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オルソケラトロジーについてまとめてみた

ドクターK
ドクターK
皆さんはオルソケラトロジーをご存知ですか?
寝ている時にコンタクトレンズをつけて視力が回復する方法ですよね。知っていますが、日中を裸眼で生活できるなんて嘘っぽいです
ななし
ななし

こう思われてる方も少なくないでしょう。この疑問を解決すべく記事を書いていますので、このまま続きをご覧ください。

オルソケラトロジーとは

オルソケラトロジーは「特殊なハードコンタクトレンズを寝ている間に装着し、睡眠中に角膜の形を強制することで、日中を裸眼で過ごすことができる矯正方法」です。

最近、眼科でよく見かけるようになったオルソケラトロジーですが、その歴史は長く、アメリカでは30年以上前から使用されている治療です。

アメリカで使用されて以降、世界中でその有効性と安全性が確認され、日本でも2009年から厚生労働省に承認されています。

さらに、 日本コンタクトレンズ学会オルソケラトロジーガイドライン委員会が作成するオルソケラトロジーガイドライン第2版によれば20歳未満は慎重投与ではありますが、 2017年12月には子どもにも処方することができるようになりました

現在普及している第3世代のレンズは

  1. ベースカーブ:光学部のカーブ
  2. リバースカーブ:溝状の移行部
  3. フィッティングカーブ(アラインメントカーブ):安定目的
  4. 周辺カーブ:ベベルに相当

2、3がオルソケラトロジーレンズに特徴的

オルソケラトロジーの特徴

オルソケラトロジーの特徴は以下の通りです。

オルソケラトロジーの特徴

  1. 日中に眼鏡、コンタクトレンズなしで生活できる
  2. コンタクトレンズを付けてから効果が出るまでは数日から数週間かかる
  3. 最低でも6時間以上の睡眠をとる必要がある
  4. コンタクトレンズを外せば元の状態に戻る
  5. 近視抑制効果が期待できる

(詳細は『 子どもにオルソケラトロジーって効果あるの? 』を参考にしてください)

オルソケラトロジーとよく比較される矯正方法として、レーシックという矯正方法があります。レーシックとオルソケラトロジーの大きな違いは、

レーシックが不可逆的な矯正方法である一方で、オルソケラトロジーは可逆的な矯正方法であること

です。

不可逆的というのは元に戻らないという意味で、レーシックは手術ですから、一度行うと元の状態には戻りません。

しかし、オルソケラトロジーはコンタクトレンズですから、コンタクトレンズを外せば徐々に元の状態に戻ります。これがレーシックとオルソケラトロジーの大きな違いです。

オルソケラトロジーの近視進行抑制に関するエビデンス

オルソケラトロジーのエビデンス

  • Choら(香港、2005年):2年間でオルソケラトロジー(OK)治療群の眼軸長伸長は眼鏡装用対照群と比較して46%近視抑制されていた。ただし、対照群がhistorical dataであった。
  • Wallineら(米、2009年):2年間でソフトコンタクトレンズ(SCL)と比較して56%の眼軸伸長抑制効果があった。ただし、対照群がhistorical dataであった。
  • Kakitaら(日本、2011年):2年間で単焦点眼鏡装用と比較して36%の眼軸伸長抑制効果があった。
  • Santodomingo Rubidoら(スペイン、2012年):2年間で単焦点眼鏡装用と比較して32%の眼軸伸長抑制効果があった。
  • Choら(香港、2012年):2年間でOK群は単焦点眼鏡群と比較して43%の眼軸長伸長抑制効果があった。治療開始年齢が若い(7-8歳)の方が抑制効果が強く得られていた。
  • Charmら(香港、2013年):強度近視眼に対してオルソKでー4Dだけ部分的に近視矯正を行い、残った近視度数に対してメガネ装用させるというhigh myopia-partial reduction オルソKと命名されたRCTを行った。2年間の眼軸長変化が検討され、対照群に比べて極めて強い(63%)眼軸長伸長抑制効果が確認された。
  • Chenら(2013年):トーリックレンズによる矯正でも52%の近視進行抑制効果があった。
  • Chanら(2014年):一卵性双生児の一方にオルソK、他方に単焦点眼鏡を処方し、オルソK群の方が眼軸長伸展は抑制されていた。

Orthokeratology for slowing myopic progression in a pair of identical twins

  • AAO公式レポート(2019年):オルソKは眼軸長伸長を2年間で約50%抑制し、年齢が若く瞳孔径が大きい症例の方が得られる抑制効果は強いと述べている。ただし、細菌性角膜炎の発症には注意すべきであると追記している。

