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緑内障治療のダークサイド | オンライン眼科
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緑内障治療のダークサイド

この記事は緑内障治療のダークサイドの講座で説明された3つのテーマ

  1. 眼圧下降治療のダークサイド
  2. 緑内障手術後の合併症
  3. 緑内障点眼治療の副作用

について順に説明しようと思います。

1.眼圧下降治療のダークサイド

東北大学の中澤徹先生による講演です。

A.緑内障治療の目的

緑内障治療の目的は眼圧管理視野異常の発見を一番大切だと考えてしまいがちです。これは正しいですが、緑内障診療ガイドラインには、

緑内障治療の目的は、患者の視覚の質(quality of vision:QOV)とそれに伴う生活の質(quality of life:QOL)を維持することである。

と書かれています。

そこで、演者は「大切なのは重症化(進行早い、中心視野障害)する緑内層患者を早期に見極めることが目標である。」と述べている。その際に重要になるのが眼圧管理視野異常の発見である。

多くのランダム化比較試験(RCT)により、眼圧下降が緑内障進行を遅延し抑制することが報告されている。とはいえ、緑内障の危険因子には様々な報告があり、緑内障は他因子疾患であると考えられている。

緑内障の危険因子一覧

  • 加齢
  • 近視
  • 家族歴遺伝子
  • 生活習慣(糖尿病、無呼吸、喫煙)
  • 高眼圧
  • 血流・虚血・乳頭出血
  • 酸化ストレス
  • 角膜ヒステレシス
  • 篩状板欠損・菲薄化

B.眼圧変動に注意

緑内障患者では眼圧管理が重要であるが、

  • サーガディアンリズム
  • 身体活
  • 体位

によって眼圧は変動することが知られている。特に「眼圧の低い緑内障(IOP≦12mmHg)では眼圧の変動値が緑内障進行の危険因子である」という報告もある。

眼圧は一日内でも変動することが知られている。これは交感神経が影響していると考えられるが、日中ピークに達する人が多い

また、身体活動として運動を例にとると、運動する人はしない人よりも眼圧が低く、緑内障が悪化しにくいという報告もある。

姿勢でも眼圧は変動する。座位時の眼圧を基準とすると、仰向け寝(仰臥位)だと眼圧は2mmHg上昇する。特に、うつぶせ寝で下に下側の眼圧がより上昇するため注意する必要がある。

逆立ちやヨガの頭を下にするポーズ(サーランバ・サルヴァンガーサナやハラーサナ)は眼圧をさらに上昇してしまう。これは、頭の位置が心臓よりも下にきてしまうためと考えられる。中には、眼圧が15mmHg近く上昇してしまう体位もある。

その他にも眼圧と関連のある習慣はいくつか存在する。

  • アルコール摂取量が多いと眼圧は上昇する
  • ウイスキーダブル2杯程度で眼圧は2〜5mmHg低下し、2〜4時間持続する
  • 大量飲水
  • きついネクタイ
  • 目の圧迫

このように眼圧は我々の日常生活と密接に関わっており、眼圧コントロールが悪い患者さんに日常生活を問診してみると診断の手助けになることがあると示唆される。

また、診察時眼圧が低いにも関わらず、視野進行が早い場合は日常生活の行動が影響している可能性もあります。視野進行が想定よりも早い場合はぜひ問診をしてみてください。

C.眼圧下降が無効な病型

Ⅰ.フラマー症候群

本邦ではあまり周知されていないが、緑内障を含めた眼疾患と関連すると言われている。フラマー症候群は外界からの刺激に対する血管応答が特異で、血管攣縮によって血流不全をきたします。手足の血管が攣縮し、血流不全をきたすと手足の冷えを訴えます。

Ⅱ.睡眠時無呼吸症候群(SAS)

緑内障患者では健常成人と比較して、SASを合併している患者が高頻度に見られる。SASと緑内障の関連は様々言われており、

  • 夜間無呼吸の際に眼圧上昇は見られなかった
  • 緑内障の重症度は無呼吸のエピソード数と持続時間との相関
  • 正常眼圧緑内障患者で、薬物療法にも手術にも反応がなかったがCPAP後に安定
  • CPAP後に視野欠損が改善

