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眼瞼下垂とは
眼瞼を挙上する上眼瞼挙筋、上瞼板筋の機能低下、Muller筋の機能低下、あるいは眼窩・眼瞼周囲組織の変化によって起こる病態で、原因は多岐に渡る。特に、上眼瞼縁から角膜中心までの距離(MRD-1)が3.5㎜以下になった状態を眼瞼下垂とする。MRD-1が3.5~2.0㎜を軽度、2.0~0㎜を中等度、それ以上を重度の眼瞼下垂とする。
眼瞼下垂フローチャート
眼瞼下垂の診断
誤診を防ぐためにDESTINIYで網羅的な診断を。
D: Droop-the amount of ptosis present;下垂量
E: Excursion of the levator or Enophthalmos;上下視時の挙筋幅または眼球陥凹
S: Superior rectus function;上直筋機能
T:Tearing-Schirmer testin;シルマーテスト
I:ILIFF testing for levator function;Iliffテスト(上眼瞼を裏返して上方視、眼瞼の戻りの有無で小児の挙筋機能を評価)
N:Nerves-corneal sensitivity and myasthenia gravis;神経、角膜知覚、重症筋無力症
Y:Yawn-Bell’s phenomenon and jaw-wink phenomenon;あくび、Bell現象、Marcus Gunn現象
※他の症状として、顎を挙上した頭位を取り、眉毛を吊り上げた顔貌を示すことが多い。
※小児の場合は視機能面にも影響があり、弱視や斜視、屈折異常を伴いやすいことにも留意する。
眼瞼下垂の分類と鑑別
0.偽眼瞼下垂
偽眼瞼下垂は様々な疾患に見られる。
偽眼瞼下垂の原因
- 下斜視眼:下方視のときと同様、眼瞼挙筋が抑制されている。
- 小眼球
- 眼球癆
- 眼瞼皮膚弛緩
- 甲状腺眼症:片眼の瞼裂が開大のため、相対的に瞼裂が狭小にみえる。
- 眼瞼けいれん、顔面けいれん
- 角結膜の異物や炎症:反射性に閉瞼が亢進する。
- 顔面神経麻痺:前頭筋の弛緩が著しいと眉毛位置が下がる。
- 閉瞼失行:開瞼の開始障害である。
1.先天眼瞼下垂
眼瞼下垂の原因で最も多い(約8割)のが先天眼瞼下垂である。片眼性、両眼性いずれも常染色体優性遺伝の形式を取ることが多い。片眼性が80%を占める。
先天眼瞼下垂には動眼神経麻痺、ミオパチーあるいは外傷によるものがあるが、通常みられるものは上眼瞼挙筋の形成不全によるものである。上眼瞼挙筋と上直筋は発生母体が同じなので、ときどき上転障害を合併することもある。眼瞼下垂による視力障害はそれ自体によるものではなく、角膜乱視や斜視の合併によることが多い。また、生後1カ月を過ぎると、自分で前頭筋を使って開瞼するようになる。
2.後天性眼瞼下垂
加齢性によるものが最も多い。
3.疾患による眼瞼下垂
眼瞼下垂を合併する疾患
- 重症筋無力症
- 筋ジストロフィー(Kearns-Sayre症候群、眼咽頭型筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー)
- 動眼神経麻痺
- Horner症候群
- Marcus Gunn下顎眼瞼炎連合運動症候群
- 眼筋麻痺性片頭痛
- 13トリソミー(Patau症候群)、18トリソミー(Edwards症候群)、21トリソミー(Down症候群)
4.外傷性眼瞼下垂
外傷によって上眼瞼挙筋の麻痺や断裂、外傷性動眼神経麻痺が生じると外傷性眼瞼下垂となる。
眼瞼下垂の治療
0.術前評価
Ⅰ.挙筋機能
下方視してもらった状態の上眼瞼縁の位置を0mmとして、そこから上方視してもらった状態の位置を測定する。
挙筋機能の評価
- 10㎜以上→正常(good)
- 5㎜~10㎜→fair
- 5㎜未満→poor
Ⅱ.Heringの法則
患側の上眼瞼を用手的に挙上させると、対側の眼瞼が下垂してくる現象を指す。この状態で患側のみ手術すると健眼の眼瞼が下垂することがある。よって、Heringの法則がある場合は両眼の手術を行うこととなる。
Ⅲ.ドライアイ、眼球運動障害
術前にドライアイがあると、術後は瞼裂が開大するため涙が蒸発しやすくなり、ドライアイが重症化することがある。また、動眼神経麻痺などで眼球運動障害があり複視を認める場合には片眼手術とする場合がある。
Ⅳ.外傷後、手術後
外傷後の眼瞼下垂は、一過性の眼瞼挙筋麻痺によることもあり、受傷後6カ月程度までは回復する可能性がある。また、再手術など眼周囲の手術後の場合は、前回手術の腫脹や瘢痕が安定するのに3カ月程度を要するため、それ以降で手術を検討する。
1.先天性眼瞼下垂
上眼瞼が瞳孔領にかかったり、上眼瞼による眼球圧迫で乱視が強く出たりする場合は、弱視等の原因になるため手術適応となる。治療は手術が主で、生後6カ月以降なら何時でもできる。
