眼瞼とその疾患

マイボーム腺機能不全(MGD)

ドクターK
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・マイボーム腺機能不全(MGD)ってどんな病気なの?

と疑問をお持ちの方の悩みを解決できる記事になっています。

マイボーム腺とは

マイボーム腺(瞼板腺)は上下眼瞼内に存在する外分泌腺であり、涙液の油層を分泌し涙液の蒸発を抑制する。上眼瞼に約25本、下眼瞼に約20本ある。その他にも、この油層は涙液安定性の促進、涙液の眼表面への伸展の促進などの働きをしている。このマイボーム腺の機能に異常がある状態をマイボーム腺機能不全(MGD)と言い、眼不快感など様々な症状をきたすことが知られている。

マイボーム腺機能不全(MGD)とは

1980年にアメリカのDr.Korbにより初めて使われた疾患概念で、後部眼瞼炎の一因であり、ドライアイの主因となっている。マイボームの主成分はワックスエステルやコレステロールエステルで、脱落したマイボーム腺上皮細胞なども含まれている。通常のマイボームは眼瞼の温度で融解するのに対し、MGD患者のマイボームは眼瞼の温度よりも高い融点(約+4℃)を示すという報告がある。

マイボーム腺機能不全(MGD)の疫学

平戸度島スタディによれば、MGDの有病率は32.9%で、リスクファクターは男性、高齢、脂質異常症治療薬の経口摂取ということが分かった。その他にも脂質異常症や喫煙、メタボリックシンドロームなども関連があるとされている。また、ドライアイ全体の約86%がマイボーム腺関連疾患であることが報告されている。さらに、MGDはドライアイを併発しやすく、その併存率は12.9%とされている。

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マイボーム腺機能不全(MGD)の症状

自覚症状として閉塞部周囲の充血異物感などを訴えることが多い。また、ドライアイを合併することがあるため、ドライアイの症状を認めることもある。

他覚症状として閉塞部の眼瞼縁の隆起・不整、眼瞼結膜の乳頭増殖、眼球結膜の充血、びまん性表層角膜炎などを認める。

マイボーム腺機能不全(MGD)の検査

マイボーム腺の形態を観察する検査としてマイボグラフィー、機能を評価する検査としてインターフェロメトリー法があるが、これら検査を実施できる施設は限られている。

1.マイボグラフィー

翻転した瞼の裏から光を透過する、あるいは赤外線光を用いて眼瞼を観察する。特に、赤外光を利用したタイプは短時間で非侵襲的に観察が可能とされている。画像の白い部分はマイボーム腺の自然光を反映し、黒い部分はマイボーム腺がない部分を示している。

正常はマイボーム腺が白く直線的に並んでいる一方、MGDではマイボーム腺の脱落、短縮、屈曲、拡張などの所見を呈する。なお、アレルギー性結膜炎患者では屈曲、コンタクトレンズ装用では短縮していることがある。

マイボグラフィー

  • スリットランプ付属型(DC-4,TOPCON)
  • 持ち運び型(Meibom-pen,JFC)
  • ケラトグラフ付属型(Keratograph 5M,OCULUS)
  • ドライアイ検査複合機(idra, SBM)
  • ティアインターフェロメトリー付属型(LipView Ⅱ, Johnson &Johnson Vision)

2.インターフェロメトリー法

光の干渉像により涙液層を観察する方法で、涙液油層の質や量の変化を光干渉と鏡面反射の原理を用いて非侵襲的に観察する。マイボグラフィーで測定したマイボーム腺消失面積と、インターフェロメトリー法で測定した涙液油層の厚さとは負の相関があるとされている。

マイボーム腺機能不全(MGD)の診断

MGDワーキンググループにより、MGDは「様々な原因によってマイボーム腺の機能がびまん性に異常をきたした状態であり、慢性の眼不快感を伴う」と定義されている(文献2)。

