そういう方のために『眼科医が説明する白内障』という記事を書いていますので、その記事を読んでからこの記事に戻っていただけると、より理解が深まると思います。
さて、この記事を読んで下さっているということは、ご家族あるいはご自身、あるいは親しい人が白内障手術を受けることが決まったのでしょう。
そこで、この記事では白内障手術前に眼科医が皆さんに知っておいてほしいことをまとめています。
⑴白内障の治療
まずは白内障の治療、そこから説明していきます。白内障には2種類の治療方法があります。
1つ目が点眼薬(目薬)による治療、もう一つが手術による治療です。
それでは順番に見ていきましょう。
1.点眼薬(目薬)による治療
一口に白内障と言っても、白内障は大きく5つの段階があり、その段階によって治療方法が異なる場合があります。
それほど進行していない、初期の白内障ではそのまま経過観察をすることもあれば、眼科医によっては点眼薬(目薬)を処方することもあります。
いずれにせよ水晶体が一度濁ってしまったら、もとの状態に戻すことはできません。また、点眼薬をしても白内障は少しずつ進行するため、いずれは白内障手術が必要になります。
2.手術による治療
白内障がある程度進行してくると、手術の必要性について説明することになります。
白内障の患者さんからこのような質問がよくされます。その際に僕は3つのポイントを説明しています。
- 運転免許を更新できる視力かどうか
:現在、運転免許は両目視力で0.7、片目で0.3出ていれば良しとしています。
※細かい規定があります。あくまでも普通免許の一条件です - 自覚症状(まぶしい、かすみなど)が強く日常生活や仕事に支障が出る
- 眼科医がした方が判断する白内障(浅前房など)
僕はこの3つの目安を説明し、患者さんの意見を尊重して手術をするかどうか決定します。白内障の患者さんは手術による治療と聞くと、
と質問されます。しかし、白内障手術は点眼薬(目薬)で麻酔を行い、手術中もほとんど痛みはありません。仮にあったとしても目薬の麻酔を追加することができます。
実際の手術の手順を説明すると、最近の手術は2〜3mmの傷から道具を入れて手術をすることがほとんどです。
具体的には、超音波で水晶体を小さく分割・吸入し(超音波水晶体摘出術)、残した薄い膜の中に人工の眼内レンズを挿入する方法が主に行われています。ただし、あまりにも白内障が硬いため、超音波ではビクともしないことがあります。その時は他の手術方法が選択される場合もあります。
⑵手術後の注意点と合併症
1.手術後の合併症
前述したように、最近の白内障手術は傷も小さくて済むため、安全な手術となりました。とはいえ手術後に様々な合併症を起こす恐れはあります。
初期には角膜がむくんだり(角膜浮腫)、目の圧力の上昇(眼圧上昇)などがありますが、軽ければ1週間程度で改善します。
また、最も多い合併症は、眼内レンズを入れた薄い膜の部分が手術後1~2年で濁る、後発白内障という病気です。
後発白内障は起きないこともありますが、たとえ発症してもYAG(ヤグ)レーザーで外来で治療可能です。
これら合併症についても念のため説明していますが、下記の3つの合併症については特に強調して必ず説明しています。
A. 眼内炎
白内障手術では小さいですが、メスを入れるため他の手術と同じように細菌が感染することがあります。
最も重症な感染症として眼内炎があります。だいたい2000~5000件に1人が起こるとされ、手術後数日で起こり、適切な処置がなければ失明する場合があります。
この合併症を防ぐため、手術後に目薬を多く使います。さらに、日常生活の制限もあります。特に、手術後1週間前後は顔や頭を自分で洗うのは禁止されます。
これは頭や顔に付いたホコリやゴミが水滴に含まれて、目の中に入るのを防ぐためです。その他にも細かい生活制限があります。詳しくは執刀する眼科医にご確認すると安心です。
B. 水疱性角膜症
水疱性角膜症は角膜内皮細胞が減少し、細胞密度が500~800/mm2以下になると、角膜内皮細胞の機能不全により角膜浮腫をきたします。この病態を水疱性角膜症といいます。
白内障手術では手技的に角膜内皮細胞を傷付ける恐れがあり、水疱性角膜症になる患者さんがいらっしゃいます。水疱性角膜症になると角膜移植術となる方もいます。
ですから、白内障手術前に水疱性角膜症のリスクがないか、角膜内皮細胞の数を計測する検査を行います。
C. 眼内レンズ未挿入・偏位・落下
白内障手術ではご自身の濁った水晶体を破砕し、人工の眼内レンズを挿入します。しかし、患者さんの中には眼内レンズを支える足場が弱い方がいたり、何らかの理由で眼内レンズが偏位(ずれる)たり、目の中に落下することがあります。
いずれの場合も追加の処置が必要になることがあるため、再度手術を行う必要があります。手術するまでは見えづらいため、度の入った眼鏡やコンタクトレンズで経過を見ることになります。
2.その他、手術後の注意点
合併症については1で詳しく述べたので、あとは患者さんから時々質問されることについて触れたいと思います。
これは無着色眼内レンズを挿入された患者さんが、時折訴える症状として知られています。この症状自体は大きな異常ではなく、多くは経過とともに慣れて感じなくなります。
この他にもレンズのタイプによって手術後の見え方が患者さんの想定と異なることもあります。術後の見え方については、手術を受ける前に手術担当の医師とよく相談しておきましょう。
また、白内障の手術をすれば白内障は治りますが、目が見えにくくなる原因は他にもあります。ですから、白内障手術がうまくいっても視力が思うように回復しないことがあります。
と言う方もいます。しかし、手術の前に検査をしても白内障の程度が強いと他の病気が隠れて分かりにくいことがあります。ですから、患者さんには
と説明しています。白内障は目の中の入り口ですから、そこにご病気があると目の中の異常を見つけづらくなることは覚えておいてください。
患者さんにはここまで述べたことに注意していただきながら、白内障手術を受けていただければと思います。もし手術後に、
などの症状があれば、そのままにせず必ず手術をした眼科に相談するようにしてください。先ほど説明した恐ろしい合併症の場合は放っておいたら失明する恐れもあります。しかし、以上のことを守っていただければ、白内障の治療は非常に安全な治療方法です。
白内障手術を受ける方は安全に白内障を治し、元どおりの快適な生活を過ごしてください!