先天眼振とは
先天眼振には、乳児眼振、先天周期交代性眼振、潜伏眼振、眼振阻止症候群、点頭発作の5種類がある。乳児眼振と先天周期交代性眼振を合わせて、乳児眼振症候群と呼ばれる。
1.乳児眼振
乳児眼振とは
乳児眼振は生後2-4カ月頃に発症する。視覚系の明らかな器質的疾患を伴っていないものがほとんどなので、本態性乳児眼振とも呼ばれる。
発症初期から成長とともに揺れの状態が変化するのが特徴とされる。発症初期には水平の大きな等速度の往復運動を示し、電気眼振検査法(ENG)では三角波形を示す。
その後、生後6カ月頃から左右に細かく振子のように揺れる、振子様眼振が見られるようになる。ENGでは振子様波形が見られる。
1歳頃から左右どちらかに引っ張られるような律動眼振となり、ENGでは律動波形が見られる。
律動眼振では静止位(眼振が最も弱い位置)があり、その位置が正面になるような頭位異常を示す。なお、急速相に眼振が向く方向が「眼振の向き」と定義されている。
その他の乳児眼振の特徴
- 静止位より右を見ると右向きの眼振、左を見ると左向きの眼振が見られる。
- 静止位から右や左に目を動かして行くに従い、眼振の振幅が大きくなっていく(Alexanderの法則)。
- 輻輳により眼振が減弱あるいは消失する症例が約80%に見られる。
- 動揺視を自覚しないが、眼振が強くなると視力低下を感じる。
2.先天周期交代性眼振
先天周期交代性眼振とは
静止位が左右に移動する疾患を周期性交代性眼振(PAN)と呼び、そのうち先天性のものを先天周期交代性眼振と呼んでいる。乳児眼振として経過観察している患者の約20%で、3歳以降から静止位の左右への移動が始まる。その結果、顔回しが左右に変化し、動揺視を自覚する患者が多い。周期は30秒-9分程度である。変則的な症例も多いため、どちらかの報告に長時間留まることもあり、乳児眼振と誤診されることもある。
3.潜伏眼振・顕性潜伏眼振
潜伏眼振
両眼で見ていると眼振はないが、片眼を隠すと水平眼振が見られることを「潜伏眼振がある」と言う。方向は非遮閉眼への向きである。
顕性潜伏眼振
斜視や弱視があると、斜視では固視眼、弱視では健眼で見るため、網膜への視覚刺激の左右差が生じる。その結果、固視眼や健眼へ向かう両眼同調の律動眼振が常に見られる。片眼を隠さずに律動眼振が見えるため顕性律動眼振がと呼ばれる。
ENGは潜伏眼振、顕性潜伏眼振ともに速度減弱型を示す。
4.眼振阻止症候群(NBS)
片眼あるいは両眼を内転させることで眼振を減弱させ、内斜視となっている疾患を眼振阻止症候群(NBS)と呼んでいる。乳児内斜視の12%に見られたとの報告がある。内斜視の内転眼で見ようとするため、顔を内転眼の方に回す。その内転している固視眼を外転させると、外転方向への律動眼振が見られる。固視眼が内転位となり、視線は顔の正中線を交差するため、いわゆる交差固視となる。ENGでは律動眼振(速度減弱型)を示す。
5.点頭発作
生後早期~3歳頃までに発症し、左右同調性のない振子様眼振を示す。頭部のうなずきは眼振を打ち消すためとされる。点頭発作は小児期に自然に消失するが、弱視や斜視になる患者もいるため経過観察を行う必要がある。また、視神経膠腫などの腫瘍によって後天性点頭発作を生じる場合がある。
後天眼振の種類と原因、眼振の様相
・Bruns眼振:腫瘍側へは大振幅で小頻度、健側へは小振幅で大頻度の律動眼振を示す。聴神経腫瘍は50-60歳代に多く、小児期には少ない。
・点頭発作:小児の視神経膠腫は90%が19歳以前、平均7.0歳で診断される。
先天眼振の治療
乳児眼振症候群に対して
手術は眼振による頭位異常が体感の発達に悪影響である、外見が気になる、視力向上を目指す場合に良い適応となる。手術は静止位移動術や眼振減弱術を行う。
1.静止位移動術
- Anderson法:両眼のともむき筋の後転により、静止位を正面に移動させる方法である。
- 後藤法:両眼のともむき筋の前転により、静止位を正面に移動させる方法である。
- Kestenbaum法;Anderson法と後藤法を合わせた方法で、静止位が正面から大角度ずれているときに適応となる。
2.眼振減弱術
- 水平4直筋大量後転:両眼の水平4直筋を8-10㎜ずつ後転する方法である。筋の張力が減弱→眼振が弱まることを期待して行われる。ただし、内直筋のまつわり距離が6㎜なので、内転障害を生じることがある。
- 水平4直筋切腱再逢着術:両眼の水平4直筋を付着部から切離し、再度同部位へ逢着する方法である。直筋の自己受容器が筋への障害を感知しその情報を中枢に送り、中枢からのそのフィードバックで筋収縮が減弱することを期待して行われる。
顕性潜伏眼振、眼振阻止症候群に対して
いずれも内斜視に見られるものであれば、内斜視矯正のために内直筋後転術を行うと眼振は改善する。
参考文献
- あたらしい眼科 Vol.39, No.8, 2022
- Head nodding is compensatory in spasmus nutans
- Optic pathway gliomas: a review
- Costenbader Lecture. Idiopathic infantile nystagmus: diagnosis and treatment
- Clinical and ocular motor analysis of the infantile nystagmus syndrome in the first 6 months of life
- Head nodding is compensatory in spasmus nutans
- Horizontal rectus muscle tenotomy in children with infantile nystagmus syndrome: a pilot study
- A prospective evaluation of retroequatorial recession of horizontal rectus muscles and Hertle-Dell’Osso tenotomy procedure in patients with infantile nystagmus with no definite null position