眼虚血症候群(内頸動脈閉塞)とは
内頸動脈閉塞は脳血流低下や頭蓋内塞栓を引き起こし脳梗塞の原因となる。眼動脈は内頸動脈の分枝であるため、内頸動脈の狭窄や閉塞があると、眼循環低下が慢性化して発生する前眼部および後眼部の所見、眼症状を眼虚血症候群という。高血圧、糖尿病(網膜症に左右差があれば積極的に眼虚血症候群を疑う)など動脈硬化をきたしうる疾患を基礎疾患とし、65歳前後の男性に好発する[1]。80%は片眼性である[2]。1年間の発症率は7.5人/100万人である[3]。
眼虚血症候群の臨床症状
1.急性期
- 自覚症状:
・一過性黒内障:網膜中心動脈やその分枝の塞栓による
・眼痛(40%) - 他覚症状:
軟性白斑、網膜出血、虹彩ルベオーシスを呈している場合が多い。網膜動脈閉塞症、前部虚血性視神経症などもある。
※静脈内圧上昇はないため、血管蛇行は多くない。
2.慢性期
- 他覚症状:
網膜周辺部出血、毛細血管瘤、新生血管(視神経乳頭新生血管、虹彩ルベオーシス、血管新生緑内障)
眼虚血症候群の検査
1.前眼部所見
- 虹彩ルベオーシス(67%)
- 虹彩ルベオーシスに伴う前房フレア、セル増加
- 虹彩ルベオーシスに伴う眼圧上昇(約半数)
2.後眼部所見
- 網膜動脈の狭細化
- 網膜静脈の拡張
- 眼底出血や毛細血管瘤
- 軟性白斑
- 網膜動脈の拍動
- cherry red spot
など
3.蛍光眼底造影検査
- 腕―網膜循環時間の遅延(通常10~15秒が30秒程度かかる)
- 網膜動静脈相の時間延長
- 脈絡膜血管の斑状充盈遅延
- 造影後期に網膜動脈血管壁から蛍光漏出
- 周辺部に網膜毛細血管瘤が出現していることが多い
※前眼部蛍光造影検査:虹彩ルベオーシス(67%に発生)早期発見に有用
腕―網膜循環時間遅延の原因疾患
他にも網膜中心動脈閉塞症、眼動脈閉塞、内頸動脈閉塞隅角緑内障、高安動脈炎などが挙げられる。
4.網膜電図(ERG)
Bright flash ERGでa,b波ともに振幅低下を認める。a波は網膜外層の虚血、b波は網膜内層の虚血による。
5.頸動脈エコー、MRA
非侵襲的に頸動脈狭窄の評価が可能で、これらで確定診断できない疑い例には頸部血管造影を施行する。
6.レーザースペックルフローグラフィー検査(LSFG)
LSFGでは眼血流・波形を非侵襲的に測定・解析することができ、4秒という短時間で網脈絡膜や視神経乳頭血流の血流差が一目瞭然となる。
眼虚血症候群の治療
汎網膜光凝固術(PRP)あるいは抗VEGF薬を硝子体注射する場合もある。血管新生緑内障や虹彩ルベオーシスがあるなら緑内障手術(濾過手術、繊維柱帯切除術)も考慮する。
脳外科的治療
内頸動脈血流改善を目的として、不完全閉塞には内頸動脈ステント留置術(CAS)、内頸動脈内膜剥離術(CEA)、完全閉塞には浅側頭動脈-中大脳動脈吻合などのバイパス術が適応となる。しかし、眼虚血症候群の脳外科的血行再建術後の視機能改善あるいは維持率はCEA後で40%、そもそも58%が施行しても指数弁以下、特に虹彩ルベオーシス眼では97%以下が指数弁であった。今後、低侵襲血行再建手術は発展し、新しい選択肢が誕生するかもしれない。
眼虚血症候群の予後
虹彩ルベオーシスがあると視力予後不良で、1年以内に97%が指数弁以下になるとされる。
参考文献
- The ocular ischemic syndrome. Clinical, fluorescein angiographic and carotid angiographic features
- Ophthalmoscopic findings in internal carotid artery occlusion
- Chronic ocular ischaemia
- クオリファイ5全身疾患と眼(専門医のための眼科診療クオリファイ)
- あたらし眼科Vol.39, No.1, 2022