Coats病とは
Coats病は網膜下の著明な滲出物を特徴とする疾患である。原因は不明だが、網膜血管壁の先天的な脆弱性に起因する網膜末梢血管の拡張と、その血管の透過性亢進による網膜下への滲出物の貯留が病態の本質とされる。
通常、異常血管は耳下側の赤道部から鋸状縁の間の最周辺部より生じ、黄色(リポプロテイン)の滲出性変化を伴うのが特徴とされる。さらに、滲出物の貯留により漿液性網膜剥離を生じ、視力低下をきたす。また、白色瞳孔をきたす疾患として重要であり、10%に血管新生緑内障、慢性的な網膜剥離により約5%に後天性網膜血管腫を生じる。
Coats病の疫学
通常は片眼性(95%)で、男児(男女比3:1、16歳以下がほとんど)に多い。遺伝性、全身合併症はないとされる。
Coats病の診断
細隙灯顕微鏡検査で異常血管を認める。また、蛍光眼底造影検査(FA)で周辺部網膜の毛細血管拡張や毛細血管瘤などの血管異常と、その血管透過性亢進による旺盛な蛍光色素の漏出を認める。
Coats病の治療
1.網膜光凝固術
滲出性変化がないものの、血管外漏出を強く認めるときは網膜光凝固術を行うが、15歳以上の症例では比較的進行が遅いため、滲出性変化を認めない場合は進行性を確認してから治療を開始する。ただし、一度改善しても再燃することも多い。
網膜剥離がないか、滲出性変化が薄い軽症例でも、末梢血管拡張領域に網膜光凝固術を行うのは有効とされる。しかし、無理に光凝固を行うと過凝固となり、網膜裂孔を生じる恐れがある。また、滲出が高度だと凝固斑が得られないことも少なくない。
2.薬物療法
Ⅰ)抗VEGF療法
血管からの漏出を抑えるため効果が期待されている。
Ⅱ)アバスチン
短期の症例報告がほとんどだが、アバスチンの単独投与あるいは光凝固術との併用が有効であったとする報告もある。Stergiouらの報告によれば、アバスチンにより滲出を減少させてから光凝固を行うことで、光凝固を行いやすく、過剰凝固を避けることができる。また、追加で凝固を必要する回数が減り、光凝固に伴う不可逆性の網膜障害を減らすことができる可能性があると考えられている。
3.硝子体手術
1988年MachemerらがCoats病の滲出性網膜剥離に対し硝子体手術を施行し、硝子体の牽引を解除することで、滲出斑や網膜剥離が軽減すると報告している。硝子体牽引があると、さらに滲出を増加させ、さらに病態を悪化させる。よって、硝子体牽引を解除することで、血管からの漏出を減少させ、滲出性剥離を軽減することができる。以上から下記の場合が硝子体手術の適応となる。
- 網膜血管凝固に抵抗性で滲出性剥離が黄斑部に及んだ場合
- 黄斑前膜などの増殖性変化により視力低下した場合
- 硝子体中のフレアが高く硝子体混濁が強い場合
網膜剥離が高度な場合は、異常血管が瘢痕化しにくく、複数回の治療や硝子体手術が必要になる場合があり、治療判定には約3か月程度かかる。
Coats病の予後
10年の長期間経過観察で、7%に再発を認めたという報告があるため、長期での経過観察は重要である。網膜全剥離に至ると続発性の血管新生緑内障を引き起こすこともある。進行する前に活動性をコントロールできるかが重要である。