角膜とその疾患

Fuchs角膜内皮ジストロフィ(FECD)

Fuchs角膜内皮ジストロフィ(FECD)とは

Fuchs角膜内皮ジストロフィ(Fuchs endothelial corneal dystrophy:FECD)は、Descemet膜への細胞外マトリックスの異常沈着、いわゆる滴状角膜、Descemet膜の肥厚、その結果として生じる角膜内皮機能不全を特徴とする両眼性の角膜疾患である。

滴状角膜は、英語ではcorneal guttae、ラテン語ではcornea guttataと表記される。角膜内皮細胞が産生した異常な細胞外マトリックスがDescemet膜側に蓄積した状態と考えられている。

常染色体優性遺伝ですが、孤発例も認められる。遺伝学的には、早期発症タイプではCOL8A2遺伝子のミスセンス変異が知られています。また、晩期発症タイプではTCF4遺伝子第3イントロンのCTGリピート異常伸長が関与することが報告されています。

ただし、TCF4遺伝子のCTGリピート異常伸長は欧米患者では80%程度にみられる一方、日本人患者では20%程度とされており、日本人FECD患者における原因遺伝子については不明な部分も多いとされています。

欧米の白人では40歳以上の4%が罹患する。40~70代の女性に多く(男女比1:3)発症するが、10歳未満からすでに滴状角膜が発症するFECD家系もある。世界での有病率は約7.3%、日本国内では約3.5%とされている。角膜浮腫の原因の第4位(10.9%)で、角膜内皮移植の主要な原因疾患である。異常遺伝子の角膜内皮細胞が酸化ストレスや小胞体ストレスなどの障害が加わった際、その創傷治癒が正常に機能しないことが原因と考えられている。

日本では、角膜移植の原因疾患としてフックス角膜内皮ジストロフィーは2001年に1.9%であったが、2021年には10.9%まで増えている。現在、世界の角膜移植の約4割を占めるもっとも多い原因疾患とも報告されている。

Fuchs角膜内皮ジストロフィ(FECD)の症状

FECDでは、角膜浮腫がはっきりしない軽症例でも、滴状角膜による光の散乱や乱視の増加により、光のぎらつき、グレア、視力低下などの視機能異常を自覚することがある。

進行すると、就寝中の閉瞼により角膜浮腫が悪化し、朝に見えにくい、時間が経つと少し見やすくなる、といった症状が出ることがある。さらに重症化して角膜上皮や実質に浮腫が及ぶと、眼痛を伴うことがある。

しかし、夕方には改善する。ただし、通常、50歳以下で自覚症状をきたすことは少ない。

Fuchs角膜内皮ジストロフィ(FECD)の重症度分類

Stocker分類

FECDの重症度分類には、従来Stocker分類が用いられることもありました。日本眼科学会の診断基準および重症度分類では、眼科領域の指定難病に共通する重症度分類と、国際的に用いられるModified Krachmer gradingが併記されています。

Stocker分類では病期を1期(内皮限局性変化)、2期(実質浮腫・上皮浮腫)、3期(上皮下瘢痕)に分けられる。1期の割合が多い。

Fuchs角膜内皮ジストロフィ(FECD)1期(内皮限局性変化)

両眼の角膜瞳孔領を中心に角膜内皮細胞の滴状角膜(guttata)と称される変化で、内皮細胞の重層化、偽足状突起などの変化とともにDescemet膜上に新しい基底膜が形成されDescemet膜の厚みも不整となる。細隙灯顕微鏡で内皮細胞面の凹凸不整が観察できる。これに滴状角膜を伴うとbeaten metal appearanceという。

また、内皮細胞による虹彩色素の貪食による色素沈着を認める。スペキュラーマイクロスコープでは滴状角膜があれば黒く抜ける。臨床的にはこの1期が多く、積極的な治療法もない。白内障手術など内眼手術で内皮細胞障害増悪することによって合併症が出ないよう適切な診断が重要となる。

Fuchs角膜内皮ジストロフィ(FECD)2期(実質浮腫・上皮浮腫)

