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概論
眼瞼は眼瞼皮膚および付属器、瞼板、瞼結膜の3層からなる。そして、それらの層に下記の臓器が存在する。
- 眼瞼皮膚付属器:Zeis腺、Moll腺、エクリン汗腺など
- 眼瞼皮下:眼輪筋、Muller筋、血管、リンパ管、末梢神経など
- 瞼板:マイボーム戦
- 瞼結膜:副涙腺
上記を発生母地として腫瘍は形成される。具体的には下記の通り
- 皮膚・皮膚付属器由来:良性は母斑、脂漏性角化症、血管腫、表皮嚢腫、神経線維腫、汗腺由来腫瘍、悪性では基底細胞癌、Merkel細胞癌など
- 瞼板由来:良性では炎症性肉芽腫性病変、マイボーム腺嚢胞、悪性では脂腺癌
- 瞼結膜由来:良性では乳頭腫、化膿性肉芽腫、悪性ではリンパ腫、扁平上皮癌、悪性黒色腫など
*腫瘍と腫瘤の違い
・腫瘍:細胞が自律的に増殖する
・腫瘤:細胞は自律的に増殖しない
●頻度の高い眼瞼良性腫瘍
(母斑細胞)母斑>脂漏性角化症>類表皮嚢胞
●頻度の高い眼瞼悪性腫瘍
脂腺癌>基底細胞癌(この2つで74%を占める)>扁平上皮癌
●眼瞼腫瘍の良性と悪性の割合と年齢
- 眼瞼腫瘍の7割は良性、3割は悪性である。
- 悪性腫瘍の診断時の年齢は、良性腫瘍の年齢より有意に高い。
- 高齢者の眼瞼腫瘍は、悪性の可能性を念頭に置く。
●諸外国との比較
- アジアは欧米に比べて脂腺癌が多い
- 欧米では脂腺癌は稀で、基底細胞癌が多い。基底細胞癌の発症要因として紫外線が考えられており、メラニンの少ない白人の罹患率が高いと言われている。
A.眼瞼良性腫瘍
1.脂漏性角化症(老人性疣贅、基底細胞乳頭腫)
・中年以降の顔面、頭部、体幹などの皮膚に単発あるいは多発する。
・境界明瞭な灰褐色〜黒褐色の隆起性結節で、凹凸ある外観(桑の実様)を呈する。
・病理:表皮は肥厚、過角化、偽角質嚢腫(pseudohorn cyst )
・治療:表皮ごと切除あるいは冷凍凝固を行う。
2.母斑細胞母斑(母斑、色素性母斑)
・眼瞼では眼瞼縁から睫毛の間に発生することが多い。数十年かけて徐々に増大する。腫瘍の眼球側は平坦である。特に治療する必要はないが、整容的に希望あるなら加療する。まれに悪性黒色腫に転化するリスクがあり、経過を見ながら完全切除を勧める。
・神経堤由来で、母斑細胞由来(境界母斑、複合母斑、真皮母斑など)とメラノサイト由来(青色母斑、太田母斑など)がある
・脂漏性角化症との鑑別:脂漏性角化症は表面がザラザラしているが、母斑細胞母斑は真皮内に母斑細胞が増殖するため表面が平滑である。
a.境界母斑
表皮の深層で真皮との境界部にある母斑で、褐色調が強く、境界明瞭で扁平な腫瘤である。分裂象があれば悪性化することもある。
b.真皮内母斑
真皮内に発生する母斑で、色素はあまり多くない。悪性化することはほとんどない。発生頻度は最も多い。
c.複合母斑
境界母斑と真皮内母斑の両方の性質を持つ。悪化することもある。
d.青色母斑
真皮内にメラノサイトを有し、青色から青褐色調である。
e.太田母斑
三叉神経第1,2枝領域にびまん性に発生する青色母斑のことをいう。強膜や虹彩にも色素沈着を来すことが多い。
3.ケラトアカントーマ(角化棘細胞腫)
・中年以降の男性である。
・9割以上が顔に発生する。
・初めは小さな丘疹→数週間〜数ヶ月で急速に増大し、噴火口型のドーム状あるいは半球状の結節を形成する。
・この噴火口に著名な角質の増生がある。
・数ヶ月〜半年で自然消退する。
4.毛包上皮腫
・直径2〜10mm程度の正常な皮膚色の小丘疹である。
・弾性硬である。
・鼻周囲にできることが多い。
5.毛母腫(石灰化上皮腫)
・小児、若年者の顔面、頸部、上肢に好発する3〜4cmまでの皮内および皮下腫瘍する。
・触ると石のように硬い。
6.脂肪腺腫
・マイボーム腺から発症し、白色~黄色調で、桑実状・毛糸玉状を呈することが多い。成長は一般に緩徐であるが、整容的に切除することがある。
7.汗嚢腫
・顔面に発生する。
・半透明のドーム状隆起である。
8.神経鞘腫
・増殖は緩徐である。
・表面が平滑で球状の境界明瞭な弾性硬の腫瘍である。
・圧痛を伴うことがある。
9.乳児血管腫(いちご状血管腫)
・顔面や腕に好発する。
・乳児血管腫は先天性で、 生後3〜4週からみられ、生後1歳半まで急速に増大し、数年で消退する。
