小児眼科

小児の調節障害の診断と治療

小児の調節障害は「不足」と「過剰」に大別される

調節は、水晶体・毛様体筋・チン小帯が協調して、見たい距離にピントを合わせる機能です。

この機能が適切に働かない状態が調節障害で、小児では主に、

・調節不全(accommodative insufficiency)
・調節過剰/調節痙攣(accommodative excess / spasm)

に分けられます。

小児では主観的検査が不安定で、しかも調節力が強いため、客観的検査を組み合わせることが重要です。

2.まず近見視力を完全矯正下で確認

基本評価として、まず完全矯正下で近見視力を測定します。

遠見視力は良好でも、近見視力だけ不良な場合には、調節不全を疑います。

つまり、

遠見は見えるのに近くが見づらい

という訴えは、単なる近視・遠視だけではなく調節機能の問題である可能性があります。

3.輻湊近点(NPC)も確認

ペン先などを鼻に近づけ、両眼がしっかり寄せられるかを確認します。

本文では、

正常:5〜7cm程度

が目安とされています。

また、近見カバーテストで正位〜軽度内斜位であれば、概ね輻湊は十分と判断できます。

調節と輻湊は密接に関連するため、調節障害を評価するときにNPCも一緒にみることが大切です。

4.動的検影はかなり実用的

近見時に必要な調節量と、実際の調節反応との差をみます。

たとえば33cmの視標では約3.00Dの調節刺激が必要です。

これに対して反応が2.00Dなら、

ラグ+1.00D

となります。

小児の40cmでの判定基準は、

・正常:+0.25〜+0.75D
・+1.00D以上のラグ → 調節不全
・0D〜マイナス側のリード → 調節痙攣

が目安です。

5.Nott retinoscopyが推奨される

本文ではNott retinoscopyが推奨されています[1]。

検者が前後に移動して中和点を探すため、被検者の前にレンズを入れずに調節反応を測定できます。

・非侵襲的
・自然な調節状態を評価しやすい
・小児でも客観的に評価できる

という利点があります。

6.MEM法でも調節反応を評価可能

MEM法(Monocular Estimation Method)は、レチノスコープに視標カードを付け、短時間だけレンズを入れて反射を中和する方法です。

完全矯正眼鏡下で40cm視標を見せ、

+0.25D程度から瞬間的にレンズを挿入し、中和した度数をラグとして記録

します。

こちらも小児の調節評価で使いやすい方法です。

7.調節力はpush-up法で測定

調節力(Amplitude of Accommodation)は、視標をゆっくり近づけて、

持続的にぼやけたと感じた位置=近点

を測定します。

調節力は、

1 ÷ 近点距離(m)

で求めます。

従来はHofstetter式が用いられ、

平均調節力
18.5 − 0.30 × 年齢

最小調節力
15 − 0.25 × 年齢

と推定されます。

ただし近年の小児では、実測調節力がHofstetterの平均値より3.00〜5.00D低いという報告があります[2]。

そのため、古典的な年齢式だけで異常判定しないことがポイントです。

8.調節不全は「最小調節力より2D以上低い」が目安

本文では、

最小調節力が年齢平均より2.00D以上低い場合に調節不全を疑う

とされています。

ただし単一検査だけではなく、

・症状
・動的検影
・調節力
・屈折
・近見視力

などを組み合わせて判断します。

9.マイナスレンズ負荷試験で不全と痙攣を見分ける

完全矯正下で近見視力を測り、試験枠に

・−1.00D
・−2.00D

と段階的にマイナスレンズを追加し、読めるかを確認します。

目安は、

・−1.00Dで急に読めなくなる → 調節不全
・−2.00D以上でも読める → 調節痙攣の可能性

です。

小児では調節痙攣が偽近視のようにみえることもあるため、鑑別に役立ちます。

10.調節不全と調節痙攣の違い

本文の表を整理すると、以下のようになります。

調節不全

・近見ぼやけ
・眼精疲労
・頭痛
・動的検影では大きなラグ
・調節力は年齢相応より低い
・少量のマイナス負荷で近見視力低下
・屈折は遠視側〜正視、軽度変化

調節痙攣

・遠見ぼやけ
・近見後の遠見不良
・動的検影ではリード
・調節力は正常〜高値だが持続困難なこともある
・強いマイナスレンズでも近見視標が読めることがある
・屈折が近視側に振れやすく、変動が大きい

つまり、

近くが見づらい=調節不全
近見後に遠くがぼやける=調節痙攣

という症状の違いも参考になります。

11.Down症では調節力が低い

Down症児では、一般小児に比べて調節力が著しく低く、近見に必要な調節量を確保できないことがあります。

しかも、年齢による改善が乏しいことが特徴です。

そのため、調節障害がある場合には、

・完全矯正眼鏡
・+2.50D程度の近用加入を加えた二重焦点眼鏡
・累進屈折力眼鏡

が有効とされています[3]。

これはDown症児の学習・近見作業にも直結する重要なポイントです。

12.強度遠視では「調節力不足」に見えて実は過負荷の場合がある

強度遠視(+5.00D以上)では、近見だけでなく遠見でも調節を必要とします。

そのため、調節力の限界を超えると調節不全様の症状が出ます。

これは単純に「調節力が弱い」のではなく、

過剰な調節負荷によって疲弊している状態

と考えるべきです[4]。

治療の基本は、

完全矯正、またはやや弱めの完全矯正

です。

調節不全が残る場合には、+1.00〜+2.00Dの近用加入も選択肢になります。

13.デジタルデバイスによる若年性調節障害

小児・若年者では、スマートフォンやタブレットの長時間使用による眼精疲労が問題になっています。

いわゆる、

デジタル眼精疲労、スマホ老眼

と呼ばれる状態です。

ただし実際には老視ではなく、

調節緊張や調節持続困難

が中心です[5]。

初期には、

調節ラグ増大 → 調節不全様

を示し、進行すると、

調節ラグ減少〜マイナス → 調節痙攣

へ移行することがあります。

14.デジタル眼精疲労への対策

本文では、

・20-20-20ルール
・20分ごとに20フィート先を20秒見る
・デバイスとの距離を30〜40cm以上保つ
・姿勢を改善する
・屋外活動時間を確保する

ことが挙げられています。

治療として、シクロペントレート塩酸塩点眼が有効な場合があるとされています。

参考文献

  1. McClelland JF, Saunders KJ. The repeatability and validity of dynamic retinoscopy in assessing the accommodative response. Ophthalmic Physiol Opt. 2003;23:243-250.
  2. Munsamy AJ, Ngema A, Bisetty S, et al. Evidence of the amplitude of accommodation of school-going children in the 21st century. Br Ir Orthopt J. 2023;19:52-63.
  3. de Weger C, Boonstra N, Goossens J. Effects of bifocals on visual acuity in children with Down syndrome: a randomized controlled trial. Acta Ophthalmol. 2019;97:378-393.
  4. Ntodie M, Saunders K, Little JA. Accuracy and stability of accommodation and vergence responses during sustained near tasks in uncorrected hyperopes. Sci Rep. 2023;13:14389.
  5. Kaur K, Gurnani B, Nayak S, et al. Digital eye strain—A comprehensive review. Ophthalmol Ther. 2022;11:1655-1680.
  6. 西村香澄「小児の調節障害」『日本の眼科』97巻9号, 2026.
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