロツムマブで特に注意すべき副作用は、聴覚障害高血糖です。

国内試験では、薬剤関連有害事象はテプロツムマブ群で52%、プラセボ群で7%に認められました。高血糖関連事象はテプロツムマブ群で22%、聴覚障害は15%に認められています。

添付文書上も、耳鳴、聴力低下、感音性聴力低下、難聴、耳管開放などの聴覚障害が重大な副作用として記載されています。重篤かつ不可逆的な聴覚障害も報告されているため、投与前後の聴力評価や、耳鳴・耳閉感・聞こえにくさの確認が重要です。

高血糖については、IGF-1R阻害によりインスリン抵抗性が増加する可能性が指摘されています。糖尿病や耐糖能異常のある患者では、投与前から血糖管理状況を確認し、治療中も血糖・HbA1cのモニタリングが必要です。

医療経済的な課題

テプロツムマブは非常に高額な薬剤です。体重50kg以下で総額約1,760万円、50〜75kgで約2,700万円に達すると記載されています。

甲状腺眼症は指定難病ではないため、高額療養費制度を利用しても患者負担が無視できない場合があります。医療費の問題は、治療選択において避けて通れません。効果が期待できる症例を適切に選び、副作用リスクと費用対効果を含めて総合的に判断する姿勢が求められます。

まとめ

テプロツムマブは、活動性甲状腺眼症に対する新しい分子標的薬です。IGF-1Rを標的とすることで、従来治療では限界のあった眼球突出や複視に対して高い有効性を示しています。

一方で、聴覚障害、高血糖、再燃、高額医療といった課題も明確です。今後は、適切な症例選択、治療前後のモニタリング、内分泌内科・耳鼻科との連携、長期成績の蓄積が重要になります。

参考文献

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  6. アムジェン株式会社:テッペーザ点滴静注用500mg 製品情報・FAQ.
  7. テッペーザ点滴静注用500mg 添付文書.
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