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抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎とは
抗アクアポリン4(AQP4)抗体陽性視神経炎は特発性視神経炎の約10%に生じる難治性疾患である。通常の視神経炎の発症年齢より平均52.5歳と比較的高齢で、女性に多い(84%)。急激な視力低下をきたし、ステロイド治療抵抗性である。最近では、視神経脊髄炎(NMO)の眼症単一型であるNMOSDとして扱われている。
抗AQP4抗体陽性視神経炎の病態
抗アクアポリン4抗体が補体と結合して、視神経内のアストロサイトを攻撃する。視神経のアストロサイトは抗アクアポリン4抗体を多く発現しているため障害を受けやすい。
アクアポリン4は視神経を含む中枢神経系のアストロサイト、網膜のMüller細胞に分布している。
抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の症状
- 急激な視力低下
- 両眼性になりやすい
- 眼球運動痛を認める(53%)
- 視神経乳頭腫脹(34%)
- 視野障害(中心暗点、盲点中心暗点、水平半盲、両耳側半盲、同名半盲など様々)
抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の合併症・併発症
視神経脊髄炎(NMO)の初発症状である可能性もあるため、脊髄炎の症状である手足のしびれや温痛覚異常が起こりうる。また、しゃっくり(吃逆)や眼球運動障害(脳幹病変)をきたすこともある。
約80%の患者は抗核抗体、抗SS-A抗体、抗サイログロブリン抗体など自己抗体が陽性となることが多い。
抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の診断
- 抗アクアポリン4抗体+(ELISA法あるいはCBA法だが、測定感度としてはCBA法の方が高い。)
- 脂肪抑制造影T1強調画像、STIR、T2強調画像で高信号。視神経の病変長は特発性視神経炎に比べて長いとされる。
- 限界フリッカー値(CFF)↓
①は必須で、②と③は特徴的所見
NMOSD症例の髄液中では、インターロイキン6および補体は高値となる。
抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の治療
急性期
ステロイドパルス療法
初回治療はステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1000㎎を3日間DIV)を行い、中3~4日あけて視力改善なければもう1クール行う。
血漿交換療法
視力低下が続き、抗AQP4抗体陽性であれば血漿交換療法を1クール5~6回行うこともある。
ステロイドパルス療法のみを行った群とステロイドパルス療法+血漿交換療法を行った群では、血漿交換療法を追加した群の方が最終視力は良好であった。ただし、経過観察期間が2群で異なるので、それが視力に影響した可能性はある。
免疫グロブリン大量静注(IVIG)
免疫グロブリン大量静注(IVIG)は自己抗体中和作用、自己抗体産生抑制、B細胞抑制などにより、免役を調整する。IVIG療法は400㎎/kg/日を5日間連続で点滴静注するが、急速静注の場合は血圧が下降しうるため注意が必要である。
2021年に本邦で行われた多施設共同研究では、難治性視神経炎に対し、投与開始2週間後にlogMARが0.3以上改善した患者の割合とHumphrey視野計のMD値の改善量は、IVIG群の方がステロイドパルス療法群より有意に大きく高かった。また、抗AQP抗体の有無では、陽性の場合はステロイドパルス群のものと比較して有意に視力予後が良好であった。
寛解期
再発防止のため低用量のプレドニゾロン(5~10mg/日)単剤あるいはアザチオプリン(50~100mg/日)の併用投与に移行する。維持療法を行わないと、再発回数がが有意に高いとされている。
さらに、新たに3つの生物学的製剤が保険収載された。
エクリズマブ
エクリズマブは補体C5に対するモノクローナル抗体で、炎症性損傷と終末補体複合体形成を阻害する。血漿交換療法や免疫グロブリン療法を行っても再発する症例に用いる。
エクリズマブはPREVENT試験で抗AQP4抗体陽性NMOSDにおいて再発率は低いことが確認された。しかし、有害事象はエクリズマブ群で上気道感染症と頭痛の頻度が高かった。
ただし、重度の感染症や敗血症、髄膜炎菌感染症などを引き起こすことが副作用として知られている。特に髄膜炎菌感染症に注意すべきで、エクリズマブ投与前に髄膜炎菌ワクチンの接種が必須である。
投与方法:週1回900gを計4回投与する。その1週間後に1200㎎を投与し、その後は1200㎎を2週間ごとに投与していく。
サトラリズマブ
サトラリズマブはIL-6Rに対するモノクローナル抗体である。視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)の再発予防のために用いる。
サトラリズマブのNMOSD再発予防効果はSAKuraSky試験(ベースラインの免疫抑制剤にサトラリズマブを上乗せ併用)とSAKuraStar試験(サトラリズマブ単独投与)で報告されたが、NMOSDおよび抗AQP4抗体陽性視神経炎の再発リスクを低下させることが示されている。
ただし、エクリズマブと同様、感染症には注意が必要で、敗血症や尿路感染症などの副作用が知られている。サトラリズマブ投与中には血中CRPが上昇しない。
投与方法:1回120㎎を初回、2週間後、4週間後に皮下注射し、それ以降は4週間隔で皮下注射していく。
イネビリズマブ
イネビリズマブはCD19に対するヒト化モノクローナル抗体で、2021年6月に抗AQP4抗体陽性視神経炎を含むNMOSD再発予防及び身体的障害の進行抑制として保険収載された。B細胞や形質芽細胞を攻撃・破壊し、治療効果を発揮する。
N-MOmentum試験でNMOに対する有効性、再発防止効果が確認された。また、有害事象の種類や発生頻度はプラセボ群と差はなかった。
