虚血性視神経症(ION)とは
急激な虚血が視神経に発症したものを虚血性視視神経症という。高齢者に好発し、突発的で視力予後が悪いため迅速な診断と治療が必要となる。虚血性視神経症の視野異常は、網膜神経線維欠損型の視野異常を来すことが特徴的だが、虚血性視神経症のタイプによってその視野異常も異なる。
虚血性視神経症はその発症部位と原因によって分類される。動脈炎によるものを動脈炎性虚血性視神経症(AION)、そうでないものを非動脈炎性虚血性視神経症(NAION)と言う。また、視神経の強膜篩板より手前で虚血が起きた場合は前部虚血性視神経症(AAION)、後方で起きた場合は後部虚血性視神経症(PAION)と呼ぶ。NAIONは全て前部型と考えてよい。
前部虚血性視神経症(AION)
48時間以内に視力障害が完成し、非可逆的、非進行性の視力障害が原則である。前部虚血性視神経症はその原因によって動脈炎型と非動脈炎型に分けることができる。
危険因子
- 糖尿病
- 高血圧
- 夜間低血圧
- 貧血
- 片頭痛
- 内頚動脈狭窄症
- 睡眠時無呼吸症候群
- アミオダロン内服
- ED治療薬
など
1.動脈炎型虚血性視神経症(AAION)
動脈炎型虚血性視神経症(AAION)とは
AAIONの発症原因の1つに側頭動脈炎がある。AION全体で約5%と頻度は高くないが、急激に不可逆的な片眼性の視力低下を起こすため重要とされる。50歳以上の女性に多く、70歳以上になると急激に増加する。頭部の炎症症状(頭痛、顎跛行、頭皮痛)やリウマチ性多発筋痛症(発熱や近位筋痛、関節痛、疲労感)の症状を呈する。炎症反応上昇(CRPが80%以上で亢進する。CRPの方が赤沈よりも特異度が硬き)が見られる。
AAIONは非動脈炎型AION(NAION)よりも視力低下が顕著である。また、RAPDは病側で陽性となり、視野は単眼性視野欠損となる。視神経乳頭は蒼白な浮腫状で、周囲に綿花状白斑や火炎状網膜表層出血、毛様動脈閉塞の合併を認めることもある。蛍光眼底造影検査(FAG)にて視神経乳頭の充盈遅延と高度の脈絡膜の分節状虚血を認める。
臨床所見より診断されることが多いが、確定診断には側頭動脈の生検(感度、特異度ともに95%以上)が必要となるが、生検時に顔面神経を損傷することがある。巨細胞の有無は問わないが、内弾性板の破壊と、急性期にはリンパ球の浸潤、慢性期には線維化が必要である。4~8週で乳頭浮腫は消退し、視神経萎縮、視神経乳頭陥凹拡大が起こる。無治療の場合は数週間以内に50~95%の確率で僚眼も発症することが報告されている。
動脈炎型虚血性視神経症の治療
治療はステロイドパルス療法(1000㎎/dayを3~5日間)行う。点滴終了後はステロイド内服を40~60㎎/dayから始めて、4~6カ月かけてゆっくりと漸減する。しかし、治療をしても多くの症例で最終視力が0.1以下になるとの報告もあり、罹患眼の視力改善は15-34%程度である。ステロイド加療により炎症は数週間で消失するが、マクロファージは数ヶ月間残存する。とはいえ、無治療だと数週間で失明のリスクが高く、54-95%の確率で僚眼に発症する。そのうち1/3の症例が4週間以内に発症する。僚眼での発症はステロイド投与で6.3-7.0%に抑えられている。ステロイド以外にも、メトトレキサートやアザチオプリンなどが試みられているが、明らかな効果は認められていない。
※ステロイド内服の隔日投与は推奨されていない。
2.非動脈炎型虚血性視神経症(NAION)
非動脈炎型虚血性視神経症(NAION)とは
NAIONは、血圧の日内変動の中の血圧低下や短後毛様体動脈の潅流低下が原因で発症すると考えられている。45〜65歳中年に好発する。高血圧、糖尿病など血管病変、大手術後などの大量出血後、小乳頭、睡眠時無呼吸症候群などが危険因子として挙げられている。
AIONとは異なり片眼性の無痛性の視力低下、霧視、視野障害(下方に水平視野障害や弓状暗点)で突然発症する。僚眼は正常で、複視はない。初発症状は起床時に起きやすいと言われているがその限りではない。AIONのように視神経乳頭が蒼白になることは珍しく、むしろ視神経乳頭は充血したようになることが多い。また周囲に綿花状白斑を認めることはまれである。RAPDは患側で陽性となる。
急性期の蛍光眼底造影検査(FAG)では、視神経乳頭の篩板前の充盈遅延が見られるが、後期で乳頭部は過蛍光が見られる。AIONと異なり、脈絡膜循環は比較的正常なのが特徴的である。また、NAIONを発症した眼の僚眼は小乳頭あるいは陥凹の非常に小さい視神経乳頭であることが多い。
発症後は1~2か月で乳頭浮腫などの所見は消失し、ゆっくりと視神経が萎縮していき、色調が蒼白化していく。発症後時間が経過しても明らかな視神経陥凹拡大を認めることはない。
非動脈炎型虚血性視神経症(NAION)の治療と予後
確立された治療方法はない。僚眼への発症リスクは5年間で12-15%程度だが、予防治療として抗凝固薬が選択されることはある。発症後数週間程度は悪化の可能性はあるが、その後の変動は見られないことが多い。罹患眼での再発は5%以下とされる。
後部虚血性視神経症(PAION)
視神経の強膜篩板より後方で起きた視神経症を後部虚血性視神経症(PAION)という。乳頭所見を伴わない無痛性の視力低下をきたす。ただし、頻度は非常に少ない。慢性期には視神経萎縮に至る。発症原因、経過、治療に関してはほぼNAIONと同様とされる。
参考文献
- 眼科学第2版
- 眼科:目で診る緑内障・視神経疾患80
- 今日の眼疾患治療指針第3版
- 第126回日本眼科学会総会
- Pathogenesis of nonarteritic anterior ischemic optic neuropathy
- Ischemic optic neuropathies – where are we now?
- Ischemic Optic Neuropathies
- Treatment of Nonarteritic Anterior Ischemic Optic Neuropathy
- 眼科 2021年12月臨時増刊号 63巻13号 特集 覚えておきたい神経眼科疾患
- Temporal arteritis
- Histopathology of ischemic optic neuropathy
- Simple rule for calculating normal erythrocyte sedimentation rate.
- The epidemiology of giant cell arteritis including temporal arteritis and polymyalgia rheumatica
- Erythrocyte sedimentation rate and its relationship to hematocrit in giant cell arteritis
- Giant cell arteritis: validity and reliability of various diagnostic criteria
- The clinical value of negative temporal artery biopsy specimens
- The therapeutic impact of temporal artery biopsy
- Ocular manifestations of giant cell arteritis
- Skip lesions in temporal arteritis
- How does previous corticosteroid treatment affect the biopsy findings in giant cell (temporal) arteritis?
- Temporal artery biopsy and corticosteroid treatment
- Temporal arteritis. A clinicopathologic study
- Visual morbidity in giant cell arteritis. Clinical characteristics and prognosis for vision
- Visual prognosis in giant cell arteritis
- A multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled trial of adjuvant methotrexate treatment for giant cell arteritis
- Recovery of visual function in patients with biopsy-proven giant cell arteritis