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糖尿病網膜症(DR)

糖尿病網膜症(DR)とは

糖尿病網膜症(DR)は高血糖により代謝異常が生じ、様々なサイトカインやケモカインが誘導される。その結果、糖尿病網膜症に特徴的な細小血管障害が生じ、糖尿病の診断があれば確定診断となる。日本では後天性視覚障害原因の第2位(2015年)で、年間約3000人がDRにより失明している。

DRの基本病態は網膜の血管透過性亢進・血管閉塞・血管新生の3つに大別される。

  1. 血管透過性亢進:高血糖による代謝異常によって、サイトカインやケモカインが誘導される。そして、毛細血管内皮細胞のタイトジャンクションを主体とする内血液網膜関門が破綻する。その結果、血管透過性が亢進し赤血球が漏出すると網膜出血になり、網膜内に血漿成分が漏出すると網膜浮腫となる。さらに、浮腫で網膜内にたまった脂質が硬性白斑とされる。
  2. 血管閉塞:血管内皮細胞が障害され、微小血栓が形成され、血管閉塞が引き起こされる。血管閉塞領域に隣接して、数珠状静脈拡張やループ形成といった静脈異常や網膜内細小血管異常(IRMA)が生じる。また、網膜虚血があると、視神経線維の軸索輸送が障害され、軟性白斑となる。
  3. 血管新生:網膜毛細血管が広範囲に閉塞すると、VEGFをはじめとした血管新生促進因子の過剰産生が起こり、血管新生が促進される。後部硝子体剥離などにより硝子体が牽引されると、新生血管のある部位では硝子体出血を生じる。
    さらに、線維芽細胞様細胞などの細胞が新生血管周囲に増殖し、線維血管性増殖膜が形成されると、硝子体と網膜との間の癒着が強固となり、硝子体牽引によって牽引性網膜剥離を生じる。

糖尿病黄斑症

糖尿病に伴う黄斑部の病変を総称した言い方であり、黄斑浮腫、虚血性黄斑症、網膜色素上皮症の3型がある。黄斑浮腫の頻度が最多で、糖尿病黄斑症≒黄斑浮腫とされることが多い。

DRの分類

日本では改変Davis分類、新福田分類が最も普及している。しかしながら、欧米諸国では改変Davis分類はあまり用いられず、国際糖尿病網膜症重症度分類を統一して使用する傾向にある。

改変Davis分類

病期を単純、前増殖、増殖の3つに分ける。

単純糖尿病網膜症(血管透過性亢進)

高血糖は血管壁を障害し、血管透過性が亢進する。血液の成分が血管外へ漏出し、さまざまな眼底所見を呈する。網膜浮腫、硬性白斑、網膜出血があるが、いずれも中心窩に及べば視力は低下する。

血管壁の障害は血糖コントロールで改善しうるため、内科医と連携して治療を行う。単純糖尿病網膜症以降の病期になると不可逆性の変化になるため、血糖コントロールだけでは進行を止めることができない

増殖前糖尿病網膜症(網膜血管閉塞)

高血糖がさらに持続すると、網膜血管は閉塞し始める。軟性白斑が多発する。軟性白斑は網膜細小血管閉塞による梗塞巣である。そのため、蛍光眼底造影検査(FA)で軟性白斑に一致して無血管野があることが多い。

治療としてはこの無血管野に対して網膜光凝固術を行い、病期を進行させないようにするのが一般的である。一般に、無血管野が3象限以上に広がれば汎網膜光凝固を施行する。

増殖糖尿病網膜症(網膜新生血管)

無血管野があると、その代償で網膜に新生血管が発生する。網膜新生血管は網膜と硝子体を架橋し癒着させる。牽引性網膜剥離や血管新生緑内障が生じると失明しうる。血管新生緑内障では線維柱帯が新生血管で覆われ、房水の流出抵抗が上昇して眼圧が上昇する。

ETDRS分類

アメリカで行われた大規模な臨床試験による結果が反映されており、客観的で再現性の高い分類とされる。しかし、臨床研究での使用が前提で、日常診療で利用するにはやや詳細な所見が必要となる。

国際糖尿病網膜症重症度分類

世界各国で様々な分類があったため、2002年にAAOが国際的な統一的分類を発表した。ETDRSの結果に基づいた重症化リスクなどが記載されており、診察所見から具体的な危険度が確認できる。眼科医だけでなく、一般的に使用しやすいよう簡便な分類が目指されている。

新分類と従来の分類の比較表

IRMA;intraretinal microvascular abnormalities;網膜内細小血管異常

NPDR;non-proliferative diabetic retinopathy

PDR;proliferative diabetic retinopathy

DRの症状

DR初期は無症状だが、糖尿病黄斑症を併発すれば視力低下変視症、硝子体出血を併発すれば視力低下飛蚊症、牽引性網膜剥離を併発すれば視力低下視野狭窄を呈する。適切な治療が行われないと失明に至る恐れがある。

DRの合併症

1.白内障

詳細不明だが、糖尿病患者では全年齢で白内障罹患率が高いとされる。混濁は皮質白内障か後嚢下白内障とされる。

2.ぶどう膜炎

原因は不明だが、非肉芽腫性線維性虹彩炎である。毛様充血を伴い、前房蓄膿やフィブリン析出を伴うものもある。ステロイド点眼で消炎、散瞳薬で虹彩後癒着を予防を図る。

3.角膜障害

糖尿病患者では角膜知覚低下、涙腺機能低下による涙液の量的質的異常、上皮接着の不良、内皮の形態学的異常などを伴っていることが多い。これらがベースとなり、内眼手術や外傷を契機に角膜障害を発症することがある。特に硝子体手術時に上皮浮腫が生じ、視認性確保のため上皮擦過を行うと、治癒までに時間を要する場合がある。