角膜内皮細胞の機能不全によって角膜実質と上皮の浮腫が生じ、Descemet膜が灰白色に混濁し、皺壁を認めるようになる。細隙灯顕微鏡で実質の浮腫による、角膜厚の増加透明性の低下を認める。角膜浮腫により前房が浅く見えることがあり、中年以降の女性に多いことから緑内障と診断されていないか注意して診察をする。

Fuchs角膜内皮ジストロフィ(FECD)3期(上皮下瘢痕)

角膜上皮下に瘢痕が形成され透明性低下が生じるが、上皮浮腫は軽減する。角膜知覚は低下する。

Modified Krachmer grading

Modified Krachmer gradingでは、細隙灯顕微鏡で確認される滴状角膜の数、癒合の有無、範囲、角膜浮腫の有無によってGrade 0〜6に分類します。

Grade 所見
Grade 0 滴状角膜なし
Grade 1 1〜12個の癒合のない滴状角膜
Grade 2 12個より多い癒合のない滴状角膜
Grade 3 1〜2mmの癒合した滴状角膜
Grade 4 2〜5mmの癒合した滴状角膜
Grade 5 5mmより大きい癒合した滴状角膜
Grade 6 5mmより大きい癒合した滴状角膜に加えて、臨床上明らかな角膜実質浮腫または上皮浮腫を認める状態

Fuchs角膜内皮ジストロフィ(FECD)の検査所見

滴状角膜は細隙灯顕微鏡で角膜中央部に集中した、角膜内皮層の多数の微細、透明な光輝点として観察できる。スペキュラーマイクロスコピー検査では、孤発性ないし融合して拡大したダークエリアとして観察される。

Eye Rounds HPより引用

日本眼科学会の診断基準では、検査所見として、細隙灯顕微鏡検査で両眼の角膜後面中央部に多発性の滴状角膜を認めること、またはスペキュラマイクロスコープや生体共焦点顕微鏡検査などで類円形多発性のdark areaを両眼に認めることが示されている。また、細隙灯顕微鏡検査では、茶色の角膜後面沈着物を認めることもある。

Fuchs角膜内皮ジストロフィ(FECD)の診断

日本眼科学会の診断基準では、細隙灯顕微鏡検査で両眼の角膜後面中央部に多発性の滴状角膜を認める、またはスペキュラマイクロスコープや生体共焦点顕微鏡検査などで類円形多発性のdark areaを両眼に認めることが重要な検査所見とされている。

診断では、FECDに似た所見を示す疾患を除外することも重要である。鑑別すべき疾患として、偽滴状角膜、後部多型性角膜ジストロフィ、posterior corneal vesicle、落屑症候群角膜内皮症などが挙げられている。

診断カテゴリーとしては、上記の検査所見を満たし、鑑別すべき疾患を除外したものをDefiniteする。

Fuchs角膜内皮ジストロフィ(FECD)の治療

FECDに対して、現時点で確立された内科的治療法はない。進行例では、異常な角膜内皮細胞やDescemet膜を正常なドナー角膜に置き換える角膜内皮移植が治療の中心である。代表的な術式として、Descemet膜角膜内皮移植術(DMEK)などがあります。また、角膜移植以外の新しい治療法として、培養角膜内皮細胞注入療法も挙げられている。

  1. 滴状角膜で角膜浮腫なし(Stocker分類StageⅠ)→治療は不要
  2. 滴状角膜で角膜浮腫あり(Stocker分類StageⅡ、Ⅲ)→治療は全層角膜移植あるいは角膜内皮移植である。特に、実質が瘢痕化していないStageⅡは角膜内皮移植(DSAEK:拒絶反応は5年で役0年と低く、視力回復にかかる時間が大幅に短縮、DMEK:最も優れた視力予後、最も低い拒絶反応率(5年で1~2%)、最も早い視力回復を実現したが、移植片剥離率が10‐20%と高いことが課題)の良い適応となる。
  3. 上皮の水疱形成があり眼痛もある場合、治療用コンタクトレンズが有効である。
  4. 上皮浮腫には5%高張食塩眼軟膏を就寝前に塗布すると軽減される。

その他にも、直径4mm程度でguttaeをデスメ膜ごと取り除くDescemet stripping only(DSO)が試みられたり、ROCK阻害剤の点眼薬併用の臨床研究や意見が行われている。