・治療:
①自然治癒傾向を示すが、視力に影響がある場合は切除する。
②プロプラノロール(チモプトール®)が有効とされる
Eye Plastic Surgery Associates HPより引用
10.後天性血管腫(老人性血管腫)
・赤色の境界明瞭な隆起性病変である。
・体幹に多発することがある。
・弾性軟で、増大はほとんどない。
11.線維腫
・表面が平滑、光沢のある境界明瞭な腫瘍である。
・発育は緩慢である。
12.黄色腫
・脂質を貪食したマクロファージ由来で、脂質異常症を伴うことがある。
13.類表皮嚢胞(表皮嚢胞、粉瘤、アテローム)
・ドーム状に隆起した数mm〜数cm大の境界明瞭な嚢胞状結節である。
・皮膚との癒着はないが、一部は骨膜と癒着している。
・嚢胞内には皮膚に類似した重曹扁平上皮が裏打ちされ、中に白色の角化物あり。
・霰粒腫と異なり連続性はない。
14.皮様嚢胞(類皮嚢胞、デルモイドシスト)
・上眼瞼外側1/3(眉毛外側)or眼窩耳上側に好発する先天性病変である。
・内腔にはケラチン、毛髪、脂質などが充満している。それらを含まないものを表皮様嚢腫という。
・弾性硬で表面平滑、圧痛はない。
・乳幼児期に発見されるが、軽度だと成人になってからいる。
・MRIの信号強度は、T1強調、T2強調ともに不均一像である。
・治療は視機能、整容的に問題なければ経過観察、加療する場合は、嚢胞壁や内容物が残存すると急激な炎症を惹起することがあるため嚢胞全摘する必要がある。
15.マイボーム腺の瞼板内角質嚢胞
・瞼板内に類表皮嚢胞と同様のものができる疾患である。
・嚢胞内容物は角質が脂質と混じって、黒色や白色に見える。
・内容物が白色、黄白色、黒色粘土状の場合は、この疾患の可能性が高い。
・嚢胞を全摘〜亜全摘しないと再発する。
16.尋常性疣贅
・いわゆる”いぼ”のことである。
・HPV感染による。
・手足や足底に好発する、表面は乳頭状の凹凸を示す。
・完全に切除しないと再発する。
17.伝染性軟属腫
・伝染性軟属腫ウイルスによって生じる半球状の丘疹で、主に小児の体幹や四肢に生じるが眼瞼に生じることもある。
・白く水を含んだように見えるので、「水イボ」と俗称で呼ばれている。
・多発することがある。
18.乳頭腫
・良性腫瘍の中では比較的多い。
・腫瘍血管を枝として腫瘍細胞が木の葉のように増殖する。パピローマウイルスが関与し、多発することもある。ピンク色でカリフラワー状の見た目で、有茎性である。
・単純切除では再発しやすいため、切除面に冷凍凝固を追加することもある。
・まれに悪性化する。
19.静脈奇形(海綿状血管腫)
・若年以降に発症拡大し、中高年で増殖停止する。自然治癒しない。希望があれば切除加療する。薬剤は効果ない。
20.Sturge-Weber症候群
B.眼瞼悪性腫瘍
眼瞼の悪性腫瘍は、希少がん(罹患率6例未満/10万人)として知られており、専門で扱う病院は限られている。
眼瞼悪性腫瘍の特徴として、下記の7つがある。
眼瞼悪性腫瘍の特徴
- 急速な増大傾向
- 表面と辺縁の不整
- 睫毛脱落
- 潰瘍形成
- 不規則に拡張・蛇行した腫瘍血管と易出血性
- 圧痛を伴わない不整硬結
- 周辺組織との癒着
これらの特徴がある腫瘍は悪性腫瘍が疑われるが、良性腫瘍と鑑別困難な場合もあり、最終的には病理検査で診断確定となる。
ただし、多くの症例は初診時にT3以下(最大径が20~30mm)であり、腫瘍の全摘出および眼瞼再建術が必要になることが多い。また、眼窩組織に浸潤しているT4では、眼窩内容除去や放射線治療を行う。下記に眼瞼悪性腫瘍各論を述べる。
1.脂腺癌(マイボーム腺癌)
・脂腺(マイボーム腺(こちらが大半)あるいはZeis腺)由来に由来する黄白色で結節状の悪性腫瘍で、 75-80歳前後の東洋人に多く、欧米ではまれとされる。女性に多い。
・上眼瞼に好発し、腫瘍サイズが15㎜を超えるとリンパ節転移のリスクが増大する。 腫瘍細胞が上皮に置き換えるように浸潤・増殖することがあり、pagetoid spreadという。
・病理:明るい胞体を持った腫瘍細胞が蜂巣状に増殖する。脂肪滴に対してSudanⅢ染色を行うことがある。
・治療:
①外科的治療:3㎜以上のマージンを確保して切除する。
