角膜とその疾患

COMET(培養自家口腔粘膜上皮シート移植術)とは?

はじめに

重症の眼表面疾患では、角膜の表面を覆う上皮が安定せず、痛み、まぶしさ、視力低下、角膜混濁などが長く続くことがあります。なかでもStevens-Johnson症候群や眼類天疱瘡、化学外傷などでは、角膜上皮幹細胞が障害され、通常の角膜移植だけでは十分な改善が得られにくい場合があります。

このような難治性の眼表面疾患に対して、日本で発展してきた治療の一つがCOMETです。COMETは、自分自身の口腔粘膜上皮を培養し、眼表面に移植する再生医療技術です。

ここでは、COMETの仕組み、治療効果、長期成績、そして今後の眼表面再建における位置づけについて解説します。

COMETとは

COMETは、cultivated oral mucosal epithelial transplantationの略で、日本語では培養自家口腔粘膜上皮シート移植術と呼ばれます。

口の中の粘膜から採取した上皮細胞を培養し、シート状にして眼の表面へ移植する治療です。自分自身の細胞を使うため、他人の組織を移植する場合に比べて拒絶反応のリスクを抑えられる点が特徴です。

COMETは、2002年に初めて人へ応用された再生医療技術です。両眼性の難治性角膜上皮幹細胞疲弊症に対して、自家組織による眼表面再建を可能にした治療として注目されてきました。

COMETが対象となる眼表面疾患

COMETは、角膜上皮幹細胞が大きく障害される重症眼表面疾患で検討されます。

代表的な疾患には、以下があります。

  • Stevens-Johnson症候群
  • 眼類天疱瘡
  • 熱傷や化学外傷
  • 重症ドライアイを伴う瘢痕性眼表面疾患
  • 結膜瘢痕や眼瞼変形を伴う重症例

これらの疾患では、角膜表面だけでなく、結膜、涙液、眼瞼の状態も複雑に障害されていることがあります。そのため、単に角膜を透明にするだけではなく、眼表面全体を安定させる治療戦略が重要になります。

COMETの治療目的

COMETの主な目的は、不安定になった眼表面を自家口腔粘膜上皮で覆い、持続的な上皮被覆を得ることです。

術後には、角膜上皮欠損の改善、炎症の軽減、痛みや羞明の軽減、眼表面の安定化などが期待されます。重症例では、視力の改善だけでなく、痛みやまぶしさが軽くなり、日常生活の負担が減ることも大きな意味を持ちます。

一方で、口腔粘膜上皮は本来の角膜上皮とは性質が異なります。移植後に上皮の厚み、角膜混濁、血管新生などが残ることもあり、透明な角膜を完全に取り戻す治療とは異なります。

そのためCOMETは、視力回復だけを目的とした治療というよりも、重症眼表面疾患における基盤的な眼表面再建術として考えることが重要です。

COMETの長期成績

COMETの長期成績では、眼表面の安定性が重要な評価項目になります。

36症例を対象とした長期観察研究では、角膜表面の安定性は術後1年で64.8%、術後3年で53.1%と報告されています。疾患の種類や涙液状態、眼瞼の状態などに影響を受けるため、術後の時間経過とともに安定性は低下することがあります。

それでも、重症眼表面疾患において半数以上の症例で長期的な眼表面の安定が維持されています。

特に、長期予後に関わる因子として、以下が挙げられます。

  • 原疾患の種類
  • 術前の眼瞼状態
  • ドライアイの程度
  • 結膜瘢痕の程度
  • 術後早期の上皮接着
  • 術後の炎症管理
  • 全身疾患のコントロール

COMETは手術単独で完結する治療ではありません。長期的な経過観察と、眼表面環境を保つための継続的な管理が重要です。

疾患ごとの長期予後

COMETの治療成績は、原因となる疾患によって異なります。

熱傷や化学外傷では比較的良好な長期成績が得られやすいとされています。外傷による障害では、炎症の再燃や全身疾患の影響が比較的少ないため、眼表面の安定が維持されやすいと考えられます。

一方、眼類天疱瘡のように慢性炎症が持続しやすい疾患では、疾患の進行や再燃により長期成績が低下しやすくなります。報告では、OCP症例では長期的な生存率が53%まで低下したとされています。

Stevens-Johnson症候群では、重症のドライアイ、結膜瘢痕、眼瞼変形などを伴うことが多く、術後管理が治療成績を大きく左右します。ただし、慢性SJS後遺症を対象とした報告では、80%以上の症例で視力改善が認められ、疼痛や羞明も軽減したとされています。

COMET後の追加治療

COMETは、眼表面を安定させるための土台となる治療です。術後の状態によっては、追加治療を組み合わせることで、さらなる視機能改善を目指します。

代表的な追加治療には、以下があります。

  • 輪部支持型ハードコンタクトレンズ
  • 強膜レンズ
  • 2期的な角膜移植
  • 眼瞼手術
  • ドライアイ治療
  • 炎症管理

特に、輪部支持型ハードコンタクトレンズや強膜レンズは、重症眼表面疾患において視力改善と眼表面保護の両面で役立つことがあります。

COMETで眼表面を安定させ、その後にコンタクトレンズ装用や角膜移植を検討するという段階的な治療計画が、長期予後の改善につながります。

まとめ

COMETは、自分自身の口腔粘膜上皮を培養して眼表面に移植する再生医療技術です。Stevens-Johnson症候群、眼類天疱瘡、熱傷・化学外傷などによる重症眼表面疾患に対して、眼表面の安定化、疼痛や羞明の軽減、視機能改善を目指す治療として位置づけられます。

長期成績は原疾患や眼表面環境に大きく影響されますが、重症例においても長期的な眼表面安定が得られる症例があります。今後も、COMETは眼表面再建における重要な治療選択肢として、重症眼表面疾患の治療戦略を支える存在になると考えられます。

参考文献

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