もくじ
1.眼科ではFQ系抗菌点眼薬への偏りが非常に大きい
2017年のNDBデータでは、眼科で使用された抗菌薬 24,655,653製剤のうち95.9%がFQ系だったと報告されています[1]。
FQ系は抗菌スペクトラムが広く使いやすい一方、使用が一極化すると眼表面常在菌にも選択圧がかかり、耐性菌の増加につながります。
抗菌薬適正使用では単純に「処方しない」のではなく、
・感染が疑われる症例では初期から十分に治療する
・培養・薬剤感受性検査を可能な限り行う
・改善後は投与回数や期間を見直す
・効果不十分なら漫然と継続せず、原因菌や診断を再検討する
という対応が基本になります[2]。
2.抗菌点眼開始前に、できれば培養を採る
細菌性角膜炎が疑われる場合、初期治療として広域スペクトラムのFQ系点眼を使用すること自体は合理的です。
問題は、臨床所見や検査結果を確認しないまま同じ薬剤を漫然と続けることです。
可能であれば治療開始前、あるいは治療変更前に塗抹・培養検査を行い、結果を待って治療開始を遅らせるのではなく、
検体採取 → 経験的治療開始 → 培養結果で治療修正
という流れを診療の中で習慣化することが推奨されています[2]。
治療開始後2~3日で、
・角膜上皮欠損の拡大
・細胞浸潤の拡大
・前房蓄膿の増悪
・疼痛の増悪
などがあれば、再度の検体採取、薬剤変更、専門施設紹介などを検討します。
3.キノロン耐性Corynebacteriumに注意
Corynebacterium属は従来、眼瞼・結膜嚢の常在菌として扱われることが多かった菌ですが、近年は
・糖尿病
・角膜上皮障害
・ドライアイ
・長期ステロイド点眼
・コンタクトレンズ
・角膜移植後
などを背景に眼表面感染症を起こすことが報告されています[3]。
特に Corynebacterium macginleyi は眼表面との関連が強く、FQ系抗菌薬への耐性が臨床上の問題となっています。
C. macginleyiでは、DNAジャイレースをコードする gyrAのキノロン耐性決定領域(QRDR)変異がFQ耐性に関与します[4,5]。
細菌性角膜炎232例の検討では、Corynebacterium単独検出例が23例、9.9%を占め、その多くがC. macginleyiだったとの報告もあります[6]。
4.白色プラーク状病変ではCorynebacteriumを考える
Corynebacterium角膜炎では、
角膜表面に白色プラーク様病変が付着する「adherent type」
と、
実質浸潤を主体とする「infiltrative type」
が報告されています[6]。
とくに白色プラーク様病変があり、FQ系抗菌点眼を使用しているにもかかわらず改善しない場合には、キノロン耐性Corynebacteriumを鑑別に入れる必要があります。
コンタクトレンズ関連角膜炎では緑膿菌も重要なので、背景や臨床像から起炎菌を推定しつつ、培養で確認するという流れになります。
5.治療では「耐性」だけでなく菌量を減らすことも重要
キノロン耐性Corynebacterium感染では、薬剤選択だけでなく菌量そのものを減らすという発想も重要です。
白色プラーク様病変が付着している場合には、
・スパーテルや綿棒などによる病巣掻爬
・検体採取
・病巣の菌量低減
を同時に行います。
塗抹・培養結果を確認したうえで、セフェム系やアミノグリコシド系などへの変更も検討します。
つまり、
FQが効かない → そのまま別の点眼を追加する
ではなく、
起炎菌を再確認する+菌量を減らす+感受性に応じて薬剤を整理する
という考え方です。
6.コンタクトレンズ関連角膜炎では初期治療を弱めすぎない
抗菌薬適正使用は「弱い治療をする」ことではありません。
コンタクトレンズ関連角膜炎など、緑膿菌感染が疑われる場合には、初期から抗緑膿菌活性を有する薬剤を十分な回数投与する必要があります。
病原体や重症度に応じて十分な初期治療を行い、改善後に投与回数を整理するという考え方です。
複数薬を使用している場合も、軽快後は不要になった薬剤から中止し、併用開始だけでなく「いつ減らすか」「いつやめるか」を意識することがAMR対策になります。
7.ステロイド点眼は「効いてから、慎重に」
細菌性角膜炎では炎症による角膜瘢痕を減らす目的でステロイド点眼が検討されることがあります。
SCUTでは、培養陽性細菌性角膜炎約500例を対象に、モキシフロキサシンを48時間以上使用した後にステロイドを追加しましたが、全体解析では3ヶ月後視力に有意差を認めませんでした[7]。
一方、重症例や早期追加例の一部では有益な可能性も示されています[8]。
そのためステロイドを併用する場合には少なくとも、
・真菌・アカントアメーバ・ヘルペスなどが否定的