4.外眼筋麻痺

外眼筋を支配する神経(動眼、滑車、外転神経)の栄養血管が虚血になると突然の複視をきたすことがある。頻度としては動眼神経・外転神経麻痺が多い。滑車神経麻痺や2つ以上の麻痺を合併する複合麻痺は少ない。

糖尿病性動眼神経麻痺では、内側を走る動眼神経の運動線維が障害されるため、瞳孔障害は起こりづらい(瞳孔回避)。90%以上は数か月以内に自然軽快するが、斜視が残存した場合には斜視手術を行う必要がある。

5.その他

視神経症、糖尿病黄斑浮腫、屈折・調節異常など

DRの検査

1.細隙灯顕微鏡検査

角膜障害、ルベオーシス、白内障の有無などを確認し、眼底では黄斑部の網膜表面や網膜断面の状態を詳細に観察する。

2.倒像鏡眼底検査

糖尿病網膜症に特徴的な眼底所見を確認する。

3.蛍光眼底造影

DRの診断、病態把握、治療方針の決定、治療効果の判定を行うためフルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)を行う。

  • 点状の過蛍光:毛細血管瘤
  • びまん性の過蛍光:血管透過性亢進
  • 淡い低蛍光:毛細血管床閉塞
  • 限局性の過蛍光:新生血管

などの所見がみられる。

4.光干渉断層計(OCT)

糖尿病黄斑浮腫の診断には欠かせない。

  • 網膜膨化(ERMを伴った膨化など)
  • 嚢胞様黄斑浮腫
  • 漿液性網膜剥離

糖尿病網膜症の治療

内科での血糖コントロールに加え、網膜無血管野には網膜光凝固術が基本で、増殖糖尿病網膜症には硝子体手術を選択する。近年は硝子体手術前に抗VEGF薬を注入し、血管新生を抑制することで治療成績が向上している。

抗VEGF薬は増殖膜の線維化を促進し、牽引性網膜剥離を増悪する危険性もあるため、投与後数日での硝子体手術が推奨されている。0.1以下の視力低下の糖尿病黄斑症に対しては、局所網膜光凝固術やステロイド、抗VEGF薬の眼局所投与も有効である。

病期別の治療

単純糖尿病網膜症

血管壁の障害は血糖コントロールで改善しうるため、内科医と連携して治療を行う。単純糖尿病網膜症以降の病期になると不可逆性の変化になるため、血糖コントロールだけでは進行を止めることができない。

増殖前糖尿病網膜症

無血管野に対して光凝固を行い、病期を進行させないようにするのが一般的である。一般に、無血管野が3象限以上に広がれば汎網膜光凝固を施行する。

増殖糖尿病網膜症

牽引性網膜剥離に対しては硝子体手術、血管新生緑内障に対しては緑内障手術、両者共通して抗VEGF薬を使用する。牽引性網膜剥離では牽引の原因になっている増殖膜を切除する。

一方、血管新生緑内障早期に血管新生を退縮させると眼圧のコントロールが得られる。また、抗VEGF薬を硝子体注射することで、虹彩・隅角の新生血管が退縮して眼圧下降が得られる場合がある。

抗VEGF薬の効果がある間(1~2週間)に、汎網膜光凝固を完成させると、多くの症例で眼圧コントロールが可能となる。

糖尿病黄斑浮腫の治療

1.硝子体注射

抗VEGF薬、トリアムシノロンなどのステロイドを硝子体注射する。効果は長くても2~3か月程度であり、反復投与する必要がある。また、硝子体注射では1000例に1例は眼内炎が生じ、抗VEGF薬は高価で、トリアムシノロンは白内障眼圧上昇を高率に誘発するという問題もある。

(投与例)

  1. マキュエイド硝子体内用(40㎎)1回4㎎/0.1ml 硝子体内投与
  2. ルセンティス硝子体内注射液(10㎎/ml)1回0.5㎎/0.05ml 硝子体内投与
    初回投与後1カ月に1回診察をし、視力が安定するまでには1カ月ごとに投与する。
  3. アイリーア硝子体内注射液(40㎎/ml)1回2㎎/0.05ml硝子体内投与
    初回投与から1カ月ごとに1回、連続5回導入期として硝子体内投与、その後は通常2カ月ごとに1回、硝子体内投与する。

2.網膜光凝固術

増殖前網膜症以降の病期糖尿病網膜浮腫に対して行われる。蛍光眼底造影検査を行い、広範なIRMAや無血管野がある場合は後極部を除く全領域に汎網膜光凝固を行う。

汎網膜光凝固の場合、SuperQuad160やQuadra Asphericなどの接眼レンズを用いて、出力200mW、凝固時間20ms、凝固径200μmで凝固を行う。全部で2000~3000発程度打つ。

ETDRSによれば漏出点となる毛細血管瘤に光凝固、併せてびまん性浮腫がある部位にグリッド光凝固を行うと黄斑浮腫の治療に有効だとされる。また、黄斑浮腫に対して光凝固を行っておくことは、汎網膜光凝固に伴う黄斑浮腫の悪化による視力低下例を半分に減少させる。

3.硝子体手術

硝子体手術は硝子体または増殖膜による硝子体の影響、硝子体出血・混濁や硝子体液中の生理活性因子などを除去する目的で施行される。

後部硝子体剥離を作製し、トリアムシノロンで可視化して黄斑上の残存硝子体皮質を除去する。さらに、内境界膜を剥離すると、多くの症例で黄斑浮腫が吸収され、その効果は長く持続するとされる。

参考文献

  1. 網膜硝子体case20study
  2. クオリファイ5全身疾患と眼(専門医のための眼科診療クオリファイ)
  3. 今日の眼疾患治療指針第3版

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