近視とは
「無調節状態で平行光線の焦点が網膜前方にある眼、または遠点が眼前方有限距離にある眼」と定義されている。この遠点に焦点が一致する凹(マイナス)レンズで矯正される。レンズから遠点までが焦点距離f(m)で、その逆数がレンズの屈折力(D)である。
2020年6月『日本の眼科』による発表によれば、視力1.0未満のうち近視だった割合は幼稚園で25.0%、小学校で78.4%、中学校で91.4%、高等学校で95.3%で近視が多く占める傾向にあった。
これは日本だけではなく、世界的にも近視人口が急増している。2016年にHoldenらは、これまで通りの増加が続けば、2050年には近視人口が全世界人口の半数に、強度近視も約1割に増加すると推定した。
各国の近視発症率調査結果(2005年以降、対象年齢6-7歳)
- Orinda Study(アメリカの白人):2.8%
- Northern Ireland Childhood Errors of Refraction(NICER)Study(イギリスの白人):2.2%
- Wang et al(中国都市部の東アジア系人種):19.1%
- Singapore Cohort Study of the Risk Factors for Myopia(SCORM):15.9%
- Sydney Myopia study(オーストラリアの同地域での近視発症の人種差):白人種1.3%、東アジア系人種6.9%
近視の発症・進行予測のリスク因子
- 遺伝的要因(片親が近視→2-3倍、両親が近視→5⁻6倍増加)
- 人種(東アジアで特に高い)
- 長時間の近業
- 2008年のIpJMらの報告によれば30分以上の連続した近業や30㎝以下の距離で近業は近視のリスクをそれぞれ1.5倍、2.5倍も増加させる。
- SCORMの報告によれば7~9歳では1週間に2冊以上の本を読むと3倍以上近視になりやすいことが分かった。
- Sydney Myopia studyでは11~14才で、近業時間が長いほど屈折値が有意に近視化したと報告されている。
- 屋外活動が短い(十分な屋外活動時間を確保すると、4~14才のアジア人の学童の近視発症が50%、進行が32.9%、眼軸進展が24.9%抑制できることが2019年のHoらのシステマティックレビュー、メタアナリシスで報告されている。推奨されるのは1000~3000Luxの照度が良いとされ、これは屋外であれば日陰でもその照度は担保される。
→1日2時間、少なくとも1時間以上の屋外活動が推奨されます。) - 両眼視機能
- 眼軸長
- 遠視度数(遠視度数の低下で将来の近視を予測することができるかもしれない。
6歳以下で+0.75D以下の遠視
7~8歳で+0.50D以下の遠視
9-10歳で+0.25D以下の遠視
11歳で+0.0Dあるいは、-0.5D以上の近視
が近視発症の高リスクとなる。)
など
近視の分類
- 屈折性近視:眼軸長が正常範囲だが、屈折力が強い。
- 軸性近視:屈折力は正常だが、眼軸長が長い。
また、性状別で
- 単純近視:矯正視力良好で、屈折異常以外に視機能や眼底病変などを認めない。
- 病的近視:矯正視力不良で、その他の視機能及び眼底変性病変を認める。5歳以下では-4.00D、6~8歳では-6.00D、9歳以上では-8.00Dを超える近視とされている。
に分類できる。また、近視の程度によって、
- 弱度近視:≦-3D
- 中等度近視:-3D~-6D
- 強度近視:-6D~ー10D
- (最強度近視:-10D≦)
近視の診断
屈折検査の自覚検査には雲霧法によるレンズ交換法、赤緑テストがあり、他覚検査にはレフラクトメータ、検影器、フォトレフラクタを用いる。
近視の中には近視のように見える状態があります。水晶体の厚みを調節する毛様体筋という筋肉が過度に緊張した状態で、水晶体が厚くなることで網膜より前に焦点を結びます。これを偽(仮性)近視と言います。
仮性近視の原因としては長い時間近くの物を見続けた後、神経疾患、薬物、外斜視などが知られています。
小児近視患者の年齢別の近視の進行量
近視の進行が早いとされるのは、1年で0.75D以上の近視の進行で、中程度は1年で0.25D~0.75D程度である。
近視の治療
日常生活に不自由があれば、眼鏡およびコンタクトレンズを装用する。その他の矯正にはエキシマレーザーによる屈折矯正手術や眼内レンズによる外科的治療も可能でる。病的近視の合併症にはそれぞれに対する治療を行う。
1.デフォーカス組み込みレンズ
A.DIMS(Defocus Incorporated Multiple Segments)レンズ
2017年のWallineらの報告によれば、平均52%の近視進行抑制効果、平均62%の眼軸長伸展抑制効果、対象の学童近視の21.5%が進行停止するとされる。これら結果を踏まえて実際に、香港と中国本土ではすでに市販されている。一時的に周辺部のぼやけを認めることがあるが、ほとんどの症例で問題なく装用できている。
B.DISC(Defocus incorporated soft contact)レンズ
DISCは3年間の抑制効果は屈折度が平均59%、眼軸長が平均52%であった。これもアメリカと日本を除く多くの国々で、近視進行抑制コンタクトレンズとして市販されている。
2.オルソケラトロジー
3.0.01%アトロピン点眼