DSOの開発とROCK阻害剤併用

DSOはDescemetorhexis without endothelial keratoplasty(DWEK)とも呼ばれ、中央部のデスメ膜と角膜内皮を除去するのみで、ドナー移植片を使用しない術式である。

DSOは中央部4〜5 mmの病変デスメ膜を剥離除去するだけである。剥離後は周辺部の健常な内皮細胞が中央部へ遊走・増殖し、角膜の透明性を回復することを期待する。従来、角膜内皮細胞は増殖能力を持たないとされていたが、近年の研究により限定的ながら再生能力があることが明らかになった。

本術式は周辺部の健常な内皮細胞による再生に依存するため、全ての患者に適用できるわけではない。よい適応となるのは、軽症から中等症のFECDで、周辺部内皮細胞密度が1,800個/mm²以上保たれて保たれており、中央部のみにguttaeが限局している症例とされる。一方、

  • 周辺部にもguttaeが存在する進行例
  • 周辺部内皮細胞密度が1,000個/mm²未満の症例
  • 80以上のTCF4遺伝子の繰り返し配列数
  • 6 mm以上の剥離を行った症例

では透明治癒率が低下すると報告されている。

術後経過の特徴として、角膜透明化まで平均8〜12週間を要するため、この期間は患者は視力低下に耐える必要があり、社会生活への影響を十分に説明し、理解を得ることが重要である。

合併症として、剥離辺縁の実質混濁や結節形成、軽度の屈折変化、内皮への色素沈着などが報告されているが、いずれも視力への影響は限定的である。約20〜30%の症例で角膜透明化が得られないが、これらの症例もDMEKを行うことで良好な結果が得られている。

DSOの治療成績をさらに向上させるために、ROCK(Rho-associated kinase)阻害剤の併用が注目されている。

実際、Sydney Eye Hospitalの前向き試験では、DSO直後からROCK阻害剤点眼を開始することで成功率が57%まで向上し、角膜透明化までの期間も平均4.1週間とDSO単独の約半分に短縮されたと報告されている。

しかしながら、現時点において本邦ではROCK阻害剤の角膜疾患に対する適応は承認されていない。本邦以外では米国・欧州・地域のFECD患者を対象に、デスメ膜剥離と自内皮の同時手術にROCK阻害剤を投与した際の有効性および安全性をプラセボと比較評価するための多施設共同の臨床試験が実施されており、今後結果が注目される。

参考文献

  1. 細隙灯顕微鏡用語活用アトラス事典
  2. Medscape
  3. クオリファイ12角膜内皮障害(専門医のための眼科診療クオリファイ)
  4. 今日の治療指針第3版
  5. 眼科学第2版
  6. 第126回日本眼科学会総会
  7. Global Prevalence of Fuchs Endothelial Corneal Dystrophy (FECD) in Adult Population: A Systematic Review and Meta-Analysis
  8. Trinucleotide Repeat Expansion in the Transcription Factor 4 (TCF4) Gene Leads to Widespread mRNA Splicing Changes in Fuchs’ Endothelial Corneal Dystrophy
  9. Descemet’s stripping without endothelial keratoplasty.
  10. Update on the Surgical Management of Fuchs Endothelial Corneal Dystrophy
  11. Descemetorhexis Without Grafting for Fuchs Endothelial Dystrophy-Supplementation With Topical Ripasudil
  12. Pilot Study of Corneal Clearance With the Use of a Rho-Kinase Inhibitor After Descemetorhexis Without Endothelial Keratoplasty for Fuchs Endothelial Corneal Dystrophy
  13. Outcomes of Descemet Stripping Only Without Postoperative Use of Topical Rho-Associated Protein Kinase Inhibitors
  14. Use of Topical Rho Kinase Inhibitors in the Treatment of Fuchs Dystrophy After Descemet Stripping Only
  15. A Common Trinucleotide Repeat Expansion within the Transcription Factor 4 (TCF4, E2-2) Gene Predicts Fuchs Corneal Dystrophy
  16. Prevalence of Fuchs Endothelial Corneal Dystrophy in Kyoto Glaucoma Cohort Study
  17. Fuchs角膜内皮ジストロフィの診断基準および重症度分類』(日本眼科学会)

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