など報告がある。また、睡眠時無呼吸症候群の全身性の酸化ストレスが増加し、緑内障性の視野障害に関与していると言われている。実際、尿中酸化ストレスマーカー(8-OHdG)正常眼圧緑内障に関与しており、緑内障重症度と乳頭組織血流と相関する。

2.緑内障手術後の合併症

島根大学の谷戸正樹先生の講演です。

緑内障手術には大きく3種類です。

  • 流出路再建術:トラベクロトミー、MIGS
  • 濾過手術:トラベクレクトミー、エクスプレスシャント
  • チューブシャント:バルベルト、アーメド

があり、この3種の中で比較すると、チューブシャントは安全性が高いですが、眼圧下降効果は低いです。

逆に、流出路再建術は眼圧下降効果は高いですが、安全性は低いとされています。

そして、濾過手術はその中間と言われています。

緑内障手術件数を見ると、厚生労働省の調べでは流出路再建術は10957→13260件と21%増、濾過手術は19844→20278件と2%増、ロングチューブは817→1279件と57%増になっています。

A.流出路再建術について

流出路再建術としてAn instrno手術が行われており、適応は下記の通りです。

  • 初期〜中期の原発開放隅角緑内障、落屑緑内障、ステロイド緑内障
  • 発達緑内障
  • 白内障による視力低下を伴う緑内障
  • 原発閉塞隅角緑内障(白内障同時手術)
  • 高齢者の緑内障(術後通院の困難さ、余命次第)
  • ※iStentはガイドラインあり

ただし、適応外の疾患もあり、

  • 炎症眼
  • 血管新生緑内障
  • 前房内硝子体脱出
  • 無水晶体眼
  • 進行した緑内障
  • 中心視野が眼圧スパイクに耐えられない緑内障

以上は適応外とされています。適応なのか、適応外なのかを間違えないことが合併症対策には重要である。

B.濾過手術について

流出路再建術は濾過手術と比較すると下記の利点と欠点がある。

利点

  • 適応病型が広い
  • 強力な眼圧下降効果

欠点

  • 効果の予測性が劣る
  • 術後早期に早期に処置が必要
  • 視力低下に繋がる合併症(遷延性低眼圧、濾過胞感染)

欠点の一、濾過胞感染の病期分類があるので紹介する。

  • StageⅠ:濾過胞炎(炎症が濾過胞にとどまる)
  • StageⅡ:前房内へ炎症波及
  • StageⅢa:軽度硝子体内波及
  • StageⅢb:高度硝子体内波及

上記のように分類されるが、StageⅡ,Ⅲa,Ⅲbは一般的に眼内炎と言われる。また、2013年のYamamotoらの報告によれば濾過胞感染者のうち79/157眼、つまり約半数は眼内炎という報告がある。

濾過胞感染の起因菌としては黄色ブドウ球菌(MRSA含む)が最多であり、8割はグラム陽性球菌が占めている。また危険因子も様々知られており、当講演では代謝拮抗薬(マイトマイシンC、5-FU)、濾過胞漏出が挙げられていた。

濾過胞感染の治療方法は日本緑内障学会濾過胞感染調査研究によれば、下記のような治療指針が示されている。

  • stageⅠ→濾過胞漏出液を培養し、レボフロキサシンとセフメノキシム頻回点眼、オフロキサシン眼軟膏就寝時、バンコマイシンとセフタジシム結膜下注射
  • stageⅡ→前房水を培養し、同上頻回点眼、同上眼軟膏就寝時、バンコマイシンとセフタジシム前房内注射、全身投与
  • stageⅢa→硝子体液を培養し、同上頻回点眼、同上眼軟膏就寝時、バンコマイシンとセフタジシム硝子体内注射、全身投与
  • stageⅢb→硝子体液を培養し、抗菌薬に反応なし、硝子体混濁高度で硝子体手術、抗菌薬全身、局所投与