イネビリズマブの重要な副作用として、infusion reaction、B型肝炎ウイルスの再活性化、進行性多巣性白質脳症がある。また、イネビリズマブは妊娠可能女性に対して投与中-投与後半年は避妊を指導し、妊婦や妊娠の可能性のある女性に対しては投与しない方が望ましい。
投与方法:1回300㎎を初回、2週後に点滴静注し、その後初回投与から6カ月後に、行こう6カ月に1回の間隔で点滴静注する。
※投与時反応防止のため、投与前30分-1時間前に抗ヒスタミン薬および解熱鎮痛剤を経口投与、30分前に副腎皮質ホルモン剤を静脈内投与にて前投与し、患者の状態を十分に観察することが推奨されている。
※B細胞が減るため、生ワクチンや弱毒化ワクチンの接種は、投与4週間前までに行うことが推奨されている。
リツキシマブ
リツキシマブは、幹細胞やB細胞上に発現するタンパク質であるCD20抗原に特異的に結合する抗CD20モノクローナル抗体である。このモノクローナル抗体はB細胞を攻撃する。視神経脊髄炎スペクトラム障害の再発予防のために用いられる。
副作用はイネビリズマブと同様、投与時反応と感染症に注意する必要がある。
投与方法:成人には、リツキシマブとして1回375mg/m²を一週間間隔で4回点滴静注する。その後、初回投与から6ヶ月毎に1回1000mg/bodyを2週間間隔で2回点滴静注する。
抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の予後
ステロイドパルス療法および血漿交換療法を行わないと視機能障害が永続的に続く可能性が高い。急性期治療後(ステロイドパルス療法orステロイドパルス療法+血液浄化療法)のlogMARの中央値が0.4で、視力機能予後は不良である。
再発に関しては、初回の視神経炎発症から6カ月の経過観察期間中(治療:ステロイドパルス療法)、特発性視神経炎は35%再発に対して、抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎では58%に再発を認めた。
参考文献
- 今日の眼疾患治療指針第3版
- クローズアップ神経眼科診断
- Retina medicine vol.10 no.1
- 第126回日本眼科学会総会
- 眼科vol.64 No.7 2022
- Epidemiologic and Clinical Characteristics of Optic Neuritis in Japan
- Anti-idiotypes against autoantibodies and alloantibodies to VIII:C (anti-haemophilic factor) are present in therapeutic polyspecific normal immunoglobulins
- Intravenous immunoglobulins suppress immunoglobulin productions by suppressing Ca(2+)-dependent signal transduction through Fc gamma receptors in B lymphocytes
- Antibodies to the CD5 molecule in normal human immunoglobulins for therapeutic use (intravenous immunoglobulins, IVIg)
- Intravenous immunoglobulin treatment for steroid-resistant optic neuritis: a multicenter, double-blind, randomized, controlled phase III study
- Treatment of Neuromyelitis Optica Spectrum Disorder: Acute, Preventive, and Symptomatic
- Trial of Satralizumab in Neuromyelitis Optica Spectrum Disorder
- Safety and efficacy of satralizumab monotherapy in neuromyelitis optica spectrum disorder: a randomised, double-blind, multicentre, placebo-controlled phase 3 trial
- Inebilizumab for the treatment of neuromyelitis optica spectrum disorder (N-MOmentum): a double-blind, randomised placebo-controlled phase 2/3 trial
- 富田ら.覚えておきたい神経眼科疾.金原出版株式会社
- International consensus diagnostic criteria for neuromyelitis optica spectrum disorders
- Aquaporin-4 Serostatus and Visual Outcomes in Clinically Isolated Acute Optic Neuritis
- Clinical Characteristics of Anti-aquaporin 4 Antibody Positive Optic Neuritis in Japan
- Cytokine and chemokine profiles in neuromyelitis optica: significance of interleukin-6
- Increase of complement fragment C5a in cerebrospinal fluid during exacerbation of neuromyelitis optica
- Eculizumab in Aquaporin-4-Positive Neuromyelitis Optica Spectrum Disorder