網膜疾患

(裂孔原性)網膜剥離

皆さんは「網膜剥離」という病気を一度は聞いたことがありますか?僕が網膜剥離を知ったのは、母親が「ボクサーは網膜剥離になって失明するからやめときなさい」という話をされたのが網膜剥離を知るきっかけになりました。

また、芸能人でも多くの方が網膜剥離になっており、 アイドルグループNMB48の須藤凜々花さん(当時17歳)、プロ野球の山本昌投手(当時49歳)、お笑いコンビのウーマンラッシュアワーの中川パラダイスさん(当時32歳) らも網膜剥離で手術を受けています。

網膜剥離を知っている方は「網膜剥離=怖い病気、失明する病気」という漠然としたイメージがあるかと思います。この記事ではそんな網膜剥離について、特に裂孔原性網膜剥離に焦点を当て、実際の手術動画と合わせて説明していきます。

網膜剥離とは

網膜は目の内側の10層構造の薄い膜(下図1)で、視力に重要な機能を果たしています。この網膜にボクシングなどの物理的な刺激が加わると、網膜に穴 (網膜裂孔) が開きます。

この網膜裂孔から網膜の下に目の中の水分(硝子体液)が入り込み、(裂孔原性)網膜剥離(下図2)を生じます。網膜は目の内側の覆っているため、網膜剥離になった目を放っておくと、その範囲は広がってしまい見えない範囲は拡大していきます。

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図1網膜(黄斑部)の構造
参天製薬HPより
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図2裂孔原性網膜剥離
参天製薬HPより

その他にも、網膜に硝子体あるいは増殖組織による牽引がかかり、その牽引力により網膜剥離をきたす牽引性網膜剥離、脈絡膜あるいは網膜血管からの滲出あるいは漏出により網膜下液が貯留して網膜剥離をきたす滲出性網膜剥離もあります。

この記事では説明の簡略化のために、裂孔原性網膜剥離について書いています。最後に補足的に牽引性網膜剥離、滲出性網膜剥離について補足説明はしますので、そちらも併せてご覧ください。

網膜剥離の症状

網膜剥離が起こると剥がれた部位の視力が低下します。最初は飛蚊症という、蚊が飛んでいるよう見えることがあります。患者さんの中には「黒い線のようなものが見える」「墨汁が垂れたようだ」など、様々な飛蚊症の症状を訴えてきます。

しかし、その他に痛みなどの症状を認めないため、飛蚊症があってもそのまま放っておく方も少なくありません。飛蚊症が続いていたけど、あまり症状が変わっていないように感じた方の中には重症の網膜剥離だった方がいたこともあります。

飛蚊症が続く、飛蚊症の量が増える、視野が欠けてくる」という症状は非常に有益な情報です。その他にも、暗い場所で突然稲妻のような光が見えたりすることがあります。これを光視症と言いますが、これも網膜裂孔や網膜剥離の前兆かもしれませんから、近くの眼科を受診されることをお勧めします。

網膜剥離の症状一覧

  • 視野欠損(網膜剥離の部位に応じて)
  • 飛蚊症(裂孔形成に伴って出血が起こった場合)
  • 中心視力低下(網膜剥離が黄斑部に及んだ場合)
  • 変視症(網膜剥離が黄斑部に及んだ場合)

網膜剥離の原因

裂孔原性網膜剥離の患者さんは20代と50代以上の方に多いとされています。しかし、網膜剥離は外傷等の原因でも生じるためどの年齢でも生じえます。また、未熟児や遺伝性の病気が原因で網膜剥離になることがあります。ちなみに、裂孔原性網膜剥離の20〜40%は網膜格子状変性に起因するとされている。

若年者では網膜格子状変性に伴った萎縮性円孔が多く、中高年層では後部硝子体剥離に伴う弁状裂孔に起因するものが多い。

網膜剥離の診断

網膜剥離が疑われる場合は眼底検査を行い、剥離した網膜と原因裂孔を観察する。それと同時に、後部硝子体剥離の有無、裂孔原性網膜剥離への硝子体牽引、黄斑部の状態を確認する。また、超広角眼底撮影光干渉断層計(OCT)も診断に有用である。

網膜剥離の治療方法

網膜裂孔の状態、つまり穴が開いているだけで網膜剥離には至っていない場合は、その穴が網膜剥離に至らないように治療をします。具体的にはレーザーを網膜裂孔周囲に当て、これ以上網膜が剥がれていかないようにしますただし、レーザーを当てたからといって網膜剥離にならない保証はありません

