妊娠時にその病態が増悪しうる疾患が存在する。糖尿病もその一つとして知られているが、妊娠時の糖尿病は3つのタイプに大別される。妊娠前に糖尿病がある糖尿病合併妊娠、妊娠後に発見される妊娠糖尿病、妊娠中の明らかな糖尿病の3つである。また、糖尿病は様々な合併症をきたす疾患であり、眼科合併症としては糖尿病網膜症が知られている。
この記事では3つの糖尿病別に解説し、最後に現在の基本的な治療方針を解説していく。
糖尿病合併妊娠
糖尿病合併妊娠
- 妊娠前に糖尿病と診断
- 確実な糖尿病網膜症がある
妊娠患者はそうでない場合(非妊娠患者)と比べると、その糖尿病網膜症の進展リスクは高い(1.63-2.48倍[1])ことが知られている。そして、妊娠時の糖尿病網膜症が重症であればあるほど進展のリスクは高くなる。しかし、近年は周産期血糖管理の改善により、進展の頻度もかつてより低下していると報告されている[2]。
とはいえ、増殖前と増殖糖尿病網膜症は妊娠中および産褥期に悪化しやすい。よって、その病気に達して入れば、網膜光凝固術など網膜症に対する加療を行うまで避妊をするのが望ましい。そして、出産後も網膜症は増悪しうるので眼科受診継続は必要である。
妊娠糖尿病
妊娠糖尿病
- 75gOGTTにおいて下記基準の1つ以上を満たす
①空腹時血糖値≧92mg/dL(5.1 mmol/L)
② 1 時間値≧180mg/dL(10.0 mmol/L)
③ 2 時間値≧153mg/dL(8.5 mmol/L)
妊娠糖尿病は糖尿病まで至っていないが、妊娠前に糖尿病を合併していた可能性もある。また、妊娠糖尿病は2型糖尿病を将来発症しうることが知られており、そのリスクは正常妊婦の7.43倍である[3]。
妊娠中の明らかな糖尿病
以下のいずれかを満たす
- 空腹時血糖値≧126mg/dL
- HbA1c値≧6.5%以上
妊娠中の明らかな糖尿病では糖尿病網膜症の合併率が妊娠糖尿病に比較して高い[4]。
妊娠に関連した糖代謝異常における眼底管理
増殖糖尿病網膜症のある患者は進行性であるため、妊娠中でも網膜光凝固術や硝子体手術を行うことがある。しかし一方で、糖尿病黄斑浮腫の第一選択である抗VEGF治療は、妊婦では安全性は確立されていないので、積極的に行うことはない。
特に妊娠初期に使用した場合、先天性異常や胎児死亡のリスクがあるため推奨されていない[5,6]。どうしても必要でインフォームドコンセントがあれば、ラニビズマブはクリアランスが速いため、抗VEGF治療として選択されるかもしれない[5]。