この記事は眼科実践講座2019の細菌感染に対する抗菌薬の使い方についてまとめた記事です。
眼感染症の概論
眼表面および眼瞼にはブドウ球菌、コリネバクテリウム、カンジダなどの細菌が生息している。細菌は特に眼瞼と皮膚上に多く存在する。眼表面は大きく分けて下記5つの感染防御機構が備わっている。
5つの感染防御機構
- 瞬目による機械的バリア
- 涙液によるwash out
- 涙液中の抗菌物質(リゾチウム、IgAなど)
- 角膜上皮細胞のtight junction
- 常在菌によるバリア
これら感染防御機構の破綻あるいは細菌感染により感染症が発症する。眼科領域の細菌感染症は麦粒腫、眼瞼炎、結膜炎、角膜炎、涙囊炎、眼窩蜂窩織炎、眼内炎などがあり多くが眼表面の常在菌によって起こる。
患者背景からみた起因菌の推定
患者の年齢によって起こりやすい感染症に傾向があり、本講座では3つに分けられて説明されていた。
- 小児:免疫機能が未発達であるため、好中球の貪食能は低く、肺炎球菌やインフルエンザ菌などを鼻咽頭に高率に保菌している。
- 健常成人:誘引のない感染は稀であり、ほとんどが外傷、コンタクトレンズ関連(緑膿菌、アカントアメーバなどがレンズケース内で増殖)、STDである。
- 高齢者:眼瞼炎、涙道通過障害、ドライアイがベースにあり、眼表面からレンサ球菌、緑膿菌が分離される。とはいえ、高齢者の角膜炎の原因菌はバリエーションに富んでいる。
抗菌薬の選択
感染症の原因菌に応じて、ある程度抗菌薬は選択可能である。具体的には、
- グラム陽性菌、起因菌不明→キノロン系+セフェム系
- グラム陰性菌→キノロン系(+アミノグリコシド系)
キノロン系は抗菌スペクトルが広いため、原因菌がいずれの場合もよく用いられる。
グラム陰性菌に対しては有効性は高いが、グラム陽性菌に対してはキノロン系にセフェム系を併用する必要がある。また、キノロン系の第1〜3世代は肺炎球菌に弱いとされるが、この欠点は第4世代では改善されている。
セフェム系は肺炎球菌、コリネバクテリウムには第一選択であり、緑膿菌、モラクセラにも有効とされている。
アミノグリコシド系の抗菌スペクトルは広いが、肺炎球菌とレンサ球菌に弱いとされている。また、角膜上皮障害を生じやすく、必要であれば角膜保護点眼薬を用いる必要がある。特に、高齢者や糖尿病患者は注意が必要である。
抗菌薬の投与回数
抗菌薬の投与回数は濃度依存性か時間依存性かによって投与回数が変わる。
キノロン系やアミノグリコシド系は濃度依存性であるため、回数を増やすよりも濃度を増やした方が良いとされる。よって、これら抗菌薬の点眼回数は1日2〜3回となる。
一方、ペニシリン系やセフェム系は時間依存性であるため、高濃度にするよりも、点眼回数を増やす方が良いとされる。よって、これら抗菌薬の点眼回数は1日4〜6回となる。ただし、抗菌薬は重症度によっても回数が変更されることがあるためこの限りではない。
経口セフェム系を術後内服する病院はあるが、そのバイオアベイラビリティーは低く、第3世代セフェム系は高くても50%(僕の病院が使っているものは16%!低すぎ)である。
全身投与が必要な前眼部感染症大きく2つあげられる。1つ目は淋菌性結膜炎で、点眼薬としてセフメノキシム、点滴としてセフトリアキソン1g単回投与を用いる。2つ目はクラミジア結膜炎で、点眼薬としてキノロン系またはエリスロマイシン、内服薬としてアジスロマイシン徐放剤2g単回投与を行う。
※クラミジアは細胞内寄生菌のため細胞内へ移行しない抗菌薬は無効である。テトラサイクリン>マクロライド>キノロン系の順に有効であり、セフェム系、アミノグリコシド系は無効である。
確実な診断のためには適切な抗菌薬の選択が必要である。
おわりに(個人的感想)
抗菌薬の選択は非常に悩ましいことが多い。年齢と生活環境から、経験的に推測される原因菌に対して治療をされる。日常の診察で角膜培養を取り、原因菌を同定することは現実的ではない。
とはいえ、典型例でない症例や難治例に関しては培養を行う、あるいはできる施設へ紹介することが眼科医の使命であると思う。漫然と治療することで治療が遅れたり、耐性菌を増やす原因になっては本末転倒である。