後天性免疫不全症候群(AIDS)とは
後天性免疫不全症候群(AIDS)はヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染により生じる様々な免疫不全疾患を指す。日本では23の疾患が指定疾患として挙げられ、眼科領域ではサイトメガロウイルス網膜炎が含まれるが、指定疾患以外にも下記メモのように多くの眼疾患を生じうる。2012年時点で世界のHIV感染者数は3530万人、日本は2万人程度とされる。世界的には新規感染および死亡者数が減少傾向だが、日本はその逆で増加傾向である。
HIV感染に関連する眼疾患
1.感染性疾患
A.ウイルス
- サイトメガロウイルス網膜炎
- 進行性網膜外層壊死/急性網膜壊死
- 眼部帯状疱疹
- 角膜単純ヘルペス
- 伝染性軟属腫
- カポジ肉腫
B.細菌
- 結核性ぶどう膜炎
- 梅毒性ぶどう膜炎
C.真菌
- クリプトコッカス網脈絡膜炎
- ニューモシスチス脈絡膜症
- カンジダ性眼内炎
2.非感染性疾患
A.微小循環障害
- HIV網膜症(最多病変で、25-92%[2]の症例に網膜に点状出血や綿花様白斑を生じる。点状出血や白斑は網膜神経線維層の梗塞所見である。ただし、これらは一過性の所見であるため、視機能の影響は少ない。)
B.免疫再構築
- 免疫回復ぶどう膜炎(IRU)
C.悪性腫瘍
- 悪性リンパ腫
D.薬剤性
- Cidofovir(日本未承認の抗CMV治療薬)
- リファブチン(非結核性抗酸菌症治療薬)
E.視神経疾患
- HIV関連視神経炎
- 進行性多巣性白質脳症
後天性免疫不全症候群(AIDS)の病態
HIVはCD4陽性Tリンパ球に感染し、細胞性免疫が低下することで各種病態を引き起こす。梅毒性ぶどう膜炎は混合感染が非常に多く、免疫能が高くても発症する。帯状疱疹もAIDS指定疾患ではないが、健常者の15倍と発症頻度が高く、水痘・帯状疱疹ウイルスによる急性網膜壊死も免疫能が比較的良好なうちから発症する。また、HIV感染者では非ホジキンリンパ腫の発症頻度が健常者の200倍とされている。
AIDS患者において、ART開始後CD4陽性Tリンパ球数の急増によって、既存の日和見感染の悪化や新たに病変の出現などがみられることがある。これらは免疫再構築症候群(IRIS)という。
眼科ではART開始後、CMV網膜炎既存眼に硝子体炎が生じることが判明し、免疫回復ぶどう膜炎(IRU)とよばれるようになった。原因は「ARTによりCMV特異的T細胞の反応が回復すると、すでに沈静化したCMV網膜炎病巣辺縁の細胞内でわずかに複製される残存CMV抗原が、免疫反応によりぶどう膜炎を顕在化させるため」と推察されている。
後天性免疫不全症候群(AIDS)の治療
AIDS治療に併せて、各種病態に対する治療を行う。IRUに対する治療は重症度や時期により異なる。経過観察により自然寛解するものから、ARTの中断やステロイド全身投与が必要となる症例や外科的治療を要する症例まである。
アシクロビル(ゾビラックス®)はHSVに対して有効だが、VZVやEBウイルスには効きにくく、CMVには無効である。しかし、アシクロビルのプロドラックであるバラシクロビル(バルトレックス®)は経口吸収性がアシクロビルの約5倍になり、VZVにも有効とされる。
CMV網膜炎にはガンシクロビル(デノシン®)やフォスカルネット(ホスカビル®)が投与される。CMV虹彩毛様体炎にはバラガンシクロビル(バリキサ®)が有効とされる。