また、MGDは下記のように分泌減少型と増加型、そしてそれぞれを原発性と続発性に分けることができます。日本では分泌減少型が多いとされている。

文献2より引用

そして、分泌減少型の診断基準も同グループから提唱されています。

MGDとドライアイの鑑別として、眼脂はあまりないにも関わらず、流涙感がある場合はMGDの恐れがあります。

マイボーム腺機能不全(MGD)の治療

0.セルフケア

MGDの治療は眼瞼とドライアイに対して行います。眼瞼の治療としては温罨法ベビーシャンプーを用いた眼瞼清拭を行うことが重要である。これらセルフケアを毎日続けることが症状改善につながる。また、MGDのリスクファクターとして、脂質異常症や喫煙、メタボリックシンドロームなどがあるため、それら生活習慣の改善も行う必要がある。

温罨法と眼瞼清拭の簡単なやり方

お風呂のお湯で濡らしたタオル等を5分間ほど目に当てる。それを朝晩2回行い、指の腹でまつ毛の根元近くを易しくマッサージする。最後に暖かいタオルで拭き完了となる。家にシャワーしかない人や出張先であえれば下記のような商品も代替可能ある。

1.薬物療法

MGDの眼瞼縁の炎症には常在菌、主にアクネ菌の関与が考えれている。よって、炎症に対してフルメトロン点眼液、アクネ菌に対してセフェム系やマクロライド系抗菌薬点眼あるいは眼軟膏を行う。さらに、テトラサイクリンなどの抗菌薬内服が有効な場合もある。また、マイボーム腺の閉塞がある場合は、マイボーム腺圧迫鉗子などを用いて強制的に内容物を排出させるのが効果的とされている。一方、ドライアイは人工涙液など角膜保護液を使用する。

良質な脂を取ろう!

マイボーム腺機能不全は脂質異常症など食事に関係しています。マイボーム腺機能不全では食事も治療法の一つとして提唱されており、特にオメガ3、EPA、DHAといった魚の脂が良いとされています。

2.IPL

酒さ治療でIPLを受けた患者が、ドライアイの自覚症状の改善を訴えたことから、MGD患者にIPLを施行したところ、眼瞼縁の血管拡張が改善し、BUTが延長することが分かった。

IPLは波長500~1200nmの幅広い非レーザー光(パルスライト)を瞬時に皮膚表面から照射する。波長フィルターにより選択的に特定の組織(色素、血管、皮脂腺など)にエネルギーを集中させることができる。

MGDは、マイボーム腺の開口部閉塞や眼瞼縁の炎症などにより、マイボーム腺脂質(マイバム)の分泌が低下し、ドライアイや慢性眼不快感を引き起こすと考えられており、IPL は以下の作用機序でMGDを改善すると考えられている。

  • 眼瞼縁の血管拡張の持続抑制
  • 抗炎症作用
  • マイボーム腺排出促進
  • 微生物・ダニへの直接作用
  • 皮脂腺・表皮への間接的作用

一方、霰粒腫は、マイボーム腺の閉塞・内容物の貯留、慢性炎症により生じる肉芽腫性炎症性病変であり、IPL による以下の機序がその予防と治癒に寄与するとされる。

  • 局所の血管拡張・炎症制御
  • 脂質融解・排出促進
  • Demodex や細菌叢への影響

治療の適応と禁忌

適応
  • MGD を伴うドライアイ
  • Demodex 関連眼瞼炎
  • 難治性霰粒腫
禁忌
  • 光過敏症・てんかん発作既往歴のある方
  • Fitzpatrick Skin Type Ⅴ 以上(Ⅳは注意が必要)。Fitzpatrick Skin Type は日焼けしやすさによりⅠ〜Ⅳまで分類したもの。
  • 施術部位に感染症(ヘルペス、帯状疱疹、化膿性皮膚炎)や未治療の重度皮膚疾患がある場合
  • 角膜ヘルペスの既往がある場合
  • 金属インプラントやペースメーカー埋め込み部位が施術範囲にある場合
  • 妊娠中・授乳中の方(安全性が確立していないため推奨されない)
  • 悪性腫瘍治療中、免疫抑制状態中
  • 日焼け直後や極端に皮膚が敏感な状態
  • 急性炎症疾患があるとき
  • 重度の瘢痕体質、ケロイド体質
  • 施術部位に開放創や外傷がある場合

