ぶどう膜とその疾患

Vogt-小柳-原田病(VKH)

Vogt-小柳-原田病(VKH)とは

VKHは全身のメラノサイトをターゲットにする自己免疫疾患である。発症期にぶどう膜炎、頭痛など髄膜刺激症状、難聴を示し、その後の炎症遷延により、白斑、脱毛などの皮膚症状を呈するようになる。東洋人に多いとされ、白色人種には少ない。やや女性に多く、20-40歳前後に好発する。発症者のほとんどはHLA-DR4陽性である。発症の原因は不明だが、ウイルス感染症などが原因として挙げられる。

Vogt-小柳-原田病(VKH)の臨床症状と眼所見

0.前駆期

通常は眼症状発現の1〜2週間前に下記症状を生じる。

  • 頭痛などの髄膜刺激症状
  • 耳鳴
  • めまい
  • 感音性難聴
  • 悪心・嘔吐
  • 感冒様症状
  • 頭髪異常感
  • 毛髪の脱落

1.発症早期(初発例)

急激な両眼性の視力低下(しばしば遠視化するため近見障害を訴える)をきたし、毛様充血、虹彩炎、滲出性網膜剥離(後極部を中心に周辺部にも一部)、網膜下の散在性白斑、視神経乳頭発赤・腫脹・出血、脈絡膜剥離などがみられる。典型例では肉芽腫性ぶどう膜炎として、豚脂様角膜後面沈着物(KPs)、虹彩にはKoeppe結節、Busacca結節がみられる。

また、眼病期初期には毛様体浮腫に加えて、毛様体・脈絡膜が強膜から剥離し、浅前房を呈する。これはステロイド全身投与によって毛様体・脈絡膜剥離が解消され、それに伴い浅前房は解消される。

2.寛解期(回復期)

夕焼け状眼底、視神経乳頭周囲の萎縮、周辺部多発性網脈絡膜膜萎縮斑、黄斑部色素、沈着脈絡膜新生血管が見られる。また、角膜輪部、特に上下の部分の色素が発症前に比べて減少する(杉浦サイン)がみられる。

眼底には散在性に小円形の脱色素斑が見られ、これを組織学的にダレン・フックス結節(Dalen-Fuchs nodule)と言い、網膜色素上皮細胞の変性や増殖によって生じる。

皮膚白斑(発症後1年以上経ってから前頭部や顔面の皮膚に生じる白髪(元に戻ることが多い)、脱毛、睫毛の白髪などを認める。

ダレン・フックス結節(Dalen-Fuchs nodule)

Research Gate HPより引用

3.慢性期(再発時)

20%程度の症例で前部ぶどう膜炎が遷延、あるいは再燃することがある。ただし、眼底病変の再燃は稀とされる。

乳頭型VKHは乳頭とその周囲に炎症所見が局在するため、視神経炎と誤診されやすい。FAでは乳頭周囲に顆粒状過蛍光を認め、OCTで乳頭周囲の脈絡膜皺壁や漿液性網膜剥離、HLA-DR4陽性などからVKHを疑う。乳頭型VKHの再発例では、乳頭周囲の眼底が夕焼け状色調を呈する。

Vogt-小柳-原田病(VKH)の検査

1.フルオレセイン蛍光眼底造影(FAG)

  • 初期相:脈絡膜充盈遅延による斑状低蛍光
  • 中期相:網膜色素上皮細胞層から点状あるいは斑状の色素漏出
  • 後期相:網膜剥離の範囲に一致して蛍光色素が網膜下に貯留する。視神経乳頭の過蛍光となる。

Eyewiki HPより引用

2.インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)

  • 初期相:脈絡膜血管へ炎症が波及するため、ICGの流入遅延による後極部背景低蛍光dark background)が観察される。脈絡膜血管からの色素漏出を認める。
  • 中期~後期相:脈絡膜炎症部位では充盈欠損が残存(散在性低蛍光斑)

3.OCT、Bモードエコー

網膜色素上皮層と神経網膜間解離、脈絡膜肥厚を認める。治療で丈が減少するため治療効果判定にも有用とされる。

発症早期の著明な脈絡膜肥厚は原田病に特徴的とされる。

Research Gate HPより引用

4.全身検査

  • 髄液検査:細胞増多(リンパ球が主体で、髄膜刺激症状の有無にかかわらずぶどう膜炎発症後3カ月以内の陽性率は80%程度とされる。)
  • 聴力検査:感音性難聴
  • HLA classⅡ検査:原田病の80-90%はHLA-DR4陽性である。ただし、日本人の正常人の25%が陽性となるため特異性は低い。あくまで補助診断として有用とされる。

Vogt-小柳-原田病(VKH)の治療

1.ステロイド

自己免疫疾患のためステロイド大量投与が著効する。

メチルプレドニゾロン1000㎎×3日点滴静注を行い、その後プレドニゾロン内服40~60㎎から漸減する治療が行われている。ステロイド大量投与で網膜剥離が消退することは多いが、約2~3割の症例で何らかの内眼炎が再発する。

眼底型再燃であってもステロイドパルス療法だが、全身投与困難例はトリアムシノロンアセトニドの後部Tenon嚢下注射などを検討する。長期投与は全身の副作用軽減のため、免疫抑制剤(シクロスポリン)の併用するとともに、骨粗鬆症予防目的にビスホスホネートを併用する。

前眼部炎症にはステロイドと散瞳の点眼薬、球結膜下注射を行う。なお、減量はゆっくりと行い、再発がなくても6カ月以上かけて中止する。再発した場合はいったんステロイドを増量し、前よりも時間をかけて減量する。

ステロイドの副作用として突然の中止による離脱症候群、糖尿病・高血圧の出現・悪化、免疫力の低下による感染症、不眠、精神不安定、幻覚などの精神症状、消化性潰瘍、肥満・満月様顔貌、骨粗鬆症、血液凝固亢進などを認める。

2.シクロスポリン

シクロスポリン内服の有効性、副作用については明確にされていないが、他の自己免疫疾患と同様、ステロイドと併用でステロイドの投与量を減量できる可能性がある。ただし、シクロスポリンの副作用として、易感染性、腎機能障害、肝機能障害などの発現には注意する必要がある。また、シクロスポリン使用時には最低血中濃度(トラフ値)を測定する必要があります。

3.その他治療

前眼部の炎症にはステロイド点眼薬(リンデロン®)、散瞳薬(ミドリンP®)を用いる。その使用回数は炎症の程度に応じて異なる。また、併発症に対してはそれぞれの治療に応じた加療を行う必要がある。

Vogt-小柳-原田病(VKH)の予後

視力予後は良好な症例が多いが、歪視や色覚異常などの自覚症状が残ることも多い。また、ステロイドパルス療法を行っても、炎症遷延例は約25%いるとされる。1999年から2015年の111名の症例の治療成績における視力予後は概ね良好(93%で1.0以上)であった。しかし、22.5%で再発を認め、15.3%でシクロスポリン併用、8.1%で全身副作用を発症したと報告されている。

参考文献

  1. 日本眼科学会会報誌123巻6号
  2. クオリファイ5全身疾患と眼(専門医のための眼科診療クオリファイ)
  3. 今日の眼疾患治療指針第3版
  4. 日本眼科学会専門医制度生涯教育講座[総説86]ぶどう膜炎アップデート2021
  5. 眼科学第2版
  6. Vogt-Koyanagi-Harada disease presenting as optic neuritis

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