・抗菌薬開始後に自覚症状、所見の改善を確認
・翌日以降も頻回に診察できる
といった条件を満たしたうえで慎重に使用します。
疼痛や充血が強いという理由だけで、起炎菌が十分に分かっていない段階からステロイドを開始しないことがポイントです。
8.周術期抗菌薬も漫然と長期投与しない
白内障手術などの周術期抗菌点眼は術後感染症予防として重要ですが、術前から長期間投与したり、術後も必要以上に継続したりすると、眼表面常在菌に耐性化を誘導する可能性があります。
近年は白内障手術後の抗菌点眼期間も短縮傾向にあり、各施設で従来の投与期間が本当に必要なのかを見直すことが勧められています。
9.「抗菌薬を処方しない」ことも治療の一つ
ウイルス性結膜炎、アレルギー性結膜炎、ドライアイに伴う充血など、細菌感染を積極的に疑う所見が乏しい場合には、抗菌点眼を処方しない選択肢もあります。
患者さんが「抗菌薬が出ないと不安」と感じる場合には、
「細菌感染を疑う所見が乏しいため、今回は抗菌点眼薬を使用せず経過をみます。悪化する場合は再診してください」
と、
・診断・判断根拠
・再診の目安
・悪化時の対応
を伝えることが、不安を減らしながら不要な抗菌薬処方を避けるポイントです。
文献
- Nakanishi T, Inose R, Kusama Y, et al. The use of topical antibiotics based on the national database of health insurance claims and specific health checkups of Japan (NDB) Open Data in 2017. Jpn J Infect Dis. 2022;75:177-182.
- 日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン第3版作成委員会. 感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版). 日眼会誌. 2023;127:859-895.
- Aoki T, Kitazawa K, Deguchi H, et al. Current evidence for corynebacterium on the ocular surface. Microorganisms. 2021;9:254.
- Eguchi H, Kuwahara T, Miyamoto T, et al. High-level fluoroquinolone resistance in ophthalmic clinical isolates belonging to the species Corynebacterium macginleyi. J Clin Microbiol. 2008;46:527-532.
- Kato N, Haruta M, Arai R, et al. Relationship between fluoroquinolone resistance and mutations in the quinolone resistance-determining region in Corynebacterium macginleyi. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2024;65:38.
- Inoue H, Toriyama K, Murakami S, et al. Clinical and bacteriological characteristics of Corynebacterium keratitis. J Ophthalmic Inflamm Infect. 2025;15:2.
- Srinivasan M, Mascarenhas J, Rajaraman R, et al. Corticosteroids for bacterial keratitis: The Steroids for Corneal Ulcers Trial (SCUT). Arch Ophthalmol. 2012;130:143-150.
- Ray KJ, Srinivasan M, Mascarenhas J, et al. Early addition of topical corticosteroids in the treatment of bacterial keratitis. JAMA Ophthalmol. 2014;132:737-741.
- 子島良平「眼科領域における抗菌点眼薬の適正使用」『日本の眼科』97巻9号, 2026.
