Sagging Eye Syndrome(SES)とは
Sagging Eye Syndrome(SES)は、眼窩プーリーを固定する組織の一部である外直筋と上直筋間結合組織(LR-SRバンド)が、主成分のコラーゲンの加齢性変性に伴い菲薄化し、外直筋重力によって下方移動して生じる。微小斜視角の遠見内斜視または上下斜視を発症する。LRの下降やLR-SRバンドの断裂が強くなると、近見でも内斜視となり、これをSESの重症型としてdistance independent esotropia(DIE)と呼んでいる。
Sagging Eye Syndrome(SES)の疫学
日本での後天性斜視の原因の第1位であり、加齢とともに有病率が増すことが知られている。日本では、後天性の両眼性複視を訴えた60歳以上の症例の24.2%がMRIで眼窩プーリーの異常を認めSESと診断されている。アメリカでも40歳以上の後天性両眼性複視を認めた症例の31.4%が臨床的にSESと診断され、年代ごとに割合は増加した。
Sagging Eye Syndrome(SES)の斜視の性状
LR-SRバンドの変性が左右対称であると、開散麻痺様斜視(遠見内斜視、近見斜位)を呈する。左右非対称であると、外方回旋を伴う微小上下斜視(下斜視眼に多い)を発症する。SESの平均斜視角は94%が水平、垂直ともに10Δ以下の微小角度であることも特徴的である。衝動性眼球運動は正常である。
Sagging Eye Syndrome(SES)の診断
診断基準は現在検討中のようだが、臨床的特徴をもって診断する。
特徴的な顔貌
SESは眼周囲組織の加齢性変化を認める。そのため、下記のような特徴的な顔貌を認める。
Sagging Eye Syndromeの特徴的顔貌
- 上眼瞼の脂肪が下方移動することなどにより上眼瞼がくぼむ(sunken upper eyelid:64%)
- 眼瞼腱挙筋腱膜の瞼板からの離断による腱膜性眼瞼下垂(aponeurotic blepharoptosis:29%)
- 下眼瞼の眼窩脂肪の隔壁が伸展し、脂肪織が前方に突出してくる下眼瞼の眼窩脂肪織によるふくらみ(baggy lower eyelid)
Eye Rounds HPより引用
heavy eye syndrome(HES)との鑑別
固定内斜視とも呼ぶ。軸性の強度近視に伴う進行性の内斜視で、強度近視により眼軸が進展することで、筋円錐内に収まりきらなくなり眼球後部が上直筋と外直筋の間から筋円錐外に脱臼し、LR-SRバンドが障害され内下転位に眼位が変位する。SESとの鑑別のためにMRIが必要となることが多い。
MRIの撮影条件は、脂肪抑制では軟部組織である眼窩プリーが描出されないため、冠状断T1あるいはT2強調画像を脂肪抑制せずに撮影し、視神経と眼球の接合部の前方3-6㎜付近を確認する。治療は上直筋と外直筋を眼球後方で全幅縫合して結合する横山法が基本である。
Sagging Eye Syndrome(SES)の治療
プリズム眼鏡が奏効することが多いが、遠方視時の斜視角が大きい場合は、斜視手術の適応となる。微小上下斜視の治療には、Graded Vertical Rectus Tenotomy(GVRT、段階的に垂直筋の付着部を切筋する術式)が有効である。
参考文献
- 眼科vol.64 No.7 2022
- あたらしい眼科 Vol.39, No.8, 2022
- 眼科 2021年12月臨時増刊号 63巻13号 特集 覚えておきたい神経眼科疾患
- Causes, background, and characteristics of binocular diplopia in the elderly
- Prevalence of Sagging Eye Syndrome in Adults with Binocular Diplopia
- Pivotal Role of Orbital Connective Tissues in Binocular Alignment and Strabismus The Friedenwald Lecture
- Divergence Insufficiency Esotropia: Surgical Treatment
- Sagging eye syndrome: connective tissue involution as a cause of horizontal and vertical strabismus in older patients
- Characterization of the position of the extraocular muscles and orbit in acquired esotropia both at distance and near using orbital magnetic resonance imaging
- Surgical procedure for correcting globe dislocation in highly myopic strabismus
- Effect of aging on human rectus extraocular muscle paths demonstrated by magnetic resonance imaging
- Saccadic velocity analysis in patients with divergence paralysis
- Current Prevalence of Myopia and Association of Myopia With Environmental Factors Among Schoolchildren in Japan
- Graded vertical rectus tenotomy for small-angle cyclovertical strabismus in sagging eye syndrome