選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)とは
SLTは選択的光加熱分解を応用し、周囲組織に障害なく線維柱帯の色素細胞のみを選択的に破壊する緑内障治療である。以前はアルゴンレーザーによる線維柱帯形成術(ALT)が行われていたが、SLTは照射エネルギーが格段に少なく、より安全な方法となっている。
選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の適応
一般的に施行前眼圧が高いほど眼圧下降効果が大きく、原発性開放隅角緑内障(POAG)や落屑緑内障が良い適応とされてきたが、NTGに対しても有効とされる。また、近年ではステロイド緑内障に対しても有効との報告があり、これら疾患は隅角も広く、線維柱帯への照射も比較的容易である。一方で、適応外は、SLT施行後に炎症を惹起しかえって眼圧上昇を招く恐れがあるぶどう膜炎緑内障や術後眼圧上昇、PACGなどが挙げられる。効果不良因子はSLT既往眼、続発緑内障などが報告されている。
選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の施行方法
施設により若干の差はあるが、概ね下記手順でSLTは施行している。
- SLT施行後は一過性に眼圧上昇しうるので、施行前にアプラクロニジンを点眼する。
- SLTの設定:QスイッチNd:YAGレーザー使用、照射時間3nsec、照射スポット直径400μmで、照射の際には隅角鏡(1面鏡など)を使用する。
- 照射は線維柱帯色素帯を中心に行う。パワーは照射部位に気泡が生じる最小のエネルギー(0.4-0.8mJ)で、スポットが重ならない程度に詰めて照射する。照射部位を見失わないよう、色素変化や虹彩突起を目印に行う。
- 施行後にもアプラクロニジンを点眼する。
※SLTの照射範囲は90°、180°、360°と範囲が広いほど、眼圧下降効果が大きくなる傾向があるとされるが、差はないとする報告もある。
選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の合併症
SLT施行後は一過性に眼圧上昇をきたすが、術後1時間で6mmHg以上の眼圧上昇をきたすのは約3-4%とされる。また、軽微な虹彩炎をきたすことがあるが、1週間程度で消炎、周辺部虹彩前癒着形成はないとされる。その他にも結膜充血、霧視、重圧感などの合併症が65%程度生じると報告があるが、施行後数日で改善することが多い。
選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の治療成績
SLTで眼圧下降が得られない症例が3割程度存在するが、点眼治療よりも効果および費用面で同等以上の治療効果を認めるという報告[2]もあり、その費用対効果の観点からも非常に有用な治療法である。また、レスポンダーであれば一定期間にわたり安定的な眼圧下降効果が持続するため、今後は緑内障治療の第一選択、第二選択として位置づけられる治療法になりうる。
その他の治療成績
- 平均点眼数3.4±1.3本と複数の緑内障点眼を使用している緑内障眼75眼(平均眼圧23.3±6.5mmHg)に対して追加治療にSLTを実施した。術前眼圧から20%の眼圧下降を目標眼圧達成とした場合、SLT1年後の成功率は全体の14.2%であった[3]。
選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の再照射の治療成績
LiGHT Study[2]ではSLT再照射を行った90人115眼の眼圧推移を調べている。初回SLT前の眼圧は24.5±6.6mmHg、21.0±4.2mmHgであった。SLT実施2カ月後の眼圧下降量は初回SLTが再照射SLTよりも大きくなったが、治療前眼圧を元に調整した眼圧下降量は、再照射SLTの方が初回SLTよりっも有意に大きくなった。そして、再照射SLT115眼のうち67%は、18カ月後の時点で点眼フリーで眼圧コントロールを達成していて、再照射SLTは初回SLTと同等の治療効果を有していたと報告している。また、再照射時に有害事象は起こらなかったと報告している。
参考文献
- あたらしい眼科Vol.37,No.2,2020
- Selective laser trabeculoplasty versus eye drops for first-line treatment of ocular hypertension and glaucoma (LiGHT): a multicentre randomised controlled trial
- Treatment Outcomes and Prognostic Factors of Selective Laser Trabeculoplasty for Open-angle Glaucoma Receiving Maximal-tolerable Medical Therapy
- あたらしい眼科 vol.38, 臨時増刊号, 2021