2019年8月31日夜、NHK NEWS WEBで『着床前診断 遺伝性の目の病気で認められるか 判断を保留』という記事が投稿され、着床前診断の対象疾患に網膜芽細胞腫が取り上げられていたので、この話題について私見を踏まえてお話ししようと思います。
始めに言い訳させていただくと、ブログ記事なので網膜芽細胞腫については書いていません。網膜芽細胞腫については後日書きます。のちに記載しますが、網膜芽細胞腫に関しては良記事のサイトがいくつかあります。
1.着床前診断とは
さて、皆さんは着床前診断について正しく理解していますか?
このような発言を耳にすることがあります。これは出生前診断と着床前診断を混同して覚えてしまっています。そして、中には着床前診断については、皆目検討が付かない方もいらっしゃるでしょう。
ここで出生前診断と着床前診断について説明したいところですが、説明しようとすると軽くもう一つ記事ができてしまうので今回はあえて省略します。
今回のNHKさんのように、着床前診断はさまざまなメディアで取り上げられるようになりましたが、着床前診断による世界で最初の妊娠は1990年でした。一方の日本は2004年でした。このことを踏まえると着床前診断は、まだまだ安全性や有効性を確かめる臨床研究段階と言えそうです。
2.着床前診断の対象疾患
着床前診断は全ての疾患が分かるわけではなく、診断の対象となる疾患が決まっています。この対象疾患についてもJAPCOさんのHPに非常に分かりやすくまとまっています。「こいつ回し者じゃないか?知り合いでもいるんじゃないか?」と思われた方、ご安心ください。ただの眼科医であります。
さて、着床前診断の対象疾患は下記の通りです。
1)神経筋疾患
- 筋強直性ジストロフィー
- 副腎白質ジストロフィー
- Leigh脳症
- 福山型筋ジストロフィー
- 脊髄性筋萎縮症
- Pelizeus-Merzbacher
- 先天性ミオパチー
2)骨結合織皮膚疾患
- 骨形成不全症Ⅱ型
- 成熟型遅延骨異形成症
- 拘束性皮膚障害
3)代謝性疾患
- オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症
- PDHC欠損症(高乳酸高ビリルビン酸血症)
- 5,10-Methylenetetrahydrofolate reductase欠損症
- Lesch-Nyhan症候群
- ムコ多糖症Ⅱ型(Hunter症候群)
- グルタル酸尿症Ⅱ型
4)血液免疫
5)奇形症候群
6)染色体異常
重篤な遺伝性疾患児を出産する可能性のある染色体構造異常
7)その他
X連鎖性遺伝性水頭症
調べてて結構驚きました。国家試験では習わないような病気もちらほら。今までの対象疾患には眼科が主科(眼科医が主治医として診察等行う)となる疾患はありませんでした。ところが、今回はこの対象疾患の中に網膜芽細胞腫を入れるか否かとあり、眼科が主科になる可能性が出てきました。
3.網膜芽細胞腫とは
冒頭で網膜芽細胞腫については他のサイトに任せますと言いましたが、少し説明させてください。
網膜芽細胞腫はRB1遺伝子異常によって生じる遺伝性(常染色体優性遺伝)の眼疾患です。症状として視力低下や白色瞳孔などを認めます。しかし、発症は乳幼児なので症状を訴えることが少なく、「黒目の中が白い」と家族が気付いたり、乳児健診等で医師が気付くことがほとんどです。
また、網膜芽細胞腫は放置すると視神経や血管を介して脳、肝臓など全身に転移し、死に至る場合もあります。治療をしても再発する可能性があるため経過観察が必要です。
詳しくは
などをご覧いただければと思います。
さいごに
着床前診断の適応疾患拡大の中に、眼科疾患が含まれていたので今回このようなブログを書かせていただきました。網膜芽細胞腫は放っておくと死に至る恐れがあります。
治療したとしても視力は悪いままだったり、網膜芽細胞腫が再発するリスクもあるため経過観察は必要です。このことを踏まえると、失明および死の恐れがある網膜芽細胞腫は着床前診断の対象になると考えます。
しかし、着床前診断でしばしば議論されることではありますが、「生まれる子どもの命を我々が勝手に決め手いいいのか」「受精した後には人格や尊厳はないのか」といった倫理的問題、そして他の疾患への適応拡大の可能性があるため慎重に議論を重ねる必要があります。こうして小さく発言したところでお偉いさんには届かないかもしれませんが、今後の議論と適応の有無の発表を待ちたいと思います。
長文にも関わらず読んでいただきありがとうございました。記事の内容を少しでも良いなと思ってくださったら、ぜひ拡散、コメント、ツイッターのフォローをお願いします!