- TS-1投与者の中には角膜上皮障害と涙小管閉塞が生じることがある。
- TS-1投与直後ではなく、投与後1か月~1年以降と発症期間に幅がある。
- TS-1中止で改善するが、患者さんの状態によって対応が異なるため、TS-1を使用する科と連携をとる必要がある。
TS-1角膜症と涙道障害
TS-1は5-FUのプロドラッグで、各種癌に適応があり治療に用いられる。TS-1の眼障害としては角膜上皮障害と涙小管閉塞が知られている。その同時合併は約30%とされている。また、S-1とカペシタビン(ゼローダ)では、5-FUの血中濃度の維持がより可能となった。そのため、眼障害を高頻度に生じることとなった。
角膜上皮障害の機序は涙液中に移行したTS-1が角膜上皮細胞の細胞分裂を抑制するためと考えられている。この角膜上皮障害はTS-1投与後1か月から1年以降と発症期間に幅がある。また、TS-1により約12.5%は涙道障害も生じうる。
TS-1角膜症および涙道障害の自覚症状
TS-1角膜症で多いのは霧視、視力低下であり、疼痛の訴えは少ない。一方、涙道障害では流涙(18%[3])の症状を訴える。
TS-1角膜症の分類
TS-1角膜症は細隙灯顕微鏡所見から4病型に分類できる。
Ⅰ型:角膜前面にSPK様の点状病巣が散在する
Ⅱ型:ハリケーン状のSPKで、特にepithelial crack lineを認める
Ⅲ型:白色隆起病巣を主体とする
Ⅳ型:角膜輪部を基底にした半月~円形状病巣
その他にも下記の所見がある。
- Sheet like lesion:上下の角膜輪部からシート状に異常上皮が侵入しているように見える。
- 結膜充血は目立たず、結膜上皮障害はない。
- 涙液メニスカスは正常か高い。
TS-1角膜症の治療
角膜保護薬(ソフトサンティア®など)に加え、0.1%FMを使用し、TS-1の中止で自然治癒(ほぼ100%との報告もある)するが、TS-1投与期間が長期となれば不可逆性の変化となりうる。もちろん、TS-1処方医とも連携をとる必要がある。
治療により、角膜障害は周辺部から改善を認め、完全に上皮障害が消失するまでには数か月間を要する。ただし、角膜障害完治後も予防のため人工涙液など角膜保護薬を続ける。
TS-1による涙道障害の治療
涙道閉塞する部位によって治療方針は異なる。涙小管、鼻涙管狭窄の場合はシリコンチューブ留置を行い、TS-1終了まで挿入をする。広範囲に涙小管が閉塞し、上下一方しか開通しない場合にはイーグルチューブ®を挿入する施設もある。
参考文献
- クオリファイ15メディカルオフサルモロジー20眼薬物治療のすべて(専門医のための眼科診療クオリファイ)
- あたらしい眼科 Vol.38,No.11,p1291,2021
- N Kim et al. Lacrimal drainage obstruction in gastric cancer patients receiving S-1 chemotherapy:Ann Oncol.23(8):2065-2071.2012