角膜とその疾患

真菌性角膜炎の診断と治療|培養検査から抗真菌薬の使い分けまで

1.真菌性角膜炎は感染性角膜炎のなかでも難治・予後不良

真菌性角膜炎は、細菌性角膜炎と比べても診断・治療が難しく、視機能予後も悪くなりやすい疾患です。

特に問題になるのが、診断前にステロイド点眼が使用されているケースです。真菌は角膜実質内で増殖するため、ステロイドによって炎症を抑えてしまうと感染が急速に悪化する可能性があります。

そのため、

・真菌感染を疑う段階ではステロイド点眼を安易に開始しない
・診断に迷う場合は角膜専門施設への紹介も検討する

という姿勢が重要です[1]。

2.真菌性角膜炎を疑う3つのパターン

真菌性角膜炎は所見だけで確定できるわけではありませんが、特に次の3パターンでは疑う必要があります。

パターン1:羽毛状・境界不明瞭な浸潤

境界が不明瞭で、羽毛状に広がる角膜浸潤は典型的な所見の一つです。

フルオレセイン染色では、潰瘍辺縁が偽樹枝状に見える場合もあり、ヘルペス角膜炎との鑑別が問題になることがあります。

パターン2:抗菌点眼で改善しない・中止すると再発する

細菌性角膜炎を疑って広域抗菌薬を1週間以上使用しても改善しない場合、あるいは抗菌薬中止後に再発する場合には、真菌を再検討します。

「抗菌薬を使っているのに治らない=さらに抗菌薬を追加する」ではなく、

診断そのものを見直す

ことが重要です。

パターン3:ステロイド長期使用中に新規病変が出現

ステロイド点眼を長期使用している患者で、それまでなかった角膜浸潤が出現した場合も要注意です。

非感染性炎症としてステロイドを増量すると、真菌感染であれば急速に悪化することがあります。

3.真菌を疑ったらまず検体採取

真菌性角膜炎では、治療反応だけから診断する、いわゆる「診断的治療」は困難です。

そのため、確定診断には

・病変部からの角膜擦過
・直接鏡検
・真菌培養

を行います[1]。

角膜擦過のポイント

角膜実質を深く掘り取る必要はなく、

メスまたはスパーテルで角膜上皮と潰瘍底を軽くこする

程度で構いません。

採取検体は、

・スライドグラスへ直接塗抹
・寒天培地へ直接接種

します。

シードスワブなどの輸送培地を介すると検出率が下がる可能性があるため、できるだけ直接接種することがポイントです。

4.起炎菌は酵母様真菌と糸状菌に大別

角膜炎を起こす真菌は大きく、

酵母様真菌
と
糸状菌

に分けられます。

酵母様真菌

ほとんどがCandida属です。

代表的には、

・Candida albicans
・Candida parapsilosis
・Candida tropicalis
・Candida glabrata

などがあります。

糸状菌

真菌培地上で毛羽立つようなコロニーを形成します。

原因菌として特に重要なのが、

・Fusarium属
・Aspergillus属
・Alternaria属
・Purpureocillium属(旧Paecilomyces)

などです。

なかでもFusarium属は頻度・重症度ともに重要です。

5.菌種同定は難しいが、近年はMALDI-TOF MSも利用可能

一般の検査室では真菌の詳細な菌種同定が難しく、「同定不能真菌」とされることもあります。

近年では、

MALDI-TOF MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析)

を用いた菌種同定が普及しています。

従来のスライドカルチャーでは菌種同定まで2〜3週間かかる場合がありますが、質量分析では微量でも菌が増殖していれば解析できるため、より早期に菌種が判明する可能性があります。

