・網膜電図(ERG)の読み方が分からない。
と疑問をお持ちの方の悩みを解決できる記事になっています。
網膜電図(ERG)のまとめ
- 網膜電図には網膜全体を刺激するfull-field ERGと局所刺激によるfocal ERGがある。
網膜電図の波形の見方
- a波:網膜視細胞から発生する。数が多いため基本的には杆体細胞由来。
- b波:双極細胞、ミュラー細胞から発生している。
- 律動様小波(OP波):アマクリン細胞(無軸)細胞が発生源と言われている。
異常なERGと代表的な疾患
- Extinguished:網膜色素変性症など
- Subnormal
1)減弱型:ぶどう膜炎など
2)陰性型:網膜中心動脈閉塞症など。
3)律動様小波異常:糖尿病網膜症など - Supernoromal:高血圧性眼底など
- 局所ERGと多局所ERGは網膜の一部からの反応を確認できる。これらERGは明順応下で行うため、杆体細胞は抑制される。よって、これらERGは錐体ERGとも呼ばれる。
- 眼底所見に乏しい網膜疾患、原因不明の網膜あるいは視神経疾患疑いの鑑別などに用いられる。
網膜電図(ERG)とは
網膜電図(ERG)は網膜を光で刺激し、網膜から発生する活動電位の記録する検査である。この検査によって、網膜に機能障害が存在するかどうかを調べることができる。ERGには網膜全体を刺激する全視野ERGと局所刺激による局所ERGがある。
網膜電図(ERG)の対象となる疾患
- 前眼部・中間透光体が混濁して眼底が透見できない疾患の網膜機能評価
例)角膜混濁、白内障、硝子体混濁などがある時の網膜機能の評価に用いる。 - 網膜疾患の鑑別
例)網膜色素変性症と続発性網膜変性、白点状網膜炎と眼底白点症などの鑑別に用いる。 - 網膜疾患の補助診断
例)網膜中心動脈閉塞症、網膜色素変性症、小口病、若年性黄斑分離症、先天停止夜盲、高安病、糖尿病網膜症、錐体ジストロフィ、杆体1色型色覚などに用いる。 - 乳幼児などの網膜機能検査
例)視力検査などの自覚検査ができない患者に対する網膜機能検査の一つとして用いる。 - その他にも、原因不明の視力障害や視野障害がある場合に疑う。
網膜電位図(ERG)で出てくる用語
- a波:下向きの波で視細胞から発生する。
- b波:上向きの緩やかな波で網膜の内層(双極細胞、ミュラー細胞)から発生していると言われている。
- 律動様小波(oscillatory potential ;OP波):b波の上に乗っている小さな波で、アマクリン細胞(無軸)細胞が発生源と言われている。
網膜電位図(ERG)の検査手順
- 散瞳し、仰臥位で寝かせる。
- 不関電極を前額部の中央に、接地電極を耳たぶに置く。
- 20分間の暗順応を行った後、ここからは暗所の赤色光下で行う。
- ベノキシール点眼を行い、スコピゾルを付けた角膜電極を角膜上に装着し開始する。電極が不安定であればテープで固定する。
異常な網膜電位図(ERG)と代表的な疾患
- Extinguished(消失型):反応が消失し、ほぼ直線状になる。
例)網膜色素変性症、網膜全剥離、眼内炎、眼球癆、コロイデレミア、悪性腫瘍随伴網膜症
- Subnormal
1)減弱型:すべての波形成分が減弱している。
例)ぶどう膜炎、網膜部分剥離、小口病
2)陰性型:b波の振幅がa波より小さい。
例)先天停在性夜盲、若年網膜分離症、網膜中心動脈閉塞症、melanoma associated retinopathy。増殖糖尿病網膜症で陰性型を示すと、硝子体手術の予後か悪くなる。
3)律動様小波異常:糖尿病網膜症、網膜中心動脈閉塞症、ぶどう膜炎、高安病、初期のベーチェット病、全色盲
- Supernoromal:高血圧性眼底、虚血型網膜中心静脈閉塞症
局所ERG
局所ERGとは