皮膚炎やアレルギーの既往がある患者には、施術前に皮膚テストを実施することが推奨される。術後には一時的な紅斑、腫脹、色素沈着、熱感などの副反応が生じることがあるが、多くは数日以内に自然に消失する。しかし、まれに水疱形成や色素脱失などの合併症が報告されているため、それらに関して十分な事前説明が必要である。

Thermal Pulsation system

Thermal Pulsation System は、熱と加圧を同時にマイボーム腺に与えることで、腺内の固化したマイバムを効果的に融解し、自然な分泌を促すことを目的とした眼瞼加温加圧装置であり、MGD治療専用の医療機器である。LipiFlow®システムは、上下眼瞼の内側に加温を行い、外側に加圧パッドを装着し、制御された温度(約42.5℃)で眼瞼を12分間温めながら、断続的なパルス加圧を加える

主な作用機序は下記の通りです。

  • 固化脂質の融解
  • 安全かつ選択的な加圧
  • 腺機能の再活性化

多くの臨床試験で、LipiFlow®治療後に涙液脂質層の改善、涙液の蒸発減少、BUT(涙液破壊時間)や自覚症状(SPEED、OSDI などのドライアイ自覚症状スコア)の改善が報告されている。効果は1回の治療で数ヶ月〜半年以上持続するという報告もあるが、腺萎縮が著しい場合や進行した MGD では効果が限定的である。繰り返しの施術が必要になるケースも多い。

適応と禁忌

適応
  • 軽度から中等度の MGD 患者
  • 脂質層貧困の低下による蒸発亢進型ドライアイ
禁忌
  • 急性眼感染症
  • 急性炎症
  • 重度の腺萎縮例やマイボーム腺消失例(効果が期待できない)
  • 最近眼手術を受けた場合や、眼周囲に外傷・手術創がある場合
  • 装置挿入がきわめて困難な眼瞼変形、狭小な眼裂
  • 重度のドライアイで角膜上皮障害が著しい場合

治療後に一時的な異物感や軽度の腫れ、紅斑が出現することがあるが、通常は数日で消失する。まれに一過性の霧視、アレルギー反応、角膜擦過傷などが報告されている。

参考文献

  1. あたらしい眼科2010;27;627-31(mgd_teigi
  2. あたらしい眼科Vo.l38,No.5,2021
  3. 眼科学第2版
  4. Borchman D, Foulks GN, Yappert MC, Bell J, Wells E, Neravetla S, Greenstone V. Human meibum lipid conformation and thermodynamic changes with meibomian-gland dysfunction. Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 52:3805-17, 2011. 
  5. Reiko AritaTakanori MizoguchiMotoko KawashimaShima Fukuoka Shizuka KohRika ShirakawaTakashi SuzukiNaoyuki Morishige.Meibomian Gland Dysfunction and Dry Eye Are Similar but Different Based on a Population-Based Study: The Hirado-Takushima Study in Japan.Am J Ophthalmol . 2019 Nov;207:410-418
  6. Intense pulsed light treatment for dry eye disease due to meibomian gland dysfunction; a 3-year retrospective study
  7. Intense Pulsed Light Therapy for Patients with Meibomian Gland Dysfunction and Ocular Demodex Infestation
  8. Primary melanoma of the skin: recognition and management
  9. Restoration of meibomian gland functionality with novel thermodynamic treatment device-a case report
  10. Case report: a successful LipiFlow treatment of a single case of meibomian gland dysfunction and dropout
  11. Treatment for meibomian gland dysfunction and dry eye symptoms with a single-dose vectored thermal pulsation: a review
  12. The sustained effect (12 months) of a single-dose vectored thermal pulsation procedure for meibomian gland dysfunction and evaporative dry eye
  13. 日本の眼科 96:7号(2025)

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