②抗腫瘍点眼:適応外治療のため倫理委員会に通す必要がある。
A.マイトマイシンC点眼(0.04%)
1日4回1週間点眼1週間休薬を2~3クール施行
副作用:充血 、眼瞼皮膚炎、角膜上皮障害
B.フルオロウラシル点眼(1%)
1日4回点眼2~4日点眼1か月休薬を2~6クール施行
副作用:角膜上皮障害
・予後:良好である。ただし、治療が遅れると頸部リンパ節や全身転移している場合は予後悪い 。特に、20㎜以上の腫瘍や10㎜以上かつ眼瞼全層にわたる腫瘍では、リンパ節・遠隔転移に十分留意すべきである。
2.基底細胞癌
・高齢者(75歳前後)の眼、耳、鼻周囲に好発する黒色か灰黒色。性差はない。最初は結節状、徐々に中央が陥凹し潰瘍を形成する。表皮原発であるため、瞼結膜面に病変は見られない。
・好発部位:下眼瞼が70%以上、その次に上眼瞼、内眼角
・治療:
①外科的治療:1~2㎜程度のマージンを確保して切除する。
・転移はまれである。
・病理:胞巣の辺縁部で、腫瘍細胞は柵状配列となり、間質にメラニン色素を貪食したマクロファージ(メラノファージ)がある。
(左)BOPSS HP(右)Pathology made simple HPより引用
3.扁平上皮癌
・高齢者の露光部(顔面、手背)、眼瞼部では球結膜面(特に、角膜輪部)に好発する。表面に潰瘍形成を伴う。
・乳白色ないし紅色で、表面は乳頭状の凹凸がある。
・扁平上皮癌は板状あるいはやや広基性のポリープのことが多い。
・初期の段階では、臨床的に上皮内上皮腫との鑑別は困難である。
・組織学的特徴:腫瘍細胞が細胞間橋で密着し敷き詰めるように配置しており、大小不同の核を持つ。
・瞼板を越えて浸潤しにくいため、脂腺癌に比べると転移率は小さい。
・治療は外科的治療を行う。切除範囲が広範になれば、羊膜移植を行うことがある。また、マイトマイシンCの点眼や角膜上皮形成術を行うこともある。
4.Merkel細胞癌
・顔面、頭頸部、四肢に赤色〜赤紫色のドーム状隆起を形成する。拡張した腫瘍血管を観察できる。急速に増大し、早期から転移を起こす傾向があり悪性度は高い。 Merkel細胞ポリオーマウイルスによる発癌の可能性が指摘されている。
・治療:外科的治療が基本だが、Merkel細胞癌は放射線感受性が高いため放射線治療を選択することもある。
5.リンパ腫
・ほとんどがB細胞性非ホジキンリンパ腫であり、結膜円蓋部から球結膜面にサーモンピンク調の腫瘍として好発する。
・診断には、ヘマトキシリンーエオジン染色による病理組織検索に加えて、免疫組織化学やフローサイトメトリー、Sourthern blottingやPCR法などで確認する。
・治療はリンパ腫の病型によって異なるため、生検によって病型を判断し、悪性リンパ腫であれば全身検索等含め他科と連携する必要がある。
・他臓器に同様の病巣がなければ、放射線治療が第一選択となる。
6.悪性黒色腫
・瞼縁部の母斑がまれに悪性化する。眼瞼皮膚の悪性黒色腫はまれである。その他にも結膜や眼窩に悪性黒色腫は生じうる。
・治療は外科的切除が基本だが、広範にわたり、結膜下への浸潤も著しい場合には眼窩内容除去術が必要となることもある。
7.多形腺腫
女性に多く、涙腺上皮性腫瘍の約7割を占める。初発症状の約半数は痛みのない、片眼性の眼球偏位である。残りの半数は片側性の眼瞼下垂を呈する。眼窩部涙腺から発生することが多いが、眼瞼部涙腺から発生すれば眼球圧迫症状が見られない。
骨病変をとらえるため、MRIよりもCTの方が適している。針生検や試験切除は避け、完全摘出を行う。完全摘出できないと再発を繰り返す。
8.腺様嚢胞癌
男性に多い。青年期から老年期に多い。発育速度は多形腺腫よりも早く、神経浸潤傾向もあるため、疼痛をきたす可能性が比較的高い。
CTで腫瘍に隣接する眼窩骨に浸潤し、骨破壊像を認める場合には悪性と判断できる。完全摘出できれば行うが、できなければ試験切除を行い、病理診断の後に広範囲切除、放射線治療を考える。
眼腫瘍診療施設
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参考文献
- 日本眼科学会雑誌第123巻 第7号:総説79 眼瞼腫瘍の診療の要点より
- 今日の眼疾患治療指針 第3版
- 第74回日本臨床眼科学会シンポジウム11高齢化社会における眼部悪性腫瘍の診療
- 眼科学第2版