眼科で行う治療

緑内障概論

緑内障とは

日本緑内障学会のガイドライン(第4版)によると、緑内障とは、

 

視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である。

 

とされている。

緑内障はどのくらいの頻度で発症するのか

2000年9月から2001年10月に行われた多治見スタディの調査により、緑内障は40歳以上の20人に1人、70歳以上では10%以上に見られることが分かった。その詳細は下記に記載する。

年少者の正常眼圧緑内障(NTG)の報告もあるので、40歳未満が緑内障を発症しないわけでなく、この多治見スタディ自体が40歳以上を対象にした調査であったためそのよような結果となった。

多治見スタディによる病型別緑内障の内訳

  • 原発開放隅角緑内障 3.9%(うち正常眼圧緑内障3.6%)
  • 原発閉塞隅角緑内障 0.6%
  • 続発緑内障     0.5%

緑内障のリスク因子は?

開放隅角緑内障のリスク因子

  • 高齢
  • 高眼圧
  • 人種
  • 家族歴
  • 近視
  • 睡眠時無呼吸症候群

閉塞隅角緑内障のリスク因子

  • 女性
  • 高齢
  • アジア人
  • 短眼軸

緑内障は遺伝する!?

緑内障はその遺伝子が報告されており、 MYOC(1997年報告)、WDR36(2005年報告)、OPTN(2002年報告)などですが、その他にも候補となる遺伝子は多くの報告があります。なお、開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障は遺伝子的に異なる疾患群の可能性が示されています。

緑内障の検査

緑内障診察の大まかな流れ

緑内障患者の約90%は未発見および未治療であるとされています。緑内障の有無は目の奥にある視神経の形から判断します。視神経の形から緑内障が疑わしい場合は視野検査を行います。

しかし、視野検査では異常が検出されないpreperimetric glacomaという概念もあるため、視野検査のみを過信してはいけない。それらを踏まえて緑内障診察で行う検査は下記の通りです。

検診

  • 眼底写真
  • 眼圧検査

眼科ではそれらに加えて

  • 細隙灯顕微鏡検査
  • 眼圧検査
  • 隅角検査
  • 眼底検査
  • OCT検査
  • 視野検査 

これら検査以外にもエコー検査(UBM)や前眼部OCTで隅角が閉塞しているかどうかを見ることもあります。

細隙灯顕微鏡で見ること

細隙灯顕微鏡は眼科の検査では必ず使われる機械です。この細隙灯顕微鏡から得られる緑内障の所見を見ていきましょう。

①角膜

緑内障の診察では角膜変性、浮腫、混濁、角膜径、角膜後面沈着物を観察し、緑内障の診断の材料としています。また、緑内障タイプによっては下記のように特徴的な角膜所見があります。

  • Axenfeld-Rieger症候群:後部胎生環とそれに向かう虹彩癒着がある。
  • Haab striae:発達緑内障で角膜径の拡大によりDescemet膜が破裂することで見られる。
  • ICE症候群:虹彩角膜内皮症候群のこと、虹彩と角膜内皮細胞が障害され、細隙灯顕微鏡で角膜内皮面の微小な凹凸を認める。
  • Peters異常:角膜中央部のBowman膜とDescemet膜が欠損し、角膜混濁と菲薄化を生じる。

②前房

前房深度を観察し、van Herick法を用いて分類します。前房深度が角膜厚の1/4以下なら閉塞隅角の危険性があります。もし閉塞隅角の危険性がある場合は隅角鏡を用いて詳細を確認したり、前眼部OCT等で実際の前房深度を観察することもあります。閉塞隅角の場合は散瞳薬は禁忌です。

③虹彩

虹彩委縮、瞳孔偏位、落屑、虹彩後癒着、新生血管、結節などを観察します。

  • 虹彩委縮:ヘルペス性ぶどう膜炎、Fuchs虹彩異色虹彩炎など
  • 落屑:落屑症候群、アミロイド緑内障など
  • 虹彩後癒着:前房内炎症、瞳孔ブロックなど
  • 結節:肉芽腫性ぶどう膜炎、ICE症候群など
  • 新生血管:眼部虚血

④水晶体

水晶体偏位、白内障、水晶体厚、水晶体振盪を観察します。

  • 水晶体脱臼:眼外傷、落屑症候群、Marfan症候群などに合併し、瞳孔ブロックなどで眼圧上昇を生じる
  • 白内障:白内障で水晶体厚が増加すると、閉塞隅角の原因になる