3.緑内障点眼治療の副作用

井上眼科医院の井上賢治先生による講演です。

2019年8月現在、緑内障点眼薬の先発品は30種類以上あります。緑内障点眼薬の選択はその効果と副作用のバランスが重要であるとされています。

そんな緑内障点眼薬の副作用には、点眼薬共通の副作用とその点眼薬特有の副作用があります。①では点眼薬共通の副作用について、②ではその点眼薬特有の副作用について説明します。

①緑内障点眼薬共通の副作用

緑内障点眼薬共通の副作用は、結膜充血角結膜障害があります。これら症状の原因として、点眼薬に含まれている防腐剤(特に塩化ベンザルコニウム(BAC))、基材、添加剤が挙げられます。

これらの物質が副作用の原因と考えられる場合、これら物質が含まれない点眼薬に切り替えることが一般的です。ただし、同じ効用のある薬剤ある場合は良いですが、中には代替不可能な治療薬もあり、その場合は症状に合わせて適宜薬剤中止等を検討します。

②緑内障点眼薬特有の副作用

Ⅰ.β遮断点眼薬の副作用

副作用は全身性と眼局所に分けられます。β遮断点眼薬の全身性の副作用として、喘息、徐脈、抑うつなどがあり、生死に関わる恐れがあります。

眼局所の副作用として、刺激感、充血、瘙痒感、角膜上皮障害などがあり、これら症状によりアドヒアランスが低下してしまう恐れがあります。

これらを加味すると「副作用が出ないように事前に喘息および心疾患等の確認し、目薬はきちんと点眼できているかを確認する必要があります。

Ⅱ.PG関連点眼薬の副作用

副作用は眼瞼色素沈着、虹彩色素沈着、睫毛剛毛化、睫毛乱生、上眼瞼溝深化(DUES)などがある。ただし、睫毛乱生、DUESには点眼薬によって出やすい、出にくいといった傾向が存在するが、眼瞼色素沈着にはその傾向はなかった。

また、増本らが行なったタフルプロスト点眼による眼局所副作用の検討では、点眼6ヶ月後の副作用調査が行われている。その調査では下記の通り、点眼後6ヶ月後に副作用が発現していた。

  • 眼瞼多毛 28%
  • 虹彩色素沈着 35%
  • 睫毛伸長 47%
  • 睫毛剛毛化 28%
  • 眼瞼色素沈着 26%

ここから頻度の差はあれ、最低でも4人に1人の患者には上記いずれかの副作用が発現していることになる。

Ⅲ.炭酸脱水素酵素阻害薬点眼薬の副作用

副作用は味覚障害、眼刺激、霧視、角膜内皮障害などがある。

Ⅳ.交感神経α2刺激薬の副作用

副作用は結膜蒼白、傾眠(0.17%程度)、アレルギー性結膜炎、アレルギー性眼瞼炎などがある。

Ⅴ.Rhoキナーゼ阻害薬の副作用

副作用は結膜充血、アレルギー性結膜炎、アレルギー性眼瞼炎などがある。

Ⅵ.選択的EP2受容体作動薬

主な副作用は結膜充血、角膜肥厚、黄斑浮腫、眼炎症(虹彩炎など)がある。しかし、特有の副作用は少なく眼圧下降効果はPG関連点眼薬と同等であるため今後に期待される。

ただし禁忌があり、

眼内レンズ眼と無水晶体眼に対する使用、タフルプロストとの併用は禁忌

となっている。

個人的には高齢化が進むため、白内障手術を経ている患者が多くなると思う。エイベリスは眼内レンズ挿入眼には禁忌であるため、白内障手術後は使えないというデメリットがある。

おわりに

高齢化が進む中、緑内障患者の割合は増加することでしょう。そんな中、緑内障の治療方法はエイベリスの誕生やMIGSの普及により、さらに多様性を増しています。治療方法が増えることは良いことですが、眼科医はこれら治療の合併症や副作用を知っておく必要があります。

患者さんから「こんなの聞いていない」と言われないよう、この記事が皆さんのお役に立てればと思います。今回の記事は今までで一番長くなってしまいました。ぜひ、何度も繰り返し読んでいただき、明日の治療、いや今から治療に役立ててください。

参考文献

  1. 緑内障ガイドライン第4版

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