結膜異物
1.結膜異物とは
眼科の新規患者の4.4%を占め、その75%は男性という報告がある。瞼裂に異物が飛入し、流涙や眼痛を訴える。角膜上に0.5mm以上の異物であれば涙によって眼外に流されるが、目をこするとそれが大きい異物の場合は円蓋部に移動することもある。半数以上が上瞼板結膜に移動する。
2.結膜異物の診断
細隙灯顕微鏡だけで診断可能な場合もあるが、細い毛や小さな塵は見えづらいので、必ずフルオレセインを用いて見落としを避ける必要がある。結膜円蓋部は知覚が鈍いため、疼痛が無くても異物が存在することがある。特に、毒針毛などは硝子体内に侵入するとぶどう膜炎をきたすため注意が必要である。
3.結膜異物の治療
点眼麻酔後に異物除去を行う。
- 鉄粉異物:異物針を使って鉄粉を除去する。沈殿した錆は異物針の尖端で削り取る。
- 毒針毛:無鉤鑷子で露出している根元部分をはさんで引き抜く。もし途中で折れて残った毒針毛は、異物針の尖端で切開しながら掻き出す。
- 結膜摘出後はどの症例も必ず眼瞼を翻転し、フルオレセインと残った異物を洗い流し、抗菌眼軟膏を点入する。切開など侵襲的な処置をした場合には、抗菌点眼と眼軟膏を処方し、再診するよう指示する。
角膜異物
1.角膜異物とは
角膜異物が新規患者の7.0%を占めるという報告がある。幅0.5㎜、厚さ0.02㎜以下の異物は角膜上に残り角膜異物になりうる。特に、鉄粉が角膜異物として多いとされる。男性が仕事中に飛入することが多い。
鉄粉による角膜異物
鉄粉は30分で上皮に錆び付き、12時間経過するとBowman膜まで達する。その後、24~72時間で鉄粉下に錆輪となり、72時間を経過すると完成した錆輪の周囲が溶解して鉄粉異物はフィブリンに包まれ、周囲の角膜組織から隔離されるようになる。上皮層であれば自然脱落しうるが、実質まで達している場合は残存することが多い。
角膜知覚神経密度の関係で、鉄粉の位置が中央部であれば受診後早期、周辺部では数日してから受診する場合が多い。また、鉄粉異物では鉄イオンが実質融解を来す可能性があり、1カ月経過してから角膜穿孔したという報告もある。
2.角膜異物の症状
疼痛、異物感、充血、流涙が多い。異物が光軸に関わると視機能低下をきたすこともある。
3.角膜異物の診断
細隙灯顕微鏡で確認できる。ただし、前眼部に毒針毛などがある場合には硝子体内に移行がないか確認する必要がある。また、角膜全層を貫く線状の混濁は眼内鉄片異物を疑う。いずれも見逃せば失明しうるので必ず確認する必要がある。
4.角膜異物の治療
点眼麻酔後に異物除去を行う。
- 鉄粉異物は鉄錆の出現が特徴的である。鉄粉以外であれば、多くは角膜上に載っているだけなので、すくうだけで除去できる。
- 鉄粉は埋もれていることがあるため掻き出す必要がある。
- 仮に大きな鉄粉でも受傷後72時間経過すると、周囲が溶けだすので摘出は容易となる。ただし、錆を残すと混濁の原因になるので、錆は可能な限り取り除く。
- 前房に達する異物や摘出中に穿孔する恐れがある深層の異物は、手術室で摘出する。
- 毒針毛は実質深層まで達することがあり、角膜表面に末端が露出したものだけを無鉤鑷子で引き抜く。再診時にそれを繰り返す。途中で折れた毒針毛はそのままにする。経過中に炎症が起これば、ステロイドと抗菌点眼とを用いて鎮静化を図る。
- 角膜異物摘出後は全例で洗眼、抗菌眼軟膏を点入する。そして、抗菌点眼薬、角膜保護液、抗菌眼軟膏を処方する。摘出痕が角膜上皮を覆うまでは就寝前に抗菌眼軟膏を点入させる。
眼窩内異物
1.眼窩内異物とは
異物が刺入され、留置されたものを眼窩内異物という。通常、眼瞼を貫通するため、眼瞼部外傷を伴い、さらに涙小管断裂を合併することもある。眼窩先端部のみならず、頭蓋内にまで及ぶこともあり、失明や重篤な後遺症を残すことがある。成人では勤務中や酩酊時に多く、小児では箸などをもったまま転倒した時に多い。
2.眼窩内異物の診断
受傷歴など問診から眼窩内異物を疑う場合には、まずCTを施行するべきである。ただし、CTで金属(磁性体)を疑う残存異物があればMRIは禁忌となる。そうでなければ詳細な位置や状況を知るためにMRIを撮ることもある。
3.眼窩内異物の治療
可能な限り早急に治療を行う。受傷早期であれば異物の到達経路をたどりやすい。基本的には全身麻酔での手術が望ましい。涙小管断裂などを伴う場合は合わせてその治療も行う必要がある。
眼内異物
1.眼内異物とは
工場や作業場での金槌、グラインダー、ドリル、爆発、交通事故での金属片、プラスチック片、ガラス片などが眼内に飛入することで眼内に異物が残る。多くは小さな金属異物が強角膜を介して飛入する。異物の大きさ、内容、飛入部位および経路によって様々な眼内組織が損傷する。
2.眼内異物の症状
飛入した部位によって異なるが、異物感や眼痛、視力低下をきたすことはあるが、鉄粉など小さい異物の場合は自覚症状が乏しいこともある。
3.眼内異物の診断
眼表面および眼内においては、細隙灯顕微鏡検査や眼底検査などから異物飛入の有無、また、異物飛入があればその眼球損傷の程度などを判断できる。明らかな異物、開放創がある場合にはCT検査(軸位断面と冠状断面で薄い切片で異物の有無を調べる)を施行する。CTを行うと、異物の飛入部位だけでなく、磁性体の有無も判別可能である。
その他の検査は、
- 単純X線写真:Waters法を用いて異物を検出する。
- MRI:磁性体が疑われる場合は禁忌
- 超音波検査:CTなどでは描出できない異物を検出できる。特に、強膜近傍の異物に有効とされる。しかし、飛入部が開放創で自己閉鎖していない場合には、圧迫で眼球内容物が脱出し、虚脱する恐れがあるため注意する。
4.眼内異物の治療
開放創縫合、異物摘出、感染予防を行う。また、その他損傷部位に対しては、その部位に応じた治療を行う。
- 角膜:開放創があれば角膜は10-0ナイロン、角膜輪部と強膜では8-0、9-0ナイロンで胞互応する。
- 水晶体:水晶体摘出
参考文献
- 今日の眼疾患治療指針第3版
- あたらしい眼科Vol37,8,2020