⑤視神経乳頭

緑内障診断で非常に重要です。緑内障において視神経乳頭診察が重要である理由は「視神経乳頭障害は視野障害に先行する」からで、その陥凹・乳頭の比(cup-to-disc;C/D比)は正常で0.4までとされています。

視野障害の頻度はC/D比が0.4を超えると5%程度となり、それ以上ではより高頻度に視野障害が出現します。つまり、理論的にはC/D比>0.4ならば視野検査をするのが望ましいといえます。

また、視神経乳頭のリムの広さはISN’Tの法則に従います。この法則は正常のリムの広さは下方(Inferior)、上方(Superior)、鼻側(Nasal)、耳側(Temporal)の順に広いという法則です。その頭文字をとってISN’Tの法則と呼んでいます。この法則と差があるなら緑内障の恐れがあります。

その他にも乳頭出血があると74%は緑内障であるとされています。

視神経乳頭所見から鑑別すべき疾患

1.SSOH(Superior Segmental optic Hypoplasia)

上方視神経乳頭低形成のこと。鼻側階段はなく、Mariotte盲点に連なる楔型の視野障害をきたす。PPAはないことが多く、視野障害進行することは少ない。日本人の有病率は0.3%とされる。

2.傾斜乳頭

視神経乳頭が上下方向に傾斜している。鼻側階段はなく、乳頭に連なるような楔型の視野障害をきたす。

3.視神経乳頭小窩

視神経乳頭に先天的に小窩がある場合にもNFLDが生じることがある。時に漿液性網膜剥離を生じる。

隅角鏡で見ること

隅角は房水の流出路で、この隅角が広い・狭いが緑内障の分類および治療に重要となります。隅角鏡には拡大率の違い等でさまざまな種類があります。隅角鏡を用いた検査により、下記のShaffer分類あるいはScheie分類を行います。

隅角鏡の代表的な所見

  • 隅角結節:肉芽腫性のぶどう膜炎など。周囲にPASを伴い、眼圧上昇の原因になる。
  • 隅角色素沈着:落屑緑内障、色素緑内障、続発緑内障などでは線維柱帯に色素沈着を認める。Posner-Schlossman症候群では患眼の色素沈着は僚眼よりも軽い落屑緑内障ではSchwalbe線の上方に波状のSampaolesi線を生じる。
    Slide shareより引用
  • 隅角新生血管:糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症などにより生じる。進行すると隅角が閉塞し、眼圧が上がることもある。血管の枝分かれ、周囲にPASがあるときは要注意。
  • 隅角離解:眼外傷やオペ後に生じることがある。
  • 周辺虹彩前癒着(PAS):虹彩根部が隅角に癒着し、テント状や台形状など突起状の形を呈する。閉塞隅角緑内障、ブドウ膜炎既往、続発緑内障、新生血管緑内障などで観察される。
  • プラトー虹彩:中央の前房深度は保たれているが、周辺隅角の狭小化を生じる。

Shaffer分類

Grade0:隅角の角度は0°で、閉塞隅角が生じている
Grade1:隅角の角度は10°で、閉塞隅角がおそらく起こる
Grade2:隅角の角度は20°で、閉塞隅角が起こる可能性がある
Grade3:隅角の角度は25~35°で、閉塞隅角は起こりえない
Grade4:隅角の角度は35~45°で、閉塞隅角は起こりえない

Scheie分類

wide open:開放隅角で隅角のすべての部位が確認できる
Scheie1:毛様体帯の一部が観察できない
Scheie2:毛様体帯の観察ができない
Scheie3:線維柱帯の後方半分が観察できない
Scheie4:隅角のすべての部位が確認できない

エコー検査(UBM)前眼部OCTで見ること

いずれも前房深度をより詳細に見ることができます。UBMは毛様体までの観察ができますが、前眼部OCTに解像度が劣ります。開業医で設置しているところは多くはなく、あくまで補助的なものであります。

※視野検査についてはかなり煩雑になることが予想されるので、また別ページで説明します。

近視性構造変化

近視性視神経症と緑内障性視神経症は鑑別が困難です。

正常の乳頭面積は約1.5~3.5㎜²であり、これより乳頭面積の大きい視神経乳頭を巨大乳頭と呼ぶ。近視が強くなると、乳頭面積は拡大する傾向です。また、乳頭径は陥凹径は比例するため、巨大乳頭では陥凹が大きく、緑内障と誤診されやすくなります。

