未熟児網膜症(ROP)とは
ROPは未熟児にみられる網膜血管の未熟性に起因する網膜血管の閉塞と、それに続発する眼内増殖性疾患である。周産期医療の進歩に伴う超低出生体重児の生存率上昇によって、未熟性の高い患児にみられる重症網膜症が増加している。全国盲学校の視覚障害原因調査によれば、未熟児網膜症の占める率は1990年11%→2010年20%と約2倍になっている。
アメリカにおけるROP発症率は0.12%で、在胎週別でみると27週以下で89.0%、27~31週では51.7%、32週以上では14.2%に発症する。日本で実施された他施設研究によれば出生体重が1000g未満の超低出生体重児の86.1%に発症し、治療率は41%となる。
胎児の網膜血管の発達
網膜血管は妊娠12~14週に視神経乳頭付近から発生し、鋸状縁に向かい網膜表層を伸長していく。鼻側は胎生約8カ月、耳側は約9カ月で網膜鋸状縁に達する。よって、妊娠36~40週頃に網膜最周辺部まで血管が到達する。
しかし、早産児では周辺網膜に無血管野が存在しており、胎外へ曝露されると、正常な血管伸長が停止し異常な新生血管が硝子体側に形成される。異常新生血管は線維成分を含んだ増殖膜となり、その増殖膜が収縮すると牽引性網膜剥離へと進行して失明に至りうる。
修正33週までの未熟児網膜症(ROP)
胎児の血中酸素飽和度は20%以下とされる。未熟児は血管が十分に発達しないまま誕生し、肺呼吸が始まると血中酸素濃度は急激に上昇する。そして、血中酸素濃度が上昇すると、網膜血管は閉塞し始める。
そこで高濃度酸素を投与すると、網膜血管閉塞が促進される。そのため、この段階では酸素投与をできるだけ控え、血中酸素飽和度を85~92%程度に保つのが良いとされる。
修正34週以降の未熟児網膜症(ROP)
修正34週を超えると、網膜の代謝が高まり酸素要求量が増大する。しかし、33週までに閉塞していた血管はその需要に応えることができず、眼内のVEGF濃度が上昇する。結果として、眼内の増殖性変化が起こりROPは進行する。
未熟児網膜症(ROP)の検査対象および検査時期・方法
スクリーニングの対象は下記のいずれかを満たす場合である。なお、高濃度酸素投与や人工換気をした症例は基準に関わらず眼底検査を行う。
- 在胎34週未満
- 出生体重1800g以下
日本では在胎26週未満の症例では修正29週から、在胎26週以上の症例では生後2~3週に初回検査を行うことが望ましい。圧迫して周辺部網膜を観察する際に、圧迫による眼球心臓反射、無呼吸発作に注意して短時間で終了するよう心掛ける。
未熟児網膜症(ROP)発症後の進行
ROPの分類には国際分類が用いられ、国際分類では活動期の網膜症を病変の位置(zone)、病期(stage)、plus diseaseによって分類する。
Zone分類
Zoneは、視神経乳頭を起点として網膜血管が伸長した距離を示し、zoneⅠ~Ⅲで記す。
- ZoneⅠ:最も血管の発育が未熟で、広範な無血管領域が存在する。視神経乳頭を中心として、乳頭―黄斑距離の2倍を半径とする円内の領域をいう。
- ZoneⅡ:乳頭から鼻側鋸状縁までを半径とする円内の領域をいう。
- ZoneⅢ:ZoneⅡより周辺の領域をいう。
国際分類における病期分類
- Stage1:境界線の形成。網膜血管がすでにある部分とない部分を分ける明瞭な線を境界線という。
- Stage2:隆起(ridge)。境界線が幅と厚みを持ってくる。
- Stage3:網膜外繊維血管増殖。ridgeが進展し、網膜外に増殖をきたしたもの。
- Stage4:部分的な網膜剥離。原因は滲出液貯留と増殖性病変による牽引で、さらに2つに分類される。4Aは黄斑剥離がない段階で、4Bは黄斑剥離がある。
- Stage5:網膜全剥離
plus disease
網膜血管の拡張や蛇行がみられるもので、ZoneやStageに加えplus diseaseと記載する。
Aggressive Posterior ROP(AP-ROP)
国際分類に沿って病期が進行し、治療適応に至った例をType1ROP、治療適応未満ではType2ROPとする。一方、網膜血管の発育が不良で段階的な経過をとらず、急速に網膜剥離へと進行する非典型例はaggressive posterior ROP(AP-ROP)と定義されている。
AP-ROPの初期には、網膜血管が非常に細く、異常吻合や走行異常が観察される。また、増殖がはっきりしない時点から網膜出血がみられることが多い。数日で血管拡張・蛇行は顕著になる。AP-ROPは診断が付いたらすぐに治療を行う。
未熟児網膜症(ROP)の治療
アメリカで行われたEarly Treatment of Retinopathy Prematurity(ETROP)を基準として、治療適応があるROP(Type1ROP)は
- ZoneⅠ病変では、stageにかかわらずplus diseaseがある場合