Use of Orthokeratology for the Prevention of Myopic Progression in Children: A Report by the American Academy of Ophthalmology

  • 治療開始時の近視が強い方が得られる眼軸長伸長抑制効果は大きいとされている。また、白人よりもアジア人の方が得られる抑制効果は強いと報告されている。

Efficacy, Safety and Acceptability of Orthokeratology on Slowing Axial Elongation in Myopic Children by Meta-Analysis

Higher spherical equivalent refractive errors is associated with slower axial elongation wearing orthokeratology

  • 治療期間が長くなるにつれ抑制効果は減弱する傾向があるが、5年間の長期にわたっても約3割の眼軸長伸長抑制効果があった。

Long-term effect of overnight orthokeratology on axial length elongation in childhood myopia: a 5-year follow-up study

  • スペインでは7年間のフォローアップ研究、日本では10年間のレトロスペクティブ研究が行われ、有効性と許容できる安全性が確かめられている。

Long-term Efficacy of Orthokeratology Contact Lens Wear in Controlling the Progression of Childhood Myopia

Safety and efficacy following 10-years of overnight orthokeratology for myopia control

  • 早期介入群(6-8歳)に開始した方が抑制効果が強くなる。

Protective Role of Orthokeratology in Reducing Risk of Rapid Axial Elongation: A Reanalysis of Data From the ROMIO and TO-SEE Studies

  • リバウンド現象:14歳よりも若い時期にはオルソKを中断しない方が良い。もし中止する場合も少なくとも6カ月は経過観察を行い、急速な進行があれば治療を再開すべきである。ただし、この報告は症例数が少なく、登録までの真のランダム化がなされていない点に注意が必要である。

Discontinuation of orthokeratology on eyeball elongation (DOEE)

オルソケラトロジーの適応と禁忌

オルソケラトロジーの適応や禁忌について色々なHPで取り上げられていますが、これに関してはガイドラインを見るのが良いでしょう。

日本コンタクトレンズ学会オルソケラトロジーガイドライン委員会 のオルソケラトロジーガイドライン第2版を簡単にまとめると

オルソケラトロジーの適応

  1. 20歳以上が原則(20歳未満は慎重処方)
  2. 屈折値が安定している近視(-4D以内)、乱視の屈折異常(1.5D以内の直乱視、0.75D以内の倒乱視)
  3. 軽度~中等度の近視、乱視(詳細はガイドラインを参照)
  4. ドライアイ等の目の病気がなく、角膜内皮細胞密度≧2000/mm²

※極端にflatな角膜はオルソケラトロジーの効果が出にくく、極端にsteepな角膜はセンタリングが困難

※強度近視眼や高度乱視眼に対する処方も試みられている。2013年の報告では、強度近視眼にオルソケラトロジーを用いて4Dだけ部分的に近視矯正を行い、残存した強度近視度数に対して眼鏡を用いると、63%の眼軸長伸長抑制効果を認めた。また、TO-SEEでは、トーリックオルソケラトロジーレンズを用いて3.5Dレンズまでの直乱視を有する近視眼に対して、2年間で52%の近視抑制効果が確認された。

※Partial Reduction:近視が残ったとしても近視抑制効果があるという概念だが、それでは意味がないという理由で矯正量の限界をー4.0Dと明記するようになった。

つまり、

目の病気がなく、最近変化がない軽度~中等度近視あるいは乱視のある成人以上の患者

がオルソケラトロジーの適応ということになります。

オルソケラトロジーの禁忌

  1. 適応に適合しない患者さん
  2. インフォームドコンセントが得られない患者さん
  3. 定期検診(最低3ヵ月/1回)に来院困難な患者さん
  4. 妊婦、授乳中の女性あるいは妊娠の計画がある女性
  5. 免疫疾患(AIDS、自己免疫疾患など)、糖尿病がある患者さん
  6. CL装用、またはケア用品の使用により、眼表面あるいは眼付属器にアレルギー性の反応を起こす、または増悪する可能性のある患者さん
  7. 活動性の角膜感染症を有する患者さん
  8. 角膜、結膜、眼瞼の疾患、およびそれらに影響する損傷、奇形などがある患者さん
  9. 重症ドライアイ
  10. 角膜知覚低下
  11. 治療途中の車あるいはバイクの運転をする、あるいは視力変化が心身の危険に結びつくような作業をする患者で他の屈折矯正法を一時的にでも用いることが困難な場合