6.治療の基本は抗真菌薬点眼

抗真菌薬の主な系統は、

・ポリエン系
・アゾール系
・キャンディン系

です。

ただし、点眼薬として市販されている選択肢はかなり限られています。

7.第一選択はピマリシン

真菌性角膜炎の薬物治療では、5%ピマリシン点眼が第一選択です。

ピマリシンはポリエン系抗真菌薬で、日本では眼科用製剤として承認されている代表的な抗真菌薬です。

全身投与薬としてはアゾール系の選択肢がありますが、眼科領域では点眼製剤を自家調製して使用するケースもあります。

8.酵母様真菌ではピマリシンが基本

起炎菌がCandidaなどの酵母様真菌であれば、

1%ピマリシン眼軟膏あるいは5%ピマリシン点眼

が第一選択になります。しかし、ピマリシンはポリエン系のため細胞障害性が強く、やや使いにくい。眼軟膏の方が点眼に比べて副作用は少ないとされています。

角膜上皮が脆弱な場合には、

1%ポリコナゾール点眼(自家調製)

なども選択肢になります。

Candida感染は角膜疾患を背景として発症することも多く、点眼だけでは改善しにくいため、積極的なデブリドマン(角膜潰瘍掻爬)を併用します。

9.糸状菌では菌属によって薬剤選択が変わる

糸状菌の場合は、可能であれば属レベルでも起炎菌を同定することが望ましいとされています。

Fusarium属

Fusariumでは、

ピマリシンが第一選択

です。

一方、アゾール系、とくにポリコナゾールは無効な株が多く、進行も早いため治療が難しい菌です。

ピマリシン局所投与を継続しながら、積極的なデブリドマンを行います。

重症例ではアムホテリシンBリポソーム製剤の点滴併用も選択肢になります。

Alternaria・Aspergillus・Purpureocillium

これらでは、

1%ポリコナゾール点眼

の効果が期待できます。

特にPurpureocillium lilacinumではポリエン系が無効なことが多く、ポリコナゾールが有力な選択肢になります。

ポリコナゾールは角膜深層への移行性が比較的良好で、頻回点眼によって進行例でも効果が得られる場合があります。

10.デブリドマンが非常に重要

真菌性角膜炎では薬剤治療だけでなく、

角膜潰瘍掻爬=デブリドマン

が治療上重要です。

目的は、

・菌量を減らす
・壊死組織を除去する
・点眼薬の病変部への到達を改善する

ことです。

とくにCandida感染やFusarium感染などでは、点眼だけで改善しにくいため、積極的なデブリドマンを併用します。

11.薬物療法に反応しなければ治療的角膜移植

角膜実質深層まで真菌が浸潤すると、角膜表面の掻爬だけではすべての菌を除去できません。

保存的治療に固執しているうちに感染が角膜全体へ広がると、最終的には眼球内容除去に至る可能性もあります。

そのため薬物療法に反応しない場合には、

病巣を切除できる段階で治療的角膜移植を検討する

必要があります。

治療的角膜移植では、感染組織を完全に切除することが最優先です。術後にはステロイド点眼が必要になるため、真菌病巣を残さないことが重要です。

切除角膜は、

・半分を真菌培養
・半分を病理検査

に提出します。

術後再発時には、治療的角膜移植をさらに大きな径で再施行したり、眼球内容除去・眼球摘出を検討したりすることもあります。

12.真菌性角膜炎の視機能予後は依然として厳しい

真菌性角膜炎は世界的にも大きな失明原因であり、

進行例の8〜11%が真菌感染によって眼球を失っています[3]。

そのため今後は、

・より強力な抗真菌薬
・角膜深層への移行性に優れた薬剤
・安全性の高い薬剤

の開発が求められています。

文献

  1. 日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン第3版作成委員会. 感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版). 日眼会誌. 2023;127:859-895.
  2. 牛尾総一郎, 金 聖映, 住吉祐介, 他. 1.0%ポリコナゾール点眼液の安定性および安全性に関する評価. 日病薬師会誌. 2019;55:211-215.
  3. Brown L, Leck AK, Gichangi M, et al. The global incidence and diagnosis of fungal keratitis. Lancet Infect Dis. 2021;21:e49-e57.
  4. 戸所大輔「真菌」『日本の眼科』97巻9号, 2026.
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