眼瞼炎とは
眼瞼縁を中心とした炎症性疾患で眼瞼縁炎ともいう。眼瞼皮膚が主体の場合は眼瞼皮膚炎と区別する場合がある。
眼瞼炎の原因
感染性と非感染性に分けられ、感染性は細菌(ブドウ球菌やアクネ菌が代表的)が原因であり、非感染性は脂漏性皮膚炎や酒さ性皮膚炎がある。モラクセラ(Moraxella)は眼角眼瞼炎の原因として重要である。
眼瞼炎の部位による分類
1.前部眼瞼炎
睫毛根部の炎症で、ブドウ球菌性眼瞼炎(潰瘍性眼瞼炎、毛瘡性眼瞼炎)と脂漏性眼瞼炎に分類される。
A. ブドウ球菌性眼瞼炎(潰瘍性眼瞼炎、毛瘡性眼瞼炎)
睫毛の毛根、Zeis腺、Moll腺の黄色ブドウ球菌または表皮ブドウ球菌による化膿性の炎症で、両眼性に眼瞼縁が発赤し、小丘疹、小膿疱、小潰瘍、痂疲化を認める。慢性の結膜炎をしばしば伴い、難治性で、寛解増悪を繰り返す。重症になると、毛嚢が破壊されて脱毛する。
B. 脂漏性眼瞼炎(落屑性眼瞼縁炎)
眼瞼皮膚の皮脂腺の分泌過多による炎症で非感染性である。青年期に多い。眼瞼縁周囲の充血と腫脹で始まり、皮脂腺の分泌過剰により脂漏と鱗屑を生じる。鱗屑は容易に除去可能で、睫毛は脱落しても毛嚢は残るため再生する。
2.後部眼瞼炎
マイボーム腺炎などマイボーム腺機能不全(MGD)に伴ってみられることが多い。若年者ではアクネ菌、高齢者ではブドウ球菌が多い。
3.眼瞼皮膚炎
医原性あるいは薬物性要因により皮膚の炎症が起こる。接触性眼瞼皮膚炎と薬物性眼瞼皮膚炎とに分けられることもある。
a. 接触性眼瞼皮膚炎
点眼薬などの中にあるそれ自体は抗原性を持たないハプテンが、キャリア蛋白と結合して免疫反応、特にⅣ型アレルギー反応を誘導することが原因で起こる。点眼薬の主成分や塩化ベンザルコニウム(BAK)などがハプテンとなり、感作後24時間以内
に症状が出現する。診断にはパッチテストを行い原因薬剤を同定し、治療は原因薬剤の中止あるいは防腐剤フリーの点眼薬へ変更し、その他の治療は眼瞼炎の治療に準じて行う。
眼瞼炎の症状
眼瞼の灼熱感、異物感、かゆみ、発赤がある。
眼瞼炎の他覚所見
- ブドウ球菌性眼瞼炎:睫毛根部の浅い潰瘍、瞼縁の血管拡張、睫毛を取り囲むような鱗屑(collarettes)形成を認める。ブドウ球菌が出す外毒素によって点状表層角膜炎(SPK)を認めることもある。
- 脂漏性眼瞼炎:瞼縁の充血を伴う。脂漏性睫毛(睫毛が数本ずつ束になる)が特徴的とされる。
- 酒さ性眼瞼炎:日本では稀で血管拡張を主体とする。
眼瞼炎の診断
上記臨床症状で臨床診断するが、診断確定のために細菌培養を行うこともある。
眼瞼炎の治療
温水や希釈した界面活性剤、ベビーシャンプーなどを用いて、眼瞼縁の洗浄・清拭を定期的に行う。感染性の場合には抗菌薬点眼・眼軟膏塗布あるいは内服を行い、非感染性で炎症症状が強い場合は0.1%フルオロメトロン点眼液やリンデロン眼軟膏などステロイドを短期間併用する。
ブドウ球菌性眼瞼炎の処方例
高齢者ではキノロン耐性コリネバクテリウムが多いため、セフメノキシムが有効である。さらに、菌に対する免疫反応の関与があるため、低濃度ステロイド点眼を少量併用する。眼軟膏は二次的なマイボーム腺梗塞を招くため使わない。
眼局所では、0.5%セフメノキシム点眼1日2回、0.1FMを1日2回を1週間投与し、その後中止の検討を行う。最大2週間投与で、その後は清浄綿を用いた清拭を行う。無効例のとき、点眼回数を増やすのでなく、むしろ点眼回数は減らすとよい。