重症筋無力症(MG)とは
全身の骨格筋の筋力低下と易疲労性を主症状とする自己免疫疾患で、本疾患における自己免疫機序の主な標的は、神経筋接合部のシナプス後膜に存在するアセチルコリン受容体(AchR)である。MGには眼筋型(眼症状のみ)と全身型があり、約50%が眼筋型で、そのうち50~60%が全身型へ移行する。2006年の全国調査では人口10万人当たり11.8人で女性に多く、5歳未満と20~50歳代にかけて多い。
MGの症状
症状は起床時に最もよく、その後時間経過とともに悪化する日内変動がある。また、運動を繰り返すと症状が悪化し、休息すると回復するという易疲労性を認める。眼科的には上眼瞼挙筋の筋力低下による眼瞼下垂、外眼筋の筋力低下による眼球運動障害や複視を認める。
この眼瞼下垂(約7割)や複視(約5割)で発症し、片眼性から両眼性へ移行することが多い。また、重症筋無力症の約15%に甲状腺眼症を合併することが知られており、甲状腺眼症の諸検査も行うことが推奨される。

MGの診断基準

JBスクエアより引用
眼筋型MGの診断
眼筋型MGの発症は急性で、しばしば上気道炎などの感染症が契機になる。眼筋型MGにおける各種検査陽性率はテンシロンテスト約60%、waning現象約40%、抗AchR抗体約50%程度(全身型では85%が陽性)とされるため、陰性だからといって否定できない。
上方注視試験
上方を1分間注視させ眼瞼下垂の悪化を陽性とする。
テンシロンテスト
エドロホニウム塩化物を投与してコリンエステラーゼ活性を抑制する。一過性に筋力が回復し、眼症状が著名に改善すればテンシロンテスト陽性と判定する。眼筋型MGの感度60%、特異度97%。
アイステスト
アイスパックを上眼瞼皮膚に2分間、直接当てて2㎜以上眼瞼下垂が改善した場合が陽性となる。テンシロンテストに代わる副作用のないテストで、感度は80~92%、特異度は25~100%とされる。
Waning現象
筋電図で反復刺激試験により筋活動電位の振幅が減少する。感度は10~40%、特異度は89~98%とされる。
小児重症筋無力症
15歳以下に発症した重症筋無力症を小児重症筋無力症という。発症機序は成人と変わらないが眼筋型が多い。また、臨床型には眼筋型のほかに、全身型や潜在性全身型がある。
潜在性全身型は日本独自の病型で、症状は眼筋型であるが、反復筋電図で四肢筋に減衰現象を認めるもので、将来全身型に移行しやすいとされる。小児眼筋型における潜在型の占める割合は他覚、特に5歳以下発症例の半数が潜在型とされる。
初発症状の85~90%が眼症状(眼瞼下垂が経過中最も多い)であるが、幼児では複視を訴えることはできず、見た目の変化から家族が発見しやすいため60%以上は初回に眼科を受診する。
診断基準にある上方注視試験とアイスパック試験があるが、小児では偽陰性を示すことがある。アセチルコリン抗体陽性率は小児例では50%程度で、MuSK抗体陽性は非常にまれである。
その他特徴として下記がある。
- 胸腺異常の合併が少ない。
- 小児例のテンシロンテスト陽性率は80%以上である。
- 誘発筋電図における漸減現象は5歳未満発症例で20.3%に見られる。
MGの治療
眼筋型MGの治療では全身型への進行を防ぎ、眼症状も改善することが目的となる。
1.胸腺腫摘出術
胸腺腫があれば摘出する。そのため、胸部CTあるいはMRIをとる必要がある。
2.薬物治療
抗コリンエステラーゼ薬あるいはステロイドを使用する。第一選択薬は抗コリンエステラーゼ薬が第一選択であるが、眼症状の改善が乏しいとされている。それに対して、ステロイドは眼症状に対して有効性があり、全身型への進行を予防可能(10%以下)とされている。とはいえ、いまだその有効性は確立されていないのが現状である。
具体例)
- ビリドスチグミン(メスチノン®):1日2錠分2(朝昼で4時間以上空ける)から開始し、症状に応じて4錠/日まで増やせる。副作用に下痢や腹痛などのムスカリン様作用がある。
- ステロイド:ステロイドパルス療法、ステロイド大量隔日1回投与、ステロイド少量内服漸増法がある。
- タクロリムス(プログラフ®):ステロイド離脱困難、副作用が強い症例などに併用内服が有効とされる。
3.小児重症筋無力症の治療
- 眼筋型では抗コリンエステラーゼ薬(ネオスチグミン)が第一選択薬である。
- 全身型、潜在性全身型ではステロイドが第一選択薬である。
- ステロイド治療は初期増悪、長期投与による成長障害に注意を要する。
- 小児重症筋無力症はステロイド反応性が良いとされている。
- 症状が消失しても、その量を数カ月維持し、その後漸減する。
- 免疫抑制薬を併用する場合がある。
- 年少児では弱視治療を必要とする場合がある(5.5%)。
眼筋型は抗コリンエステラーゼ薬の内服で治療を開始する。眼瞼下垂は眼球運動障害よりも先に治療に良好に反応する。なお、症状に応じて内服量は増減するが、効果が十分でない場合は、ステロイドへ移行する。
全身型および潜在性全身型はステロイド内服から開始し、症状に応じて体重1㎏あたり最大2㎎隔日まで漸増する。小児ではステロイド隔日投与が一般的だが、これはステロイドの副作用を予防するためである。
なお、ステロイド加療では開始後2~5日目に一過性に重症筋無力症の症状が悪化する初期増悪に注意する必要がある。特に、全身型重症例やステロイドパルス療法では初期増悪のリスクが高いとされている。そのため、初回治療にステロイドパルス療法は行われない。
免疫療法をステロイドに併用することがある。どの臨床型でも併用されるのがタクロリムスで、体重1㎏あたり0.05㎎から内服開始し、血中濃度を測定しながら1日3㎎を上限とする。
また、免疫グロブリン療法として入院で献血ヴェノグロブリンIH400㎎/kg/日を5日間投与することがある。しかし、無菌性髄膜炎を発症することがあるため、治療中に頭痛などの症状がないかをよく問診する必要がある。
胸腺摘出術は、全身型に対する有効性は示されており、術後77%で症状が改善し、29%は完全寛解が得られたという報告がある。しかし、実際には術後に免疫機能異常が起こる可能性もあり、思春期以降で胸腺腫や胸腺過形成合併例に症例は限定されている。
これら治療により、内服中止可能となった完全寛解率は21~31%で成人発症例よりも高く、比較的予後は良好と入れる。また、発症から2年以内に、眼筋型から全身型へ変化することがあり注意が必要である。
参考文献
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