近視性脈絡膜新生血管(mCNV)の定義
病的近視は「びまん性萎縮異常の萎縮性変化を眼底に有する、もしくは後部ぶどう腫を有する」とされ、近視性脈絡膜新生血管は「病的近視眼に合併するCNVである」と定義された。
近視性脈絡膜新生血管(mCNV)の発生機序
未だ解明はされていないが、脈絡膜循環障害や眼軸長延長に伴うBruch膜の断裂(lacquer cracks)が発症に関与すると報告されている。実際に、mCNVの95%にlacquer cracksが存在しているという報告がある。
また最近では、CNVとperforating vessel(PV)との関係が注目されている。PVは強度近視眼の70~80%に認められる、Bスキャンで観察される強膜内低輝度領域のことである。PVは短い後毛様動脈あるいは長後毛様動脈に該当するとされる。このPVもmCNV眼の75%にCNV直下に存在し、そのうち11%はCNVと直接連絡していると報告されている。
近視性脈絡膜新生血管(mCNV)の疫学
発生機序は不明だが、近視性脈絡膜新生血管(mCNV)は病的近視において頻度が高く、強度近視患者全体の約5~10%に発症するとされる。
mCNVは高齢者における脈絡膜新生血管の原因として加齢黄斑変性症に次いで多い一方で、若年者では最多(50歳以下のCNVの60%)で、特に中高年女性に好発する。30%程度が8年以内に両眼に発症する。
近視性脈絡膜新生血管(mCNV)の検査所見
1.検眼鏡的所見
- 網膜下の灰白色病変
- 網膜出血(加齢黄斑変性症のように濃くなりにくい)
2.蛍光眼底造影検査(FA)
Classic CNVパターンを示すが、蛍光漏出はさほど強くないことが多い。
3.インドシアニングリーン蛍光造影(IA)
診断に必須ではないが、正確に脈絡膜新生血管の位置を把握できる。IA初期にはCNVの血管影やCNV周囲を網膜色素上皮が囲い込むことによる低蛍光(dark rim)が観察され、後期にはlacquer cracksが観察される。また、前述のPVを認めることがある。
インドシアニングリーン蛍光造影(IA)は出血によって蛍光漏出がblockされないため、出血を伴う疾患では重宝される。
4.光干渉断層計(OCT)
AMDのCNVより小型で、滲出性変化も軽度であることが多い。TypeⅡ CNVの脈絡膜新生血管(mCNV)の所見を呈するが、活動期であっても滲出性変化は強くない。
5.OCTA
CNVが網膜外層や脈絡膜毛細血管板層を中心に高輝度病変として描出される。AMDと比較して網膜色素上皮剥離がほとんどなく、滲出性変化も乏しいため、セグメンテーションエラーが起こりにくいことからCNV検出率が90%以上と高くなっている。
近視性脈絡膜新生血管(mCNV)の治療
近年はほとんど抗VEGF薬による加療が行われる。PDTは禁忌である。
2013年8月よりラニビズマブ(ルセンティス®)が保険適用となった。1回注射後必要に応じて追加投与を行う(1+PRN)。追加投与はAMDと同様に判断されるが、滲出性変化が乏しいため、網膜色素上皮のラインが不明瞭になったり、新たな出血を起こしたりするなどの悪化所見から判断する。ただし、投与に伴う急激な新生血管の退縮が網膜分離症の悪化や黄斑円孔網膜剥離の形成につながることがある。
近視性脈絡膜新生血管の予後
自然軽快はまれで、無治療の場合、多くは黒い色素沈着を伴うFuchs斑を経て周囲に広範な網脈絡膜萎縮を形成し、高度の視力障害をきたす。自然経過では5年後に77.8%、10年後に96.3%の症例でCNV周囲に網脈絡膜萎縮を生じ、視力が0.1以下になるとされる。抗VEGF薬を用いても長期予後は不良で、3、4年経過すると黄斑部が萎縮し、徐々に視力が低下する。近視性脈絡膜新生血管の再発率は2~3年で20~30%で、脈絡膜厚が薄いとリスクが高いとされる。
参考文献
- 眼科学第2版
- 黄斑疾患診療AtoZ
- 第74回日本臨床眼科学会シンポジウム6強度近視による失明予防に向けて
- あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020