一般に使用されている網膜電位図(ERG)は、網膜全体の反応を記録するものであるのに対して、網膜局所からERGを記録する方法として局所ERGと多局所ERGがある。ここでは黄斑部局所ERGについて解説する。
局所ERGの検査対象
- 眼底所見に乏しい網膜疾患(特に、occult macular dystrophy、初期のStargardt病、AZOOR)の診断として
- 黄斑部疾患の網膜機能の層別機能評価、あるいは治療前後の網膜の評価
- 視力低下の原因が不明で、視神経か網膜疾患かの鑑別
網膜電位図(ERG)局所ERGと多局所ERGは網膜の一部からの反応を確認できる。これらERGは明順応下で行うため、杆体細胞は抑制される。よって、これらERGは錐体ERGとも呼ばれる。
局所ERGの検査手順
- 散瞳し、ベノキシールで点眼麻酔後、コンタクトレンズ電極を挿入する。
- 接地電極は耳に装着し、眼底カメラの顎台に被検者を固定する。
- 眼底カメラの焦点を眼底に合わせて検査を開始する。
- 1回の検査で512回の反応を加算するので、記録時間は1分程度となる。
局所ERGの検査データの読み方
全視野ERGと同じ分類を用いる。ただし、時定数0.03秒の結果はa波とb波、時定数0.003秒の結果は律動様小波を示す。このようにa波とb波、律動様小波で分離して記録できるため、網膜内層が主に障害される疾患や黄斑浮腫を生じる疾患の評価に優れている。
多局所ERG
多局所ERGとは
多局所ERGは網膜の障害の程度と範囲を知りたい場合に用いられる。多局所ERGが診断に有用である疾患は、眼底に異常が少ないにもかかわらず、視力低下や視野欠損を訴える症例である。ただ、診断上の利点が確立しておらず、記録時間が長くなるため普及していない。
多局所ERGの検査対象
局所ERGの検査対象と類似している。
- 眼底所見に乏しい網膜疾患(特に、occult macular dystrophy、初期のStargardt病、AZOOR)の診断として
- 黄斑部疾患の網膜機能の層別機能評価、あるいは治療前後の網膜の評価
- 視力低下・視野異常の原因が不明で、視神経か網膜疾患かの鑑別
- その他のあらゆる網膜疾患の局所の錐体機能評価として
多局所ERGの検査手順
- 散瞳し、ベノキシールで点眼麻酔後、コンタクトレンズ電極を挿入する。反対眼はアイパッチなどで遮閉する。
- コンタクトレンズ型電球を装着した状態で、レンズを用いて矯正を行う。
- 被検者には常に中心の固視点を見ているように指示し、テレビモニターに映った刺激図形を見てもらう。
- これを合計で約4分から8分間行う。
疾患ごとの網膜電図の特徴
全視野ERG
1.糖尿病網膜症
検眼的に糖尿病網膜症を認めない時期から律動様小波(OP)が選択的に障害される。また、PRP後にa波もb波も振幅は減少するが、その減少の程度は同程度とされる。潜時は延長するが後に回復する。
皮膚電極を用いたポータブルタイプのERG記録装置では無散瞳で簡単にフリッカー応答を記録できる。糖尿病網膜症では網膜症が進行すると、振幅は低下し、その潜時は延長する。
2.網膜中心動脈閉塞症(CRAO)
CRAOは網膜内層循環の障害のため、一般的に陰性型になるとされる。中心動脈のみではなく、脈絡膜循環の障害を併発している場合はa波も減弱するため注意が必要である。
フリッカーERGの潜時が37msec以上では全症例でルベオーシスを生じ、33msec未満の眼ではルベオーシスは生じていない。また、重篤な自覚的視機能障害があっても、ERGは比較的よく保たれることがある。
3.網膜中心動脈閉塞症(CRVO)
虚血型のCRVOの一部はsupernormal ERGを呈する症例があり、視力予後がよく、抗VEGF後退硝子体内注射後に振幅は大きく減弱する。