近視性視神経症の特徴は(γPPA、巨大乳頭、傾斜・回旋乳頭、ICCとコーヌスの境界に断裂、篩状板部分欠損、Scleral ridgeがある。また、強度近視眼では乳頭所見が正常でも、25%にMariotte盲点拡大(盲点周辺の2点以上の感度低下)、23%に全体的感度低下、16%に緑内障性視野障害を疑うような鼻側階段や弓状暗点があるという報告もある。

一方、緑内障性視神経症の特徴はβPPA小乳頭、陥凹、リム菲薄化、beyonetting、overpassingがある。

PPA-α、PPA-β

・PPA-α:不整な色素過剰や低色素からなる領域であり、RPEのメラニン顆粒の不整分布に起因する。

・PPA-β:RPEが欠損している領域で、OCT上でRPE断端からBruch膜の断端までをさす。検眼鏡的には脈絡網膜萎縮が強く、大血管や強膜が透見される。緑内障と関連が深い。

・PPA-γ:OCT技術の進歩とともに、PPA-βをさらに細かく分けるようになり、OCT上でBruch膜断端から乳頭縁までをPPA-γであるとされる。検眼鏡ではβ領域と鑑別しにくい場合がある。近視と関連が深い。

また、中等度以上の近視で眼軸が延長すると、耳側強膜が後退および平坦化する。この過程で乳頭が耳側に牽引され、鼻側が隆起し、耳側が平坦化および傾斜した縦楕円形を呈することが多い。その結果、網膜中心静脈起始部は鼻側に偏位し、鼻側を斜めに走行する。

中心窩無血管領域(FAZ)

網膜中心窩に存在する中心窩無血管領域(以下FAZ)は網膜静脈閉塞症や糖尿病網膜症において形態が変化することが知られている。

従来、FAZを可視化するためにはフルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)しかなく、造影剤によるアナフィラキシーショックなどの侵襲リスクがあった。しかし、OCTAの誕生により造影剤を使わずに、一般眼科でも非侵襲的にFAZを観察できるようになった。

そして、近年になり、FAZと緑内障に関する報告が出始め、緑内障眼では「FAZの正円率が低下し、周径が伸びる」「FAZの面積と中心窩感度とが相関する」ことが示唆されるようになってきた。

乳頭深層微小血管脱落(MvD)

乳頭深層微小血管脱落(MvD)はOCTAでPPA内に検出される網膜深層の血管脱落であり、MvDは耳上側および耳下側に多く、視野欠損部位やNFLDの部位と対応し、種々の緑内障性変化や進行と関連する。また、乳頭出血を多く認め、角度が大きいと中心視野障害をきたしやすいなどの報告もある。ただし、近視のみで緑内障がないPPA内にはまれである。

治療

1.点眼治療

目標眼圧を決めるために数回分の眼圧を測定します。その目標眼圧には初期例は19mmHg以下、中期例は16mmHg以下、後期例は14mmHg以下とする方法と、無治療時の眼圧の20~30%下降させる方法があります。この2つから患者さんに合わせて適切な方を選択します。

目標眼圧を設定したら、点眼治療で使う目薬を選択します。多くの場合は第一選択としてプロスタグランジン(PG)関連薬を用いますが、アレルギーや副作用の問題等あれば他の種類の点眼薬を使います。

PG関連薬を用いた半数の症例で眼圧下降が20%に満たないとされるが、PG関連薬のみが夜間と日中を問わず24時間平均して良好な眼圧下降効果が認められている。

点眼薬開始後の眼圧下降と目標眼圧を照らし合わせ、眼圧下降の程度と視野の進行を確認します。異常がなければそのまま点眼を継続しますが、眼圧下降が乏しかったり、視野障害が進行している場合には点眼薬を追加することがあります。

ただし、点眼薬を正しく付けていなかったりすることもあるので、きちんと点眼できているかの確認は必要となります。プロスタグランジン点眼薬以外に使う点眼薬はβ遮断薬、副交感神経刺激薬、α2作動薬、炭酸脱水素酵素阻害薬などがあります。これら目薬について詳しくは『これでわかる!緑内障点眼薬』をご覧ください。

