おはようございます、doctorKです。
さて、今回の記事は下記の方を記事の対象にしています。
自分あるいは家族が白内障と診断され、白内障手術の説明を受けたがレンズの選び方が分からない方
白内障と診断されても、多くの場合は進行するまで経過を見ます。しかし、『眼科医が本当に知ってほしい白内障の治療前の説明書』にも書きましたが、
- 運転免許を更新できる視力かどうか。
- 自覚症状(まぶしい、かすみ)が強い。
- 放っておくと手術の難易度が上がり合併症が起こりやすくなる。
こういう条件の1つあるいはいくつか当てはまれば、医師から手術を勧められることでしょう。手術をすることになれば、手術までに「眼内レンズの種類選び」をする必要があります。
白内障手術ではもともと私たちにある水晶体を取り除き、代わりに人工のレンズ(眼内レンズ)を入れます。このレンズには何種類か種類があり、各患者さんに適した眼内レンズを選んでいきます。
単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズ
タイトルにあるこの2つの眼内レンズが現在主に使われています。まずはそれぞれの眼内レンズについて説明していきましょう。
単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズの違い
単焦点眼内レンズは一つの距離にピント(=焦点)を合わせる眼内レンズです。
僕がいた病院では、近く、中間、遠くの3つの中から選んでもらっていました。
近くにピントが合うレンズであれば、パソコンやスマホなどを不自由なく使えます。ですから、まだ仕事をバリバリやられる方や手元を見る趣味(編み物など)がある方には近くにピントが合うレンズをオススメしています。
逆に、仕事で車を運転したり、ハイキングが趣味の方には遠くにピントが合うレンズをオススメしています。しかし、単焦点眼内レンズはピントが合う位置が一つであるため、それ以外の所を見るためには眼鏡が必須になる場合が多くあります。
一方の多焦点眼内レンズは「近くと遠く」など、二箇所以上にピントが合う眼内レンズです。この眼内レンズを入れる手術後に眼鏡をかけずに済む人は9割ほどいらっしゃいます。
ですから、仕事やスポーツなどの趣味で眼鏡を付けたり外したりをしたくない方などにはオススメです。
しかし、多焦点眼内レンズは1枚でピントを二箇所に合わせるため鮮明さに欠けたり、暗い場所でライトを見ると、光の輪やまぶしさを感じることもあります。
その他の大きな違いに保険適応か否かがあります。前者の単焦点眼内レンズは保険適応ですが、多焦点眼内レンズは高度医療のため30〜50万円の代金がかかります。
決して気楽に受けることができるわけではないので、主治医とよく相談し、どちらのレンズを使うのか決めるとよいでしょう。
単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズを比較した論文の紹介
さて、ここである論文を紹介したいと思います。2019年に北京眼科研究所のKaiCaoらが発表した論文で、タイトルは『Multifocal versus monofocal intraocular lenses for age-related cataract patients: a system review and meta-analysis based on randomized controlled trials』です。
白内障患者に対して、単焦点レンズと多焦点レンズを入れた場合での効果、あるいは術後合併症などをメタ分析(いくつかの論文を分析したもので、信頼度がもっともたかいとされる分析方法)した論文です。
対象は2951人で、結果は現在よく知られているものと差異はありませんが、
We conclude that, compared with monofocal IOLs(単焦点眼内レンズのこと), MFIOLs(多焦点眼内レンズのこと) give patients better near vision and intermediate vision at 60 cm, both corrected and uncorrected. Patients undergoing MFIOLs implantation are more likely to be spectacle free but have a higher risk of glare, halos, and lower contrast sensitivity.
という結果でした。簡単に訳すと、
多焦点眼内レンズだと眼鏡をかけなくてよくなるが、グレア(光が長く伸びてまぶしく見えること)やハロー(光の周辺に輪がかかってみえること )、そしてコントラスト感度がより低い
となっています。
おわりに
眼内レンズ一つとっても様々な種類のレンズがあり、どの眼内レンズを選択すればよいのか悩む患者さんは少なくありません。単焦点レンズは保険適応であるためその機能にはかなり制限はありますが、眼鏡をかけることでそのデメリットを軽減することはできます。
一方、眼鏡をかけたくない方は多焦点眼内レンズをおすすめしますが、高度医療であるため保険が使えないため、過度な期待を抱く方も少なくありません。
双方の限界や合併症について知っていただいたうえで、ご自身に合ったレンズを選択していただければと思います。
そして、この記事がその一助になれば幸いです。何か質問がありましたら、Twitterあるいはこの記事にコメントしていただければと思います。
それでは記事はこのくらいにして、また次の記事でお会いしましょう!