病的近視とは
病的近視とは「眼底にびまん性萎縮以上の変化もしくは後部ぶどう腫を有する近視眼」と定義されている。眼軸長延長は主に眼球赤道部に生じるが、病的近視眼では後部ぶどう腫により眼球後極部が突出・変形する。その結果黄斑部網膜や視神経など視機能上重要な神経組織が機械的に障害される。特に、視神経障害は若年発症し、見逃されやすいため手遅れになることもまれではない。
病的近視眼を見たら、常に視神経障害を疑う。
病的近視は失明原因の上位を占める疾患で、その原因は近視性黄斑症、近視性牽引黄斑症(myopic traction maculopathy:MTM)、緑内障などの合併症による。病的近視眼では多様な黄斑部病変や視神経障害が混在することが多い。
病的近視の眼底病変
1.近視性黄斑症
※病的近視はカテゴリー2以上の萎縮性変化を有するものと定義されている。また、カテゴリー1から4までいずれであっても、近視性黄斑部新生血管(myopic macular neovasculaization:MNV)とBruch膜の機械的断裂(lacquer cracks)は認めうる。
①びまん性萎縮
びまん性萎縮の眼底は、境界がやや不明瞭な黄色の病変である。視神経乳頭耳側から始まることが多く、のちに黄斑部一帯を覆うことがある。また、病的近視に至った成人では小児期にすでに乳頭周囲びまん性萎縮を有することが多く、小児において将来の病的近視発症のサインとなる。
Research Gate HPより引用
光干渉断層計(OCT)では、脈絡膜の高度の菲薄化(脈絡膜大血管を除いた部分が消失し、脈絡膜厚も測れない)が特徴とされる。ただし、外層網膜および網膜色素上皮(RPE)の構造はほぼ保たれている。このため、黄斑部を覆っても0.5以上の矯正視力が出ることが多い。
②限局性萎縮
限局性萎縮はコーヌスと同程度の白色を呈する境界明瞭な病変である。中心窩以外に生じることが多く、拡大しても中心窩から離れる方向に拡大するため、中心視力を障害することがほとんどない。よって、病的近視眼で中心窩を含む限局性萎縮様の病変は、多くがMNV周囲に生じた黄斑部萎縮である。
OCTでは同部位は脈絡膜の消失により外層網膜、RPEが欠損し、網膜内層が胸膜に直接接した状態になる。また、萎縮型加齢黄斑変性症と異なり、多くの症例でBruch膜も欠損、断裂していることが特徴である。
③近視性黄斑部新生血管(MNV)
MNVは病的近視眼における中心視力障害の原因となる主要な病変である。病的近視眼の約10%に生じ、両眼性が1/3を占める。自然経過は予後不良で、約5年以上でほとんどの症例は矯正視力が0.1以下となる。
OCTではMNV周囲の黄斑部萎縮も、限局性萎縮と同様に単なる萎縮性変化ではなく、Bruch膜の欠損であることが示された。
治療の第一選択は抗VEGF治療で、約半数の症例は1回の治療で活動性が消失するため、1回施行後経過観察を行う。
単純型黄斑部出血との鑑別
単純型黄斑部出血はlacquer cracksが新たに生じる際に、脈絡膜毛細血管が障害され生じる出血とされる。20代から40代前半までに生じることが多い。診断にはOCTAで血流がないこと、造影検査で出血内に過蛍光がないことの確認が有用とされる。出血は3カ月前後で自然吸収されるが、丈が高いと視力障害が残ることも多い。
2.近視性牽引性黄斑症(MTM)
病的近視眼に加えて、網膜分離症、分層黄斑円孔、黄斑円孔部網膜肥厚、網膜前膜、硝子体黄斑牽引、浅い網膜剥離、内層分層黄斑円孔などの病態をまとめて近視性牽引性黄斑症という。黄斑分離症のみであれば視力は維持されるが、近視性脈絡膜新生血管や中心窩剥離(3-43%)、全層黄斑円孔(1-31%)に進行すれば視力低下を生じうる。強度近視眼の分層黄斑円孔は、平均観察期間9カ月で96%の症例で進行を認めなかったと報告がある。
検査は光干渉断層計(OCT)が必須だが、眼底自発蛍光検査などを参考にする。眼底自発蛍光検査では網膜分離はまだらな過蛍光、黄斑剥離部は低蛍光となる。
網膜分離や剥離を有する眼において後部ぶどう腫を有する頻度が多く、後部ぶどう腫の範囲には網膜分離や剥離が越えないことが分かっている。また、網膜前膜、硝子体皮質、網膜血管による前方への網膜牽引が見られる頻度が多い。dome-shaped macula眼では、その隆起により中心窩を逃れていることが多い。
治療は硝子体手術が有効とされ、特に中心窩網膜剥離や黄斑円孔網膜剥離を生じた場合には早急な硝子体手術が必要である。黄斑剥離を伴う場合と伴わない場合の硝子体術後の最終視力に差はないが、視力改善の可能性は、黄斑剥離を伴う場合は70-80%、伴わない場合は42-50%である。さらに進行し黄斑円孔が生じると視力改善の可能性は低い。しかし、網膜分離のみの段階での手術時期については統一見解はない。MTMの症例では中心窩網膜構造が脆弱化していることが多く、手術中または術後に全層黄斑円孔の発生(17-27%)が合併症として挙げられる。特に、術前に網膜外層の欠損や黄斑剥離を伴う場合に多い。
3.緑内障を含む視神経障害
病的近視眼では、視神経障害も高頻度かつ重要な失明原因とされる。
病的近視眼を見たら、常に視神経障害を疑う。
病的近視眼の視神経乳頭の形状は多様で、それだけで視野障害を疑うのは難しい。また、OCTやハンフリー視野検査も解釈が難しい。
Goldmann視野検査(GP)でV4イソプターの欠損は近視性黄斑症やMTMで生じないため、視神経障害のヒントになる。また、GPではgourd状視野があり、鼻側に加えて耳側も狭窄する特徴的な視野欠損を認めることがある。
眼底所見として、非強度近視眼にはみられない、コーヌス内のピット、乳頭耳側のリッジ上の突出、intrachoroidal cavitation(ICC)などがある。ICCはその上の網膜が陥頓、欠損すると視野障害の原因となる。
intrachoroidal cavitation(ICC)の画像
4.後部ぶどう腫
後部ぶどう腫は、周囲の眼球壁の曲率半径よりも、小さい曲率半径を有する第二の眼球壁の突出をいう。後部ぶどう腫は黄斑部病変や視神経障害の原因となる。通常の近視眼であれば眼軸長延長は赤道部が多いのだが、後部ぶどう腫では黄斑部網膜や視神経など重要な組織を含む眼球後極部が後方に突出して変形する。そのため、機械的な損傷を受け、黄斑部病変や視神経障害を生じる。
参考文献
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- Peripapillary Diffuse Chorioretinal Atrophy in Children as a Sign of Eventual Pathologic Myopia in Adults
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- 臨床眼科76巻4号2022年4月
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- あたらしい眼科 Vol.39, No.6, 2022