開放隅角緑内障において、5日間連続の自己眼圧測定に基づく眼圧の短期変動幅が大きいと視野障害進行リスクが5.8倍となるという報告がある。

2.レーザー治療

レーザー虹彩切開術

レーザー虹彩切開術(LI)は非観血的で簡便な手術のため外来で可能です。主な適応として瞳孔ブロックに伴う閉塞隅角症があるが、前房が極端に浅い症例、角膜内皮が減少している症例、角膜混濁がある症例では避けるべきとされる。合併症として、一過性眼圧上昇、前房出血、白内障、再閉塞、水疱性角膜症などがある。

レーザー線維柱帯形成術

レーザー線維柱帯形成術(LTP)は線維柱帯にレーザーを照射し、主経路からの房水流出量の増加を図る。LTPにはアルゴンレーザーを用いるアルゴンレーザー線維柱帯形成術(ALT)とYAGレーザーを用いた選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)がある。適応には原発開放隅角緑内障、落屑緑内障、色素緑内障、瞳孔ブロック解除後の原発閉塞隅角緑内障、混合緑内障がある。

選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)についての記事
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3.手術

薬剤治療やレーザー治療でも十分な降圧効果がない、薬物による副作用やアドヒアランスが不良で降圧効果が乏しいと判断される場合に選択される。緑内障手術は多岐に渡るため、患者さんの状態に応じて治療方法が選択される。

緑内障手術の分類

  1. 濾過手術
    ・線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)
    ・非穿孔性トラベクレクトミー
    ・プレートのない緑内障インプラント手術:エクスプレス®
    ・プレートのある緑内障インプラント手術:Baerveldt緑内障インプラントとAhmed緑内障バルブ
  2. 房水流出路再建術
    ・線維柱帯切開術(トラベクロトミー)
    ・トラベクトーム
    ・ビスコカナロストミー
    ・カナロプラスティー
    ・隅角切開術(ゴニオトミー)
    ・隅角癒着解離術
  3. 瞳孔ブロックを解消する手術
    ・周辺虹彩切除術
    ・水晶体再建術
  4. 毛様体破壊術
    ・毛様体冷凍凝固術
    ・経強膜的レーザー毛様体破壊術

緑内障手術のタイミング(谷戸先生)~1-2-3の法則~

  • 点眼治療中の眼圧が常に12mmHgを超えている(視野欠損のある緑内障)
  • 点眼治療中の眼圧が20mmHgを超えた時点(初期の視野変化、PPG)
  • 点眼3ボトル必要になった時点
  • 内服が必要になった時点

1.線維柱帯切除術(トラベレクトミー)

濾過手術で最も一般的な方法である。

強膜弁を作製し、強膜弁下の輪部組織を切除して、房水を強膜上まで濾過させる。その濾過量は強膜弁を10-0ナイロン糸で数か所で縫合して調整する。強膜弁周囲組織の瘢痕創傷治癒によって濾過不全に陥ることがあり、眼圧下降効果を維持するために、マイトマイシンCの術中塗布を行う。濾過された房水は結膜組織によって吸収され、ブレブ(濾過胞)と呼ばれる水疱を形成する。

このようにトラベレクトミーでは新たにバイパスを作り、非生理的な房水流出路を作成する。トラベレクトミーは眼圧下降効果は優れる一方で、重篤な合併症が少なくないハイリスクハイリターンの手術である。適応は下記の通り。

トラベレクトミーの適応

  • 非観血的治療の効果不十分(点眼など)
  • 失明眼ではない
  • 目標眼圧が低い
  • 続発緑内障では原疾患の治療が十分に行われていること
  • 閉塞隅角緑内障では瞳孔ブロックの解除が行われていることと、水晶体再建術など他の術式では効果不十分と予測される場合
  • 発達緑内障では初回はトラベレクトミーを検討

トラベレクトミーが不成功に至るリスク因子は活動性のぶどう膜炎、血管新生緑内障、眼科手術既往(特に硝子体手術)、若年、有色人種、術前高眼圧には十分検討する必要がある。