問題は網膜が剥がれている、つまり網膜剥離になっている場合です。網膜剥離に至っている場合は緊急的に硝子体手術あるいは強膜バックリング手術(強膜内陥術)、シリコンオイルなどのタンポナーデを行います。

若年者は通常網膜裂孔は小さく、網膜剥離の進行は緩徐だとされています。しかし、中高年では後部硝子体剥離を伴うことが多く、網膜剥離は急速に進行する恐れがあります。

1.強膜バックリング手術(強膜内陥術)

バックルというシリコンスポンジを目の周りに巻き、外から目を押します。この手術により剥離した網膜と網膜裂孔の位置を近づけこれ以上剥離しないようにします。

具体的にイメージできないと思いますので、今回は数多くの手術をされているレトロゲーム先生(@segazukiman)に動画協力していただいています。

先生は手術がうますぎるので、全ての手術がこれほど円滑かつ綺麗に終わるわけではありませんが、イメージを掴んでいただけるのではないかと思います。

バックル手術(リサイト下)
提供:@segazukiman先生

2.硝子体手術

網膜剥離の程度、網膜裂孔の位置などによっては硝子体手術を行うことがあります。特に、硝子体出血を合併していたり、網膜裂孔が大きい場合、糖尿病網膜症が進行している例(増殖糖尿病網膜症)に有用です。

硝子体手術では網膜を目の内側に押し付けるために、空気等を入れます。空気は水より軽いですから、硝子体手術後はうつぶせ寝になっていただく必要があります。その期間は1週間程度ですが、網膜裂孔がどの位置にあるかによって術後の姿勢は変わることもあります。

硝子体手術も2つの動画を @segazukimanさんに提供していただきましたので、具体的にどんな手術をするのかを知りたい方はご覧ください。

硝子体手術(水晶体温存)
提供: @segazukiman先生
硝子体手術(水晶体温存)
提供: @segazukiman先生

手術後は術後の影響で約1~3か月は眼内の状態は不安定です。安定するまでは眼科受診ならびに目薬での合併症予防の治療は必要になります。

また、手術をすれば元の状態に戻るかは網膜剥離の程度によります。黄斑という網膜の中で、視力に最も影響を及ぼすところまで剥がれていると、網膜剥離が起きる前の視力まで戻る可能性は低くなります。

3.シリコンオイルによるタンポナーデ

難治性の増殖性硝子体網膜症を伴った網膜剥離では、硝子体手術を行った後、空気の代わりにシリコンオイルなどを硝子体腔に入れること復位を図ります。

網膜剥離の予後

適切な時期に適切な手術を行うことで、95%以上の症例が手術により網膜剥離は治癒します。術後視力は黄斑部に網膜剥離が及んでいるかどうか、及んでいればその期間に依存します。

したがって、手術は黄斑部に剥離が到達する前に行うことが望ましいとされています。一方で、黄斑部に剥離が到達している場合は、可及的速やかに手術をすることが望ましいとされています。

おわりに

網膜剥離を放っておくと失明する怖い病気です。視野が欠けてくれば眼科を受診する人がほとんどだとは思いますが、最初は「蚊が1,2匹飛ぶ」といった飛蚊症症状だけかもしれません。

前にも書きましたが「飛蚊症が続く、飛蚊症の量が増える、視野が欠けてくる」これは網膜剥離を疑う重要な症状の一つです。このような症状がある方は必ず眼科を受診してください。そして、この記事が網膜剥離の早期発見に役立てば幸いです。

謝辞

今回の記事はレトロゲーム先生(@segazukiman)のお力添えが泣ければ完成しませんでした。レトロゲーム先生にはlineグループ『眼科ともだち』にも参加していただき、非常に多くのコメントをいただき、メンバー一同感謝しております。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。

このブログでは今後も様々な目の病気を取り上げていますが、他にも『眼科ともだち』メンバーのめめめ(TwitterID@ophthalmicgamer) が執筆している記事『眼科でよく処方される点眼薬について 』『これでわかる!緑内障点眼薬』があります。ぜひそちらの記事もご覧ください。よろしくお願いいたします。それではまた次の記事でお会いしましょう!

参考文献

  1. 参天製薬株式会社HP
  2. 日本眼科医会HP
  3. 日本眼科学会HP
  4. 今日の眼疾患治療指針第3版

SPECIAL THANKS

レトロゲーム先生(@segazukiman

 


ABOUT ME
doctorK
学生時代より執筆活動を始め、現在まで500本以上の医療記事を執筆しました。現在は眼科医として勤務しながら、自身の記事をアップするため『オンライン眼科』を設立しました。お仕事依頼は問い合わせページからお願いいたします。