網膜中心静脈閉塞症(CRVO)とは
CRVOは網膜中心静脈が視神経内で閉塞することにより静脈内圧が上昇し、網膜内の血液のうっ滞、虚血、滲出が生じる。40歳以上の有病率は約0.2%で、リスクファクターは動脈硬化(年齢、高血圧、脂質異常症、糖尿病)などである。20歳代で生じる場合は、視神経乳頭血管炎などの炎症性疾患や白血病などの血液疾患などが原因となることが多い。
血栓形成の機序は明らかでないが、網膜中心静脈と動脈は外膜を共有しているため、網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)と同様の機序で血栓形成が生じると考えられている。網膜内の血液のうっ滞、虚血により、網膜出血、黄斑浮腫、そして網膜の虚血によって網膜・隅角・虹彩新生血管等の増殖性変化が生じる。非虚血型の約1/3は虚血型に移行する。
網膜中心静脈閉塞症(CRVO)の症状
蛍光眼底造影検査を行い、15乳頭面積以上の無血管野があれば虚血型とする。
- 非虚血性型CRVO:自覚症状がなく、偶然発見されることもあるが、多くの症例は黄斑浮腫に伴う視力低下を認める。
- 虚血型CRVO:硝子体出血による視力低下、血管新生緑内障による高眼圧、視野障害が生じることがある。虹彩/隅角新生血管の発症時期は、初診時から3~6カ月以内が多いことが示されている。
網膜中心静脈閉塞症(CRVO)の合併症
黄斑浮腫と新生血管、虚血型CRVOは血管新生緑内障による失明に注意する必要がある。
網膜中心静脈閉塞症(CRVO)の診断
眼底全体に広がる網膜出血が特徴的であるため診断自体は難しくない。しかし、虚血型か否かで治療適応、予後が変わるため下記の検査も重要である。非虚血型の約1/3は虚血型に移行するため、非虚血型と診断したとしても注意深い経過観察が必要である。
1.蛍光眼底造影検査
蛍光眼底造影検査にて15乳頭面積以上の無潅流領域が存在するなら虚血型CRVOである。虚血型CRVOでは虹彩ルベオーシスが45~80%存在し、無治療だとその半数に血管新生緑内障が発症する。ただし、急性期で網膜出血がある場合はblockされるため評価が困難なこともある。
2.光干渉断層計(OCT)
黄斑浮腫の観察に重要である。網膜内層が出血を伴わずに高輝度を示す場合に虚血が示唆される。
3.相対的入力瞳孔反応異常(RAPD)
虚血型では約90%が陽性で、非虚血型では陰性であることが多いため鑑別に役立つ。
4.視野検査
虚血型では巨大な中心暗点をきたす。
5.網膜電図
虚血型CRVOでb/a比、b波振幅、フリッカが低下する。
網膜中心静脈閉塞症(CRVO)の治療
0.血圧管理
BRVOの治療は黄斑浮腫に対する治療と、血管新生に対する治療がある。RVOの浮腫の再燃と高血圧の有無には関連がある。高齢者では収縮期血圧を130mmHg未満に管理すること、若年者では拡張期血圧にも注意する。RVO患者では健康対象者よりも夜間の低下率が小さかったことから、夜間血圧の高さがRVO発症に関係することが示唆された。また、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)では高血圧の有無が視力改善に影響する。
1.光凝固
- 血管新生予防:虚血型CRVOのみ適応がある。虚血型CRVOでは約3割に新生血管を生じるた。また、黄斑浮腫を伴う虚血型CRVOにおいて、抗VEGF薬投与終了後に新生血管が発生する恐れがある。その発症時期は平均CRVO発症後24カ月後とされる。そのため汎網膜光凝固はいずれ必要となると考えられる。とはいえ、新生血管のコントロールがある程度可能であるため、新生血管が出てから光凝固を行っても遅くない。
- 黄斑浮腫改善:光凝固では視力改善しない。
2.硝子体手術
黄斑浮腫に対する臨床試験は行われておらず、エビデンスは確立していない。しかし、近年ではマイクロニードルを用いた血管内治療が報告されており、根治的治療として期待されている。
3.薬物治療
- VEGF阻害薬硝子体内注入:VEGF阻害薬は視力改善、維持できる治療法だが、BRVOと比べ投与回数が多く、特に虚血型CRVOでは完治する症例は少ないとされる。
- ステロイド硝子体内注入:視力改善は限定的で、4㎎トリアムシノロンアセトニドでは白内障と眼圧上昇を有意に認めたため、投与するなら1㎎トリアムシノロンアセトニドが推奨される。
参考文献
- 今日の眼疾患治療指針第3版
- 第74回日本臨床眼科学会4網膜疾患診断法のパラダイムシフトと実臨床の変化
- 明日からの診療に役立つRVO診療と治療(2019年11月3日@帝国ホテル大阪)
- 眼科学第2版