手技の基本的な流れ

  1. 術前処置の点眼はピロカルピン塩酸塩点眼液で縮瞳させておく。
    ※水晶体再建術を同時に行う場合は散瞳し、水晶体再建術終了後にオビソートで縮瞳させる。
  2. 結膜を切開して結膜弁を作製する。結膜切開法には輪部基底結膜切開と円蓋部基底結膜切開法とがある。
  3. 結膜弁作製後、キシロカイン®でTenon嚢下麻酔を行い、ジアテルミーで強膜上の止血を行う。
  4. 半層切開の強膜弁を作製し、マイトマイシンC(0.04%)を4分間塗布し、生理食塩液で洗浄する。
  5. 前房穿刺を行い、軟部組織を切除し、周辺虹彩切除を行う場合がある。
  6. 強膜弁を10-0ナイロン糸で縫合糸、前房穿刺した部位から眼内潅流液もしくは生理食塩液を注入して、眼圧を回復させるとともに、強膜弁からの房水濾過を確認する。
  7. 結膜を縫合し、ブレブを形成する。
術後合併症

1.早期の合併症

過剰濾過に伴うものとして前房消失、脈絡膜剥離、低眼圧黄斑症を認め、周辺虹彩切除に伴うものとして前房出血が高頻度でみられる。また、結膜切開創からの房水漏出は円蓋部基底結膜切開での結膜切開手技で多いとされる。

予想外に低眼圧であれば、経過観察で自然に眼圧が回復するのを待つ。前房が消失したときは、直ちに前房に粘弾性物質を注入し前房形成を行う。低眼圧黄斑症を合併する場合には、ブレブ近傍の結膜から27G針を使って自己血注射を行ったり、強膜弁を再縫合して眼圧を回復させる。

2.術後長期の合併症

ブレブの壁が薄くなって房水が漏出したり、濾過胞感染が生じることがある。これが硝子体にまで及ぶと細菌性眼内炎となる。房水漏出は濾過胞感染のリスクファクターであり、房水漏出は血管の乏しい無血管ブレブに合併しやすい。無血管ブレブは輪部基底結膜切開の結膜切開手技で生じやすい。濾過胞感染を合併した場合、濾過胞感染のステージに応じて、直ちに抗菌薬の結膜下注射や前房内注射、硝子体内注射、硝子体手術を行う。

2.線維柱帯切開術(トラベクロトミー)

傍Schlemn管内皮組を切開して、房水流出障害を改善させ眼圧下降を図る治療である。

濾過手術に比べ術中・術後合併症少ないが、眼圧下降は劣る。線維柱帯切開術は病型によって眼圧下降に差があり、落屑緑内障やステロイド緑内障は原発開放隅角緑内障よりも眼圧下降効果が高い。

トラベクロトミーの適応

  • 小児緑内障
  • ステロイド緑内障
  • 落屑緑内障
  • 目標眼圧が高いPOAG
  • 一部のPACG

トラベクロトミーの非適応

  • 血管新生緑内障
  • 上強膜静脈圧上昇による続発緑内障
  • 隅角に炎症があるぶどう膜による続発緑内障
  • 目標眼圧が低いPOAG

手技の基本的な流れ

  1. 術前処置の点眼はピロカルピン塩酸塩点眼液で縮瞳させておく。
    ※水晶体再建術を同時に行う場合は散瞳し、水晶体再建術終了後にオビソートで縮瞳させる。
  2. 結膜を輪部から切開し、強膜を露出させ、キシロカイン®でTenon嚢下麻酔を行う。
  3. 1辺4㎜の強膜弁を作製し、角膜輪部と平行に走行するSchlemn管を同定する。
  4. Schlemn管を露出させ、U字型をした金属のプローブ(トラベクロトーム)をSchlemn管内へ挿入して進める。
  5. トラベクロトームを回転させて、Schlemn管内壁と線維柱帯を切開する。
  6. トラベクロトームを抜いた後、10-0ナイロン糸で強膜弁を縫合し、結膜を縫合して手術を終了する。