- ZoneⅠ病変であるが、plus diseaseがない場合はStage3となった場合
- ZoneⅡ病変ではplus diseaseがあり、Stage(2)〜3になった場合
であり、Type1ROPと診断したら72時間以内に治療を行う。AP-ROPでは初期徴候があれば迅速に治療を開始する。
1.網膜光凝固術
治療は網膜光凝固術が主として用いられる。ZoneⅠ、Ⅱ病変で上記以外のものは注意深く経過観察、Stage3病変が連続して5時間、あるいは8時間となった場合には網膜光凝固を行う。網膜光凝固では境界線より周辺の無血管領域を凝固する。AP-ROPはより密に凝固を行う。治療後1週間ほどで血管拡張・蛇行の軽快や増殖膜の退縮が始まるが、改善しないあるいは再び悪化する場合には追加凝固を行う。
網膜光凝固術の条件例
スポットサイズは300-500μm、照射時間0.2~0.3秒、凝固出力は200mW程度から開始、凝固斑の間隔は0.5スポット程度で行う。
2.手術
増殖性病変が進んだり、剥離を生じたりする場合は硝子体手術あるいは強膜バックリング手術が適応となる。
強膜バックリング手術
増殖膜の牽引を軽減することで、結果的に新生血管の活動性を低下させる。よって、増殖膜があるStage4のROPに適応となる。ただし、増殖膜が赤道面に広範に広がる場合や後極に近い場合には適さない。また、シリコンバンドやスポンジは感じの成長につれて眼球を絞扼するため、6カ月以内に抜去する。
硝子体手術
Stage4および5のROPに対して行われる。また、AP-ROPにおいても網膜剥離に対する早期硝子体手術が有効であるとされている。
3.抗VEGF抗体
2019年11月にラニビズマブ(ルセンティス®)が認可された。承認された用量は片眼1回につき0.2㎎(0.02ml)である。抗VEGF抗体を注入し、未熟児網膜症を抑制する。しかし、増殖膜が収縮し網膜剥離が増強することがある。
低出生体重児は術野が小さく、毛様体扁平部も未熟で輪部からの距離も短いため、輪部から1.0~1.5㎜後方において注射針の刺入を行う。成人と同様に輪部から3-4㎜で注射すると、網膜を貫通するリスクがある。
また、水晶体が相対的に大きいため、下方(垂直・後方のこと)に向けて針を刺入しないと水晶体を貫通してしまうリスクがある。
注射後は1日目、3~4日目は眼内炎などの有害事象が無いか確認する。ラニビズマブでは再燃するリスクもあり、特に投与後4~16週は再治療が必要とされている。また、AP-ROPに対しては、75.0~87.5%の症例に追加治療を要するが、投与後1~3週以内に再燃を起こす例がある。その場合、ラニビズマブの再投与は1カ月経過しないとできないため、光凝固術を追加治療として選択する。
なお、網膜症の再燃は特にplus disease(2象限以上の網膜血管拡張と蛇行)の再出現に注目し、ETROP studyの治療基準に準じて追加治療を行う。
ROPの経過観察
後極血管の拡張や蛇行、増殖の変化だけでなく、散瞳不良や水晶体血管膜の怒張は病勢の悪化を示唆する所見なので注意を要する。
- ZoneⅠ→週1回以上の診察
- ZoneⅡ→ZoneⅠに近い血管発育の未熟なもので、Stage3→週1回以上の診察が望ましい
- それ以外→1~2週間に1回程度の診察を行う。
- 抗VEGF薬投与後1年間は、可能な限り2週間に1回程度の眼底検査を行うことが望ましいが、光凝固を追加した場合、網膜血管がZoneⅢまで発達した場合には、2-3カ月に1回程度の眼底検査としてよい。
- AP-ROPに対しては、投与後2-3週までは週に2回の眼底検査が必要と思われる。光凝固をしても後期に再燃することがあるため、投与後4カ月頃までは週に1回、以降も1~2週に1回の眼底検査を大体の目安とする。
ROPの予後
瘢痕期分類に従う。瘢痕期1度では黄斑部に異常がないため、視力はほぼ正常に発達する。一方で、瘢痕期2度以上では弱視の原因になる。治療眼では近視、斜視、白内障、緑内障、網膜剥離などを晩期に生じることがあるとされ、長期的な経過観察が必要になる。
RAINBOW studyによると、ルセンティス0.2㎎投与群の治療成功率は80%、レーザー光凝固術群は66%と、ルセンティス投与群の方がより治療の成功が望める。しかし、sub group解析によると、Zone1において治療成功率は、ルセンティス0.2㎎投与群で68%、レーザー光凝固術群で61%であった。また、APROPにおいて治療成功率は、ルセンティス0.2㎎投与群で40%、レーザー光凝固術群で62.5%であった。追加治療を24週以内に必要とした再発率を見ると、ルセンティス0.2㎎投与群は31.1%、レーザー光凝固術群で18.9%とレーザー光凝固術群の方が再発率が低い結果となった。
瘢痕期分類
- 1度:周辺部に軽度瘢痕性変化あり
- 2度:牽引乳頭あり
- 3度:後極部に束状網膜剥離
- 4度:部分的後部水晶体線維増殖
- 5度:完全後部水晶体線維増殖