ATOM1 studyでは1%アトロピン点眼による近視抑制効果のエビデンスが確立された。しかし、1%アトロピン点眼を中止した状態で1年間経過観察をしたところ、中止した眼は急激に近視が進行し、眼軸長が延長した(これをリバウンド現象という)。とはいえ、研究開始から3年経過後の時点でもコントロール群(偽薬投与群)と比較すれば近視進行は抑制されていた。
このアトロピンのリバウンド対策として、より低濃度でもこうかを確かめる研究が行われた。それがATOM2 studyであり、このATOM2 studyでは0.5%、0.1%、0.01%に希釈して1日1回2年間点眼して近視進行を観察した。
ATOM2 studyでは濃度が0.01%であっても近視は抑制されており、点眼を中止しても0.5%、0.1%ではリバウンド現象は起きたが、0.01%では認められなかった。2年間で60%の抑制効果が示された。
ATOM-J studyではATOM2 studyと同様、0.01%アトロピンを用いて検討しており、2年間で18%の抑制効果と芳しくない結果であった。
香港のLAMP Studyでは0.05%、0.025%、0.01%アトロピン点眼で検討しているが、偽薬と比較すると0.05%、0.025%、0.01%の近視進行は抑制されて、その効果は濃度依存性であった。この研究は2年目からは偽薬群が0.05%点眼に変わることが特徴的であり、その群は0.01%アトロピン群とほぼ同等の近視進行であった。このことから、0.05%アトロピンは0.01%の2倍の効果があると推測される。
アトロピン点眼には課題もある。無効例が一定数存在し、ATOM1によれば1%アトロピンをしても2年間で1D以上の近視が進行した症例が13.9%存在していた。また、ATOM2では0.01%点眼をしても、近見障害や羞明で調光レンズを処方した例が6%存在した。さらに、学童への長期投与の安全性もデータがまだ不十分である。
アトロピンの基礎
アトロピンはムスカリン受容体阻害薬である。ムスカリン受容体は副交感神経の神終末に存在し、副交感神経を制御している。よって、アトロピンはこのムスカリン受容体を競合阻害するため、散瞳、調節麻痺、心拍数の増加などを引き起こす。
散瞳効果は30~40分で最大となり、12日間程度継続する。調整麻痺効果は2~3時間で最大を示し、2週間程度継続するとされている。この効果は虹彩色素が多い目では効果の発現がさらに遅く、効果の消失にも時間がかかる。
4.0.01%アトロピン点眼+オルソケラトロジー併用
5.多焦点眼鏡
A.累進屈折力眼鏡(PAL)
PALは中心から下方へプラス度数が加入されている。PALを用いると、近見加入度数だけ調節必要量が減る。ただし、2011年のシステマティックレビューによれば、PALによる近視抑制効果は統計学的有意だが、効果自体が小さいため、臨床的な治療法としては推奨できないと結論づけられている。
B.Radial refractive gradient (RRG)レンズ
周辺網膜における後方デフォーカスえの対策として設計された。RRGレンズではほぼ同心円状に、中心から離れるに従って徐々にプラス度数が加入されている。
これを装用すると、少なくとも正面視の時は、周辺視野からくる光線はプラス度数加入領域を通るため、焦点が前方に移動し、周辺網膜における後方デフォーカスを軽減できる。ところが、期待に反して、屈折度と眼軸長いずれも抑制効果はなかった。
C.Positively-aspherized PAL(PA-PAL)
PA-PALはPALとRRGレンズのハイブリッドであるが、得られた2年間の近視進行抑制効果は平均20%程度であり、PALの抑制効果と大差なかった。
6.多焦点ソフトコンタクトレンズ(MSCL)
RRGレンズと同様、周辺視野から入社する光線がレンズ周辺部のプラス加入度数の領域を通過するため、周辺網膜における後方デフォーカスを軽減できると考えられた。さらに、コンタクトレンズはメガネに比べて、装用中のコンプライアンスが高いと考えられる。
単純なソフトコンタクトレンズと比較したRCTによれば、屈折度と眼軸長における抑制効果は、それぞれ平均26~77%と25~79%であった。ただし、MSCLのデザインのデザインが異なるため、今後の報告が待たれる。
その他にも、累進屈折型MSCL、非球面単焦点SCLなどがある。
病的近視
2015年の国際メタ解析研究によって、病的近視に伴う様々な種類の眼底病変は近視性黄斑症と総称され、近視性網脈絡膜萎縮病変と、いかなる段階の近視性網脈絡膜萎縮病変に生じうる3つの独立病変(lacquer cracks、近視性CNV、Fuchs斑)から構成されることが定められた。
これを基にして病的近視は「びまん性萎縮以上の近視性網脈絡膜萎縮病変もしくは独立病変を認めるもの、または後部ぶどう腫を有する眼」と定義された。その他にも、近視性牽引黄斑症、近視性緑内障様視神経症がある。
参考文献
- 今日の眼疾患治療指針第3版
- 第74回日本臨床眼科学会シンポジウム6強度近視による失明予防に向けて
- あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020
- あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020