術後合併症

  • 前房出血(最も多い):2週間以内に自然に吸収される。
  • トラベクロトーム誤挿入→前房への早期穿孔、毛様体解離、Descemet膜下剥離、Descemet膜下血腫
  • 眼圧スパイク:術後3カ月ほど眼圧高値(30mmHg以上)が持続することがあるが、緑内障点眼薬を併用して経過観察を行う。
  • 前房への早期穿孔に対する対応:強膜弁の隣に2㎜幅の強膜弁を新たに作製し、新たに露出したSchlemn管断端から、再度トラベクロトームを挿入する。
  • 毛様体解離に対する対応:トラベクロトームが上脈絡膜腔に迷入したまま回転させた場合に、虹彩の裏面にトラベクロトームの先が出てきて生じる。トラベクロトームを回転させる場合にはゆっくり少しずつ動かし、線維柱帯切開術の動きと連動して虹彩が動いていないかを確認する。動いている場合は迷入している可能性がある。
  • Descemet膜剥離:トラベクロトームを回転させるときに、角膜側へ切り上げるような方向へ回転させると、Descemet膜剥離が生じる。それを防ぐため、少し虹彩側へ落とし込むような感覚で前房側へ回転させる。
  • Descemet膜下血腫:トラベクロトームがDescemet膜を巻き込み、角膜に盲端を作ることで、房水静脈から逆流してきた血液が角膜内に溜まり、Descemet膜下血腫を形成し、Descemet膜が血液に押されて剥離する。トラベクロトームを前房内で角膜輪部に対して90度近くまで回転させ、確実に前房へ開通させる。

術後成績

  • 眼圧は16~20mmHgの範囲で推移することが多い。
  • 落屑緑内障とステロイド緑内障の方が原発開放隅角緑内障よりも成績が良い。
  • 血管新生緑内障やぶどう膜炎続発緑内障には効果が乏しい。
  • 水晶体再建術と同時手術は、線維柱帯切開術の成績を改善する。

トラベクトーム

線維柱帯切開術は合併症は少ないが、眼圧下降が乏しいことがあり、再手術を行う場合がある。線維柱帯切除術では、上方結膜にブレブを作製するため、上方結膜に手術瘢痕があると手術が難しくなる。これを踏まえて、下方結膜に術野を確保して線維柱帯切開術を行う術者も多い。

また、結膜を切開しないで線維柱帯切開術を行う方法として、トラベクトームを用いる方法がある。先端に電極がついたハンドピースを角膜の切開創から挿入して、隅角鏡下でSchlemn管内壁と線維柱帯組織を焼灼して切開する。この術後成績は線維柱帯切開術と同等である。

3.プレートのない緑内障インプラント手術(エクスプレス®)

現在、保険収載されているのはエクスプレス®のみである。

ステンレス製のステントを輪部組織に留置して、管腔から流出する房水の流量が線維柱帯切除術に比べて安定しているため、術後の過剰濾過による合併症を減らすことが期待できる。また、虹彩切除を行わないため、前房出血の合併症も少ない。ただし、エクスプレス®の挿入するスペースが確保できないため、前房が狭い原発閉塞隅角緑内障は禁忌である。

手技の流れ

  1. 術前処置の点眼はピロカルピン塩酸塩点眼液で縮瞳させておく。
    ※水晶体再建術を同時に行う場合は散瞳し、水晶体再建術終了後にオビソートで縮瞳させる。
  2. 結膜を切開して結膜弁を作製する。結膜切開法には輪部基底結膜切開と円蓋部基底結膜切開法とがある。
  3. 結膜弁作製後、キシロカイン®でTenon嚢下麻酔を行い、ジアテルミーで強膜上の止血を行う。
  4. 半層切開の強膜弁を作製し、エクスプレス®のツバの部分が強膜弁で完全にカバーできるように、1辺4㎜以上の強膜弁を1枚作製する。
  5. マイトマイシンC(0.04%)を4分間塗布し、生理食塩液で洗浄のあと、潅流液もしくは生理食塩液を前房に注入するための前房穿刺をあらかじめ作製する。
  6. 25G針で輪部組織に前房への針穴をあけ、エクスプレス®が先端に付いたデリバリーシステムを持って、エクスプレス®を横倒しで前房へ挿入したのち、90度回転させて、先端を留置する。
  7. 強膜弁を10-0ナイロン糸で縫合して、ブレブが形成されるように結膜を縫合する。

4.プレートのある緑内障インプラント手術(Baerveldt緑内障インプラント、Ahmed緑内障バルブ)

国内ではBaerveldt緑内障インプラントとAhmed緑内障バルブの2種類が保険診療で使用可能である。

線維柱帯切除術の成績が不良な内眼手術の既往歴のある緑内障眼や、線維柱帯切除術が不成功に終わった症例に対して、より良い眼圧下降が得られる術式である。

眼内に挿入するシリコンチューブと、チューブから導き出された房水を貯めるスペースとなるプレートで構成される。Ahmed緑内障バルブはプレート内に過剰濾過防止弁が内蔵されており、低眼圧にならない工夫が施されている。