4.細菌性眼内炎
Horioらが白内障術後眼内炎16例を解析し、急性発症(1週未満)でERGが陰性型の場合、予後はきわめて不良であったが、術後1週間以上経過後の発症でERGのb/a比が1より大きい場合は予後が比較的良好であったと報告している。
5.自己免疫性網膜症(AIR)
AIRは腫瘍随伴網膜症(PAIR)と非腫瘍随伴網膜症(nPAIR)の2つからなる。
PAIRにおいては腫瘍抗原と網膜蛋白質の間で免疫応答が発生し、nPAIRでは推定される感染性抗原と網膜蛋白質の間で免疫応答が発生する。
A.PAIR
PAIRには癌関連網膜症(CAR)と悪性黒色腫関連網膜症(MAR)がある。
癌関連網膜症(CAR)ではa波とb波に異常を生じ、悪性黒色腫関連網膜症(MAR)ではb波減弱で、陰性型となる。
B.nPAIR
a波、b波の異常など様々な異常を呈する。
6.後天性網膜内層機能不全
MiyakeらがERG所見に着目し、その他の臨床的特徴をまとめて一つの疾患概念として報告している。
高齢者の片眼に突然羞明を発症するが、非進行性で、原因は不明とされ、視力・眼底・光干渉断層計(OCT)・Goldmann視野検査は正常である。しかし、ERGでは混合応答で陰性型を呈し、錐体応答、杆体応答ともに著名に減弱する。
7.先天停在性夜盲(CSNB)
完全型では、杆体系と錐体系のON経路のシグナル伝達が障害されて、夜盲と視力低下を自覚する。不全型では杆体機能が残存しているため、振幅の低下した杆体応答がみられる。最大応答は完全型と同様に陰性型を呈するが、錐体系のERGが完全型とは大きく異なる。
錐体応答および30HzフリッカーERGの振幅は低下しており、ONとOFF応答が同等に低下している(図3、矢印)。不全型は杆体系のON応答および錐体系のONとOFF応答が不完全に障害されている。
局所ERGと多局所ERG
1.AZOOR類縁疾患
AZOORの類縁疾患には、
- 多発消失性白点症候群(MEWDS)
- 点状脈絡膜内層症(PIC)
- acute idiopathic blind spot enlargement(AIBSE)
- acute macular neuroretinopathy(AMN)
などがある。
ERGは混合応答で陰性型となり、錐体・杆体応答ともに著明に減弱する。
2.ヒドロキシクロロキン網膜症
3.黄斑疾患に対する治療評価
①VEGF治療の評価
加齢黄斑変性症(AMD)に対するアフリベルセプトの硝子体内注射による治療における黄斑機能変化について、導入期3回ののち隔月投与法で治療した場合、黄斑局所ERGは治療前と比べて全成分が3カ月後に改善し、a波とPhNRはその後も改善した。
全視野錐体ERGでは治療前と比べてa波は12ヶ月後に減弱し、PhNRは6カ月後と12カ月後に減弱した。しかし、ラニビズマブでの同様の検討では見られなかった。
②光線力学療法(PDT)による治療の評価
中心性漿液性網脈絡膜症(CSC)に対して、3㎎/m²のビスダインを用いた、半量のPDT後12カ月までの検討を行った。
加齢黄斑変性症に対する全量のPDT後早期に見られた一過性のa波およびb波の振幅低下はなく、総じて振幅はa波で有意な増加、b波で増加傾向、OPで不変、潜時でa波およびb波は短縮し、黄斑機能に対する有効性と安全性が示されている。
③硝子体手術の評価
黄斑円孔に対する内境界膜(ILM)翻転法の一つで、MHの上方のILMを剥離し、MHの下方に翻転する方法がある。この術式について、多局所ERGを用いて評価すると、上下網膜機能に差を認めなかったという。
参考文献
- 今日の治療指針第3版
- 眼科検査ガイド
- 目で見る臨床視覚電気生理学検査の進めかた
- 日本眼科学会専門医制度生涯教育講座『後天性網膜疾患の網膜電図』