上眼瞼を横走靱帯まで内部吊り上げ術を行い、挙筋の腱膜の一部切除短縮と瞼板上に再縫合する手術を行う。この術式が涙器に影響なく、一番生理的に近い手術とされる。特に、小児に良く用いられているのはWhitnall横走靱帯吊り上げ術である。その他にも眼瞼挙筋短縮術、前頭筋吊り上げ術などがある。
2.後天性眼瞼下垂および疾患による眼瞼下垂
厳密な基準はないが、自覚症状と重症度が一致し、手術により症状が改善すると判断できる場合に適応となる。また、疾患が原因となる眼瞼下垂では原因の加療を行い、それでも改善を認めない場合は手術を検討する。
3.外傷性眼瞼下垂
通常は挙筋腱膜が断裂していることがほとんどのため、挙筋腱膜の断端を見つけ縫合する。また、上眼瞼挙筋の麻痺や動眼神経麻痺が疑われる場合は、自然回復が期待できるため3~6カ月程度経過観察とし、必要に応じてステロイドやビタミンB12 製剤の投与を行う。
4.術式
眼瞼下垂の手術適応①
- 挙筋機能正常(挙筋機能10㎜以上)→挙筋前転術(経皮的あるいは経結膜的)
- 挙筋機能5~10㎜→状況に応じて挙筋前転術あるいは前頭筋つり上げ術
- 挙筋機能5㎜未満→前頭筋つり上げ術
眼瞼下垂の手術適応②
- 軽度眼瞼下垂:MMCR(Müller筋短縮術)
- 軽度~中等度眼瞼下垂:挙筋腱膜前転法
- 中等度~重度の眼瞼下垂:挙筋短縮術
- 挙筋機能のない重度の眼瞼下垂:前頭筋吊り上げ術
挙筋腱膜前転法
挙筋腱膜とMüller筋の間を剥離し、挙筋腱膜のみ前転し、瞼板へと固定する方法である。腱膜は伸展性が乏しく、瞼縁のカーブが急峻になりうる。また、腱膜の外角に減張切開を加えずに大幅な前転固定を行うと、術後閉瞼不全とその合併症が遷延しうる。このため軽度から中等度の眼瞼下垂に良い適応とされる。
Müller筋タッキング
挙筋腱膜とMüller筋の間を剥離し、Müller筋のみ瞼板上にたぐりよせて固定する方法である。Müller筋はやわらかく、伸展性があるため、瞼縁が自然なカーブになりやすい。閉瞼不全も生じづらい。しかし、軽度の下垂に対してタッキング幅が6㎜程度と少量の場合、早期に再発しやすい。kokuboらの報告では、術後1年間の経過観察の再発率は、挙筋腱膜前転方で4%、Müller筋タッキングでは15%という結果であった。術中所見でMüller筋が非常に菲薄化し、瞼結膜および角膜が透見可能な場合、十分な幅のMüller筋タッキングでも低矯正、あるいは早期再発例が多い。この場合は挙筋腱膜前転法と同時に◠行う。このため、Müller筋タッキングは中等度の眼瞼下垂に良い適応となる。
挙筋短縮術
挙筋腱膜とMüller筋を一塊にして瞼結膜から剥離し、同時に前転し、瞼板上へ固定する方法である。矯正力が強い。しかし、血管豊富な瞼結膜とMüller筋の間を剥離するため、手技がやや煩雑なため、術中の出血や腫脹により術中定量と術後の開瞼に差が生じる恐れがある。
Müller筋タッキングと挙筋腱膜前転法の併用
Müller筋タッキング後、挙筋腱膜の後面から腱膜のwhite lineを確認し、腱膜後面から瞼板へ前転を追加する。Müller筋と瞼結膜の間を剥離する必要はなく、眼窩隔膜を切開する必要がないため低侵襲で、簡便とされる。腱膜前転を併用することで、眼瞼下垂再発予防効果も期待できる。挙筋短縮術と同様に、中等度から重度の眼瞼下垂に良い適応と考えられる。
前頭筋吊り上げ術
眉毛上部の前頭筋の動きを吊り上げ材料(糸、シリコンロッド、筋膜、ゴアテックスシートなど)を用いて眼瞼に連動させる方法である。挙筋機能が不良で、他の挙筋群短縮で効果がない重度の眼瞼下垂に行う。吊り上げ材料には生体材料と人工材料がある。生体材料では、一般的な大腿筋膜は再発率が低く、感染症などの合併症が少ない。しかし、長期的には術後拘縮により過矯正になり、兎眼や睫毛内反症の原因となりうる。人工材料はナイロン糸やシリコンロッドは再発率が比較的高いが、合併症や犯行痙性が少ないとされる。
5.手術後
術後は血腫形成や過矯正・低矯正が生じうる。過矯正のため兎眼が生じた場合には、術後1週間程度で再固定を行う。また、低矯正による場合も同様の処置が行われる。
参考文献
- 眼科学第2版
- 今日の眼疾患治療指針第3版
- あたらしい眼科Vol.38, 臨時増刊号, 2021
- Ptosis repair options and algorithm
- Comparison of postoperative recurrence rates between levator aponeurosis advancement and external Müller’s muscle tucking for acquired blepharoptosis
- External levator advancement vs Müller’s muscle-conjunctival resection for correction of upper eyelid involutional ptosis