手技の流れ

  1. プレートを設置する領域の結膜を1象限以上2象限未満切開して、Tenon嚢下麻酔を2ml注入する。
  2. 強膜露出後、外眼筋2本に牽引糸をかけ術野を確保する。
  3. プレートを筋付着部から1㎜後方に設置して、ナイロン糸で結紮固定する。
  4. 前房に粘弾性物質を注入し、前房を深くしておき、角膜輪部から1.5~2㎜後方から23Gの針で前房へ針道を作製し、前房に2㎜くらい先端が出るようにベベルアップでトリミングしたシリコンチューブを前房へ挿入する。
  5. チューブをナイロン糸で強膜に縫合固定する。
  6. (Baerveldt緑内障インプラントの場合)プレート内に調圧弁がないため、術後早期の過剰濾過防止のため、チューブ根元を8-0バイクリル糸で結紮して完全閉塞させておく。ただし、この場合はバイクリル糸がある間は高眼圧になるので、9-0ナイロンの針でSherwood slitという切開をチューブに入れておく。
  7. 術後のチューブ露出を防止するために、保存強膜にてチューブを被覆する。
  8. 結膜で術野を覆う。

術後早期は20mmHg前後の高眼圧で推移するが、1~2カ月後に眼圧が下降していくことが多い。

術後成績

  • TVTスタディ:線維柱帯切除術とBaerveldt緑内障インプラントの成績を比較した試験で、線維柱帯切除術が以前に不成功に終わった症例や眼内レンズ挿入眼を対象にして成績の比較がなされた。術後5年成功率はBaerveldt緑内障インプラントを行った群の方が良かったが、角膜内皮障害による角膜浮腫やチューブ露出、眼球運動障害による複視など合併症が多くなった。
  • ABCスタディ、AVBスタディ:Baerveldt緑内障インプラントに比べて、プレートが小さく、調圧弁があるAhmed緑内障バルブでは、術後合併症が少ないが、眼圧下降作用が劣る。

5.隅角癒着解離術(GSL)

隅角癒着解離術(以下GSL)は原発閉塞隅角緑内障で、線維柱帯に周辺虹彩前癒着があり、器質的な隅角閉塞をきたしている場合に、房水流出を改善させるために行う。

前房内に粘弾性物質を注入し、前房穿刺した部位から隅角癒着解離針を挿入して、隅角鏡下で、線維柱帯へ癒着した虹彩根部を隅角癒着解離針で後方へ押し下げ、癒着を解離する。水晶体再建術と同時に行うことで、隅角が開大するため同時に行われることが多い。

術後はレーザー隅角形成術を行い、解離した隅角の再癒着を予防する。

その他にもレーザー隅角形成術、スーチャートラベクロトミー変法、隅角切開術(PASを解除する方法)、線維柱帯切開術眼内法(ナイロン糸、Kahook Dual Blade、マイクロフック)、EX-PRESS手術、周辺虹彩切除術などがある。

緑内障術式選択

1.緑内障術式選択~初回手術

  • GSL+白内障手術:PACG、PACの初回手術
  • iStent+白内障手術:白内障治療が主な目的
  • マイクロフック:若年の有水晶体眼緑内障
  • マイクロフック+白内障手術:中年以降の有水晶体眼緑内障
  • レクトミー:目標眼圧が一桁または点眼中止の必要性

2.緑内障術式選択~主に2回目以降

  • レクトミー:目標眼圧が一桁または点眼中止の必要性
  • アーメド:初回手術無効例または白内障手術が終わっている症例
    • 前房挿入:若年者の有水晶体眼
    • 毛様溝挿入:若年者の偽・無水晶体眼
    • 扁平部挿入:中年以降の緑内障
  • バルベルト:若年者で2個目のチューブシャント

参考文献

  1. 日本緑内障学会ガイドライン(第4版)
  2. 日本視野画像学会HP
  3. どう診る?緑内障視神経乳頭
  4. クローズアップ緑内障診療
  5. 第74回日本臨床眼科学会シンポジウム6強度近視による失明予防に向けて
  6. 今日の眼疾患治療指針 第3版
  7. あたらしい眼科Vol.37,No.3,2020
  8. あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020
  9. あたらしい眼科Vol.38,No.1,2021
  10. あたらしい眼科Vol.38,No.2,2021
  11. あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021

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