オルソケラトロジー慎重処方

  1. 未成年者
  2. 薬物性ドライアイ、視力に影響が出る可能性のある抗炎症薬の投与中か、その予定患者
  3. 暗所瞳孔径が大きな患者

満足度が高い症例は

  • 近視矯正量が小さい
  • 治療後の裸眼視力が良い
  • 高次収差が小さい
  • コントラスト感度が良い

オルソケラトロジーの安全性と注意点

オルソケラトロジーができそうだということが分かった方の中には、「オルソケラトロジーって安全なの?」と思われた方も少なくないと思います。

実は、以前僕が書いたブログ『オルソケラトロジーは安全かどうか調べた研究』で、オルソケラトロジーの安全性については説明しています。その記事を要約すると、

オルソケラトロジーは”きちん”と使えば安全

とのことでした。この”きちんと”というのが重要です。

”きちんと”使い方を守って、”きちんと” 定期的に眼科を受診する

これがオルソケラトロジーの安全性確保のためには重要になります。20歳未満の場合ですと、視力が安定しないこともありますが、この”きちんと”使えない場合があるため慎重に使用することが適応基準に組み込まれている理由です。

具体的には、下記のような注意点を説明しています。

オルソケラトロジーの注意点

  1. 基本的に毎晩の装用が必要で、可逆性であること。
  2. 視力は変動する場合があること。
  3. 40歳前後からは老視が始まるため、オルソケラトロジー使用が近見視力の障害や眼精疲労の原因になること。
  4. コントラスト感度の低下、ハロー・グレアが発生する可能性があること。
  5. 装用時間による視力補正効果は個人差があるため、適切な装用スケジュールを守ること。
  6. 特殊なデザインのHCLのため、HCLによる目のトラブル(角膜上皮障害、感染症など)が起こりやすいこと。
  7. オルソケラトロジー終了時はオルソケラトロジーは返却すること。
  8. 本人の理解不足、オルソケラトロジーの効果不十分な場合は、オルソケラトロジーを中止する場合があること。
  9. オルソケラトロジーは自由診療であること。

低濃度アトロピン点眼併用療法

オルソケラトロジーと0.01%アトロピン点眼併用療法は、1年間でオルソケラトロジー単独療法よりも眼軸長伸長を53%抑制するという結果が報告された。2020年には続報が報告され、28%の抑制効果が示された。

Efficacy of combined orthokeratology and 0.01% atropine solution for slowing axial elongation in children with myopia: a 2-year randomised trial

弱度近視と中等度近視に分けてサブグループ解析を行うと、弱度近視ではオルソK+アトロピン併用群はオルソK単独群よりも有意に抑制されていたが、中等度近視では群間の優位さが認められなかった。

類似のRCTが香港でも行われ(AOK study)、併用群の1年間の眼軸長変化は、対照のオルソK単独群よりも0.09㎜抑制されており、Kinoshitaらの結果と類似している。しかし、2年間の経過観察を行った続報では、併用群は単独群よりも約50%の眼軸長伸長抑制を達成している。また、AOK studyでは中等度以上の近視眼においても、弱度近視と同様に併用による相加効果を認めった。

One-year results of 0.01% atropine with orthokeratology (AOK) study: a randomised clinical trial

機序の詳細は不明であるが、アトロピン点眼により瞳孔径が軽度拡張するため、光学的なメリットをより瞳孔径が軽度拡張するため、光学的なメリットをより受けやすくなる可能性や、脈絡膜厚の肥厚による眼軸長過伸展抑制効果などが推察されている。

オルソケラトロジーの合併症

国内臨床試験での合併症頻度

  • 角膜上皮ステイニング:5.7%
  • アレルギー性結膜炎:4.0%
  • 角膜輪状鉄沈着(corneal iron ring):0.7%
  • 球結膜充血:0.4%
  • 角膜上皮びらん、Dimple veil、下眼瞼腫脹、麦粒腫、球結膜下出血:0.1%

1.角膜上皮ステイニング

意図的な角膜形状変化による上皮への負担、涙液交換減少と睡眠時の装用による低酸素状態、また、フィッティング不良によっておこる。

対処法としてはレンズ装用中止、必要であれば点眼治療を行うことがある。上記対処で速やかに改善する。

2.アレルギー性結膜炎

レンズの構造が特殊なため、汚れが多くなってしまう。レンズ装用は中止し、点眼加療を行う。また、レンズケア法など、レンズ管理方法の確認を行う。

3.角膜輪状鉄沈着(corneal iron ring)

リバースカーブに一致して、茶褐色のリング状色素沈着を認める。リバースカーブ下には涙液が貯留し、夜間装用では瞬目がないため、涙液が停滞しやすいとされています。そのため、停滞した涙液中の鉄分が角膜上皮に沈着する。病的変化ではないため、治療は行わず、継続しても問題ないと考えられる。治療を中止すればこの沈着は消失することも知られている。

4.Dimple veil

レンズ下の規法による角膜表面の圧痕で、不正乱視を惹起しうる。予防方法としては装着液を十分に滴下する。

臨床試験では発症ではなかったが、感染性角膜炎等のCLに起因する合併症には注意する必要がある。アメリカで行われた研究では1年で1万人あたり7.7人に発症すると報告された。ロシアからの報告では4.9-5.3人とされた。日本からの報告でも5.4人とされる。これは他のCLに比べて高くない割合となっている。なお、本邦における調査では原因菌は緑膿菌やアカントアメーバが約7割を占めた。

The risk of microbial keratitis with overnight corneal reshaping lenses

Pediatric Microbial Keratitis With Overnight Orthokeratology in Russia

Incidence of microbial keratitis associated with overnight orthokeratology: a multicenter collaborative study

5.コントラスト感度低下、薄暮時視機能低下

近視矯正量が増加すると、角膜不正乱視(非対称成分)や高次波面収差は増加し、コントラスト感度低下や薄暮時視機能低下をきたす。

6.見かけ上の眼圧低下

角膜厚現象により、見かけ上の眼圧が2mmHg程度低下する。

7.ハロー・グレア

8.不正乱視・高次収差

オルソケラトロジーのケア方法

オルソケラトロジーレンズは界面活性剤によるすり洗いに加え、ヨード剤による消毒を推奨する。また、レンズケースは、中和剤除去のため水道水で洗浄・すすぎをする。

その後は乾燥させ定期的に交換する。特にリバースカーブは汚れやすく、プロージェントなどを用いて処理するとよい。

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ポピドンヨード剤はアレルギー反応が出ることがあります。アナフィラキシーショックとなり、命にかかわることがありますので、ネットなどで購入される方は注意してください。

全身に蕁麻疹が出たり、腹痛・嘔吐、呼吸が苦しいなどの症状があれば、必ず内科等を受診し、ヨード剤を使用した旨を伝えるようにしてください。

おわりに

オルソケラトロジーという治療について理解していただけましたか?オルソケラトロジーが子どもでも使用可能になったことがきっかけとなり、オルソケラトロジーを扱う眼科は増えました。しかし、まだ日本でオルソケラトロジーが承認されて10年ほどしかたっていません。

今のところオルソケラトロジーは安全だとされていますが、さらに20年、30年使用するとどうなるか、そのデータは揃っていません。とはいえ、日中裸眼で過ごすことができ、寝ているときに矯正が完了するため、非常に満足度の高い矯正方法だと実感しています。

皆さんの中でオルソケラトロジーに興味がある方は、この記事を参考にしていただくのと同時に、自分の信頼できる眼科医の下で治療をすることをおすすめします。それではまた次の記事でお会いしましょう!

参考文献

  1. オルソケラトロジーガイドライン第2版
  2. お茶の水・井上眼科クリニックHP
  3. オルソためそ。HP
  4. 渡辺眼科HP
  5. 日本眼科学会オルソケラトロジー講習会
  6. あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020
  7. あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025
  8. Orthokeratology for slowing myopic progression in a pair of identical twins
  9. Use of Orthokeratology for the Prevention of Myopic Progression in Children: A Report by the American Academy of Ophthalmology
  10. Efficacy, Safety and Acceptability of Orthokeratology on Slowing Axial Elongation in Myopic Children by Meta-Analysis
  11. Higher spherical equivalent refractive errors is associated with slower axial elongation wearing orthokeratology
  12. Long-term effect of overnight orthokeratology on axial length elongation in childhood myopia: a 5-year follow-up study
  13. Efficacy of combined orthokeratology and 0.01% atropine solution for slowing axial elongation in children with myopia: a 2-year randomised trial
  14. The risk of microbial keratitis with overnight corneal reshaping lenses
  15. Pediatric Microbial Keratitis With Overnight Orthokeratology in Russia
  16. Incidence of microbial keratitis associated with overnight orthokeratology